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講演会②工藤勇一先生「かわりゆく じだいと ともにある まなび」その3


3 自立する力を育てるには

 

ポイントは「心理的安全性」と「自己決定」

そのためにも教育は、自立した主体者じゃなきゃいけないし、当事者じゃなきゃいけない。
そういう教育に転換をしなきゃいけないっていうお話を今してるわけです。じゃあ、後半はどうやったら、 現在もう受けてしまった、人のせいにするような子供になってしまった。子供たちがもう1回復活できるのか、またはどういう教育をすべきなのか、そういった話に移っていきたいと思います。

まず、多分、あまり皆さんが聞いたことがなお話をしたいと思うんですけど、 自立するって、自分で考えて行動するとか、そういった、ことができるためには、実は、子供たちに与えてあげる環境っていうのは、心理的安全性がとても大事だし、子供が自己決定、できることがとても大事。そういうお話なんです。

脳神経科学

これが今、科学的に、世界中で、特に先進国を中心として研究が進んでいて、 脳の仕組みをきちんと知ると、自立する人間を育てていくってことが、論理的に分かるようになっているんです。今日は、その一部を紹介します。

今日ご参加の方には、もしかすると、もうすでに、僕の話なんか聞いてる人もいるのかなと思いながらなんですけど、 ちょっと、復習の意味も込めて、聞いてください。

Dancing Einstein 青砥瑞人氏 資料より
・ストレス正常=心的安全状態

思考と注意・不適切な行動の抑制・感情の規制・・・思い描いた行動を誘導する確率が高い

・ストレス過剰=心的危険状態

前頭前野  思い描いた行動を誘導する確率が低い

これは、脳の状態を示しているんですけど、左側は、とても、正常な状態、脳が全くストレスがかかってない状態 で、その時に脳の活性化する部分に、緑青の色が塗ってあります。とても人間らしい部分です。
ものを考える、注意を払うとか、勉強するのもみんなここです。良くない行動を自分で、制御したり、感情をコントロールしたりする部位があります。
ストレスがだんだん増してくると、この機能が低下すると言われています。一般的には、 僕が一緒に本書いた、青砥瑞人さんの言葉を借りると、ノンアドレナリンが出るんだそうです。そうすると、人間イライラするしパフォーマンスが上がらない、 でも、ストレスが、上がっていくんです。その一方でストレスがあった方が、力を発揮することができる場合もあります。その時に、ドーパミンが出るんだそうです。ですから自律型の人間っていうのは、このドーパミンを自分できちんと出せるようになってくると、脳の状態がとても安定するって話なんです。
一般的には、やらされることだけだと、ストレスが過剰に増してくる。怒鳴られたり叱られたりすればするほど、この右側の状態になります。
そうすると、さっきの緑、青の部分が、機能低下どころじゃなくて、機能停止するです。機能停止してしまうと思考できなくなるし、不適切な行動も止められなくなる。例えば、大人同士が口喧嘩始めたのに、だんだん興奮状態になって、思わず手が出て殴っちゃった。普通の大人だったら殴っちゃいけないってよく知っているんだけど、興奮状態になってピーク状態になると、 不適切な行動を制御する脳の部位がているので、もう自分じゃなくなっているってことです。考えられなくなるし、感情もコントロールできなくなっているので、 攻撃性を増してしまったり、または、大きく言うと逃避性が増す、どっちかの行動を取りやすいんだそうです。

これ、大人でもそうなんですけど、ちっちゃい子供、ADHD系の発達に特性ある子供たちなんかは特にこうなりやすいわけです。なぜかというと、 母親が特に育てづらい子供を見て注意しまくるってことですね。
ちゃんとしつけなさいよ、なんて周りから言われると、過剰に叱ることになります。特に発達に特性ある子供たちなんか、叱られれば叱られるほど右の状態になるので、パニック状態になって元に戻るまで1時間とか2時間とかクールダウンするまでとても時間がかかる。この右側の状態が長く続けば続くほど、思考する時間は減るし、脳が活性化しない。

自律型の人材を育てるポイントは心的安全性!

①    失敗が許される環境づくり
②    環境に強い脳を作る

ポイント① 失敗が許される環境づくり (自己決定が重要)

3つの言葉がけ
・どうしたの?
・君はどうしたいの?
・何を支援してほしいの?

