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母の教え№25  嫁と姑たちの戦い(7) 7「ンコ」のおばちゃん


 小姑が通ると、「ンコのおばちゃんが来た」と言って子供達が陰口をたたいていた。
 母は、不思議に思って、小姑の唯一の友達にその理由を聞いたら……、
『近所の年寄りが、井戸端会議をしているところに、生コン車が来て停まったらしい。
 ところが、この車が、何をする車か誰も分からず、ワイワイガヤガヤ騒いでいるところへ、丁度、小姑が通りかかり、『ヨシエさんだったら字が読めるから、分かるだろうと呼び止められて、聞かれたそうだ』
 小姑が、『この車は、横に “ンコ” と書いてあるので、ウンコを運ぶ車だろう?』と即答したら、井戸端会議の皆も、『なるほど』と納得して感心したとか。いわゆる「バキュウムカーだ」ということである。
 実は「生コン」と書いた横文字の「生」の字の上にセメントがついていて、右から読んだら「ンコ」と読めたというのだ。
 この話は、「笑い話」として年寄りから若い夫婦に、また、子供達にまで広まり、小姑を見ると影で噂するようになったとか……。
 この時代は、井戸端会議のメンバーのように、子守や家の仕事の手伝い等が優先して、小学校もろくに行かせてもらえず、文字の読み書きのできない年寄りが多かったようだ。
 母は、この話を聞いたことを境に、姑や小姑のこれまでの境遇を悲しみ、『心から可哀想な人たちだ!』と思うようになったそうだ。 
 その後は、いくら小姑達が気難しいことを言って来ても、『悲しくて苦しい境遇に育った人たちだ!』という気持ちの方が先立ち、腹を立てることができなくなったとか。
 『苦しい境遇に育った人たち』という気持ちは……、
『この人たちを少しでも幸せにしてあげたい』という気持ちに変わり、いろいろ注意されることも、『言われないようにしよう』というのでなく、『言わさないように気をつけよう』というように変わり、何時しか、姑達の立場で物事を考えるようになった。

 母が、姑、小姑への接し方を変えてからも、相変わらず、二人は、気難しいことを言い続けてきたが、もう以前のように、ドギマギすることもなく、冷静に対応ができるようになり、今まで読み辛かった二人の心の動きも、より以上に見通せるようになったとか……。            

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