張込20加藤との死闘③

「まずい、この状況で加藤が拳銃を発射したら大変なことになる」
「加藤は佐川巡査部長に気が付いていない」
「そこの2人なにこそこれ話している、両手を上げて俺の前に来い」
「江藤先輩、佐川さんが加藤の背後に」
「頼む、佐川さん」
 佐川は加藤の背後から拳銃を打った。通常では犯人の背後から拳銃を犯人に向けて発射することはありえない。前代未聞の拳銃使用。佐川にも一瞬のためらいがあった。
そのとき、愛が、とっさに
「毅、危ない、後ろ」
 愛は一体どういう了見なのか。
「まだ、警官がいやがったのか」
ズキューン、ズキューン、2発の発射音。弾丸は佐川の腹に命中した。佐川の弾丸は加藤の腕をかすめた。
 加藤の拳銃の弾は残り3発。
 廻りのアベックがキャーと騒ぎ立て逃げ始める。
 時間がない。

「翔子、佐川さんを頼む」
「了解」
 翔子はとっさに地面に置いた無線機を握り、拳銃を構えながら、佐川のところへ救出に向かう。
 加藤が佐川の方を向いている一瞬に、江藤は加藤の背後から飛びかかる。2人はもみ合いになった後、江藤は手刀打ちで加藤の拳銃を叩き落とした。
「加藤もう止めろ」
「エリートのお前に何が判る、地べた這いつくばって生きてきた人間の心が」
 愛は、ポツリと、
「毅、いいよ、一緒に死んであげる、私うすうす気付いていた、この男に騙されているかもって、でも都会で1人じゃ寂しくて・・・」
 が、加藤の耳には届いてない。

 加藤は江藤の両眼を見て太極拳の右前手揮琵琶で構える。江藤は呼吸を整えカラテ天地上下の構え。騎馬立ち。

 佐川の腹から血が流れる。
「すまん、翔子」
 翔子は、ハンカチで佐川の腹を押さえ、無線機で、

「至急至急、本部、現在、港が見える公園で拳銃発砲事件発生、警察官1名と一般人1名負傷、人質1名、犯人と警察官が格闘中、応援願う」
「本部了解、至急現場急行する」
「各局各移動、無線傍受のこと、至急現場に急行せよ」

 翔子は右手で拳銃を構え、左手で佐川の腹を押さえている。この角度から発砲すると江藤に流れ弾が当たる可能性があるために発砲できない。

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