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まほろばへ行ってきました。(2142文字)



倭は国のまほろば たたなづく青垣 山ごもれる 倭しうるはし
-大和はひいでた国だ。重なりあった青い垣根の山やまにかこまれた大和。本当に麗しいなぁ。

 


その昔。倭建命(ヤマトタケル)は東国遠征からの帰途に故郷大和を想いこんな歌を残したそうだ。
倭建命さんがそうよんだときの心情がとてもよくわかる場所がある。
 そこは、日本三百名山の一つ倶留尊山(くろそやま)の山裾にひろがる曽爾(そに)高原。
奈良県の東北端。三重県境に接する、人口1,300人ほどの集落にある、40ヘクタールほど(甲子園球場約九個)の高原。

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 春から夏にかけては、すがすがしいススキの若葉が青々と生いしげり、秋にはススキが日差しを浴びて斜面は黄金色に輝く。夜には満天の星で、肉眼でも天の川が見えるほどだという。
 ぽっかりそこだけ空気が違っているような、まるで時空のゆがみにでも入ったかのような感覚に陥る。そんな場所。


「ジージージー」遠くに聞こえるエゾゼミの声。高らかにさえずる夏の鶯や燕、虫の羽音に一層の静寂を感じる。
雲の流れ、風の音を感じながら遊歩道をいくと、小さな虫、珍しい湿原特有の植物が咲く。


 家族団らんの週末の夜、たまたまめくった雑誌でここの写真を見つけ、「明日行っちゃう?!」と、相変わらずのとっさの思いつきで、ここを訪れることにした。
 大阪市内から車で約2時間。駐車場につくとそこから遊歩道が伸びている。地図も情報も何も見ずにきたけれど、どうやらハイキングコースになっているようだ。



 リュックに帽子、登山靴。しっかり山仕様の格好をした人たちが先をいく。方やハンドバックに日傘。
私たちは超タウン仕様。誰一人タオルすら持ってきていない。
「スカートやワンピースでこなかったのが幸い」と、場違い感を感じながら足を進める。息子と夫は山の頂を目指し、どんどん遠くなっていく。

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 9年ほどまえ。信州白馬の尾根を夫婦でトレッキングしたときは、息子はおなかにいて、8か月だった。今は先頭にたってあせびっしょりになりながら、スイスイと身軽に山を登る様子に時の流れの速さを感じる。いがぐり坊主に白くて薄い肌着一枚で、まるで裸の大将のよう。がりがりだけど。 

 遠くに見える息子と、中間の距離で時々こちらを振り向きながら、ふたりのペースを見守りながら進む夫。


「ゼ―ゼーゼー」静寂の空間で、自分の息のゼーゼー音で瞑想状態に入りそうになっていく。
来た道を振り返ると、池の水面には夏の空と雲がうつり、山肌にはくっきり雲の影が映り、ゆっくりと動いていく。

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 遊歩道がなくなると、そこからは標高1,037mの頂に通じる登山道。3人合流したところで、本日はここまで。マスクを外すと、まるで毛糸のパンツを脱ぎ、すっぽんぽんになったかのような清々しさがある。
 冷たくて美味しい空気を胸いっぱいに吸う。


 「こんな場所があったのか」と、思わず息をのんでしまうほどのこの景観は、地元の方々のおかげでなりたっている。山焼き、草刈り、肥料やり、刈り取りと、この景色を維持していくのには一年を通して大変な手間がかかっている。

 屋根葺き、飼料、肥料、簾、縄、俵に箒。かつては様々な用途があったススキも生活環境の変化により激減。そのため、杉などの植林計画がすすめられたこともあったそうだけれど、この景観がなくなることを忍びなく思った人々の働きかけで、この場所は県に保護してもらうことになったという。


ある大学で考古学を研究する教授が言っていた。

 本当の意味での愛国心とは、体制や思想ではなく、自分の生まれ育った国の文物や歴史、伝統を重んじて大事にうけついでいきたいと思う気持ちです。

 環境や自然、文化に触れることで自然に形成されるというそれは、
理屈より、教科書改正より、道徳授業の充実化よりも、きっともっと楽しいもの。

巣にかえるアナグマの親子の可愛い姿や長く伸びる飛行機雲が広く見わたせる空、蛇の抜け殻など、自然にふれたときにおこる畏敬の念から生まれるのかもしれない。


 大阪市内から車で約2時間。名古屋市内から車で約2時間半。電車とバスでもアクセス可能な曽爾高原。
 近くにはオートキャンプ場や国立少年自然の家もあり、子ども連れやカップル、ツーリングやサイクリングの人たちも来ておられましたよ~。
 高原の入り口にはクラフトビール製造場や天然温泉、産直野菜の販売所、レストランなどの施設もありますが、おすすめは、そのちかくにある天然湧き水の販売機!
なんと名水百選に選ばれたという水が100円で20リットル。
 たまたま通りがかったため、ペットボトル一本しか持っていなかったので、まずそこに水を汲み、きりっと冷えたお水をガブガブと順番にいただく。それからは顔と腕をバシャバシャ洗うという贅沢使い。汗だくのからだも気分爽快。それでもまだまだ残っていましたよ。

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 昨日の見た景色や体験したことは夢だったのかな?
いや、現実だった。だって通りがかった野菜の直売所で購入したバターナッツカボチャは美味しそうにここにある。そして朝からびっくりするくらいからだが痛いのが動かぬ証拠。


「まほろば」…素晴らしい場所、楽園。
時間とお金、その他のいろんな状況が許す限り、日本や世界各地にあるまほろばを訪れたい。


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