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人種と医療格差の問題は日本にもある

昨日のTXP勉強会では下記の論文を扱いました。担当者がアリゾナ大学経済学部の原先生だったので、経済系の論文です。

Chandra, Amitabh, Pragya Kakani, and Adam Sacarny. "Hospital Allocation and Racial Disparities in Health Care." NBER Working Paper Series, No. 28018, November 2020.

  1. 同じ病院がカバーする範囲や同じ地域に住んでいても、黒人患者は白人患者よりパフォーマンスの低い病院で治療を受けている。

  2. 過去20年間で、黒人患者を治療する病院と白人患者を治療する病院のパフォーマンスの差は、3分の2以上縮小した。

  3. この進歩は、黒人患者を治療する傾向のある病院がより急速にパフォーマンスを向上させたため。

  4. 病院のパフォーマンス向上は、低コスト・高ベネフィットであるβ遮断薬の採用と相関がある。

経済学系の論文なので内容はかなり難しく、聞いている人も大半は理解していなかったように思います笑。


抄読会で盛り上がったのは、論文の解析の話ではなく、この問題は米国だけじゃないということでした。こういう論文って、どこか「あー、米国らしいなあ」って思う部分はないでしょうか。

僕は2015年に米国に留学するまで、人種や性差に関する研究がなぜこれほど盛んなのかはあまり理解できませんでした。今でこそ日本でもそのような研究が増えてきているので浸透してきているのだと思います。いわゆるポリティカルコレクトネスですが、当時はポリコレと言われてもピンときませんでした(僕の認識が甘かっただけかもしれません)。

日本は単一民族国家と言われて久しいですが、近年は多様な人種の方達と一緒に生活をするようになってきました。都内を歩くと実感します。コンビニの店員さんやレストランのアルバイトなんかはかなりの数が人種的な意味での外国人が多くなりました。

店員さんが外国人だったら良くも悪くも無意識的に対応が変わっていませんか?というのは一時期話題になったニュースです。本当かどうかは知りませんが然もありなんとは思います。

日本から見たら米国はいつもポリコレで揉めているように見えるかもしれませんが、日本においてもやがて来る未来であろうという意見はもっともであり、すでに起きているとも言えます。多くの人たちは今自分が日本におけるマジョリティであるが故に感じていないだけかもしれません。

医療の現場において、患者さんが外国人で言語が通じないと、もしかしたら医療の質が落ちているかもしれません。この話は2019年のLancetにもcorrespondenceが投稿されています。

Yasukawa K, Sawada T, Hashimoto H, Jimba M.Health-care disparities for foreign residents in Japan. Lancet. 2019 Mar 2;393(10174):873-874.
https://www.thelancet.com/journals/lancet/article/PIIS0140-6736(19)30215-6/fulltext

この論文でも引用されているように、日本で外国人の予後が悪いという既報はあります。逆に医者や医療従事者が人種的な意味での外国人になるかもしれません。そうなったら医療格差はどうなるのでしょうか。

日本の少子化の深刻さを考えると、これは結構現実になる世界線だという議論がありました。皆保険制度がどこまで維持できるかもあります。医療の現場において、遠からず同じような事態が発生するとしても、僕たちの心持ちが間に合っているのかどうか難しいところな気がします。


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