自己決定を積み重ねる

自分で自分をコントロールできない、自立できなくなることを示しているわけです。ということは、教育っていうのは、1つは失敗が許される、つまり安心して活動ができる環境を作ることが大事だし、もう1つは、たとえストレスがあっても、さっきのドーパミンじゃないけど、多少ストラスがあっても、それに、自分の脳を安定させることができる力です。この2つを用意してあげることが、教育にとっては、とても重要だってことになります。

1つ目のポイントは、失敗が許される環境作りっていうのは言い方を変えれば、自己決定していますか。今日、大人の方がほとんどなので、 自分に部下がいたら自分の部下を抱えるこの組織が、失敗が許される環境づくりになっているか。つまり、職員が言われたことだけやるんじゃなくて、自分の頭で考えて自己決定できる環境があるかどうかです。
麹町中では、なかなか言うこと聞かなくなってしまった子供たちが入学してくるので、 とにかく荒れる学校なんです。1年生のうちは本当に、手かけられまくっているので学校が大嫌いみたいな子供が入ってくるんです。

言い忘れたんですけど、僕が行った6年間、行ったばかりの頃は麹町は無名の学校でした。
子供たちもほとんど、なんて言うんですかね、千代田区のお子さんたちはみんな私立受験をするので、多分皆さんなんか想像がつかないと思うんですけど、 日本で最も経済的豊かな方々がお住まいなので、ほとんどが私立中学を受験します。で、落ちると公立の中等教育学校を受けて、それも落ちると麹町中に入る。
僕がいた時は、120人が入学してきたんですけど、そのうちの第1希望はたった20人しかいませんでした。 100人はみんな受験をして失敗した子供たちです。その子供たちの姿っていうのは本当にひどくて、立ち歩く子もいれば、授業中抜け出す子もいれば、先生に暴言を吐く子もいれば、誰かをいじめたり、学校のものを盗んで破壊したり。
そんなことが中学1年生で盛んに行われるんです。その子供たちに毅然として叱れって言って、叱れば叱るほどもっと関係が悪くなる。
もう本当に学級崩壊状態です。行った年は4学級のうちで2学級が学級崩壊しましたし、その子供たちにどうやって声かけるかで、教員たちが苦労したのがこの3つの言葉です。
トラブった後に必ず、どうしたって。なんでそうなったの。って聞いてあげますよね。そうかってイライラしてこうやっちゃったのかと。
で、この後どうするって。君、どうしたいの。って。で、なんか手伝うことあるかい。って。してほしいことあったら教えてって。みたいな言葉ですね。

これを命令形で、何やってんだよ。こんなことやったらダメだろう。ちゃんと戻れって。教室戻れとかですね。 謝れとか。ま、こういう命令形をやると、ますます子供たちはダメになってきます。とにかく、自分で決定させて、自分の頭で。叱れば叱るほど、パニック状態の右側の脳になるので、思考はできないし、こっから逃れたいとか、そういったことしか考えられなくなって指導が通らないですね。きちんと自分の頭で考えて理解させるって指導方法です。
ヨーロッパなんかはやっぱこの指導方法が、随分昔から研究されていたんだと思います。
よく自己肯定感が低い子供にしたくなかったら褒めて育てるって、本屋さん行けば褒めて育てるって本が山ほどありますが、実は褒めても褒めても自己肯定感が高まるわけではありません。自己肯定感が高まる100パーセントの方法は、 この子が自分で考えて行動しているか、その経験をたくさん積んでるかってことです。

自己決定→自己肯定感

ポイント② 環境に強い脳を作る(俯瞰的に自分を見つめる)

自分をコントロールする

自分でやってみて、あーうまくいかなかったら、また試行錯誤で調整してみて、あーなるほど、これでうまくいったなって自分で自分を褒めることができる子。この子しか自己肯定感が高まらないってこと。大人もそうですよね。誰かから褒められて自己肯定感は、一瞬は高まりますけど、 自分の本物の自己肯定感には繋がらないってことです。もう1つのポイント、環境に強い脳を作る これは日本の教育ではほとんど言語化されたことがほぼないと思いますね。ようやく最近スポーツの世界を中心として、これがわかる、理論的な、考え方が出てくるようになりました。
環境に強い脳っていうのはどういうことか、自分で自分を見ることができる。自分を俯瞰的に見ることができる、メタ認知能力って言ってもいいですね。
言い方を変えると、自分で自分をコントロールするってことなんですけど、人間はこの自分で自分をコントロールすることが、脳科学的に見ると苦手なんだそうです。

人は無意識に動かされる 90% 考えないで行動したい パターン化

繰り返した行動によって無意識が作られ その意識が自分を動かしている。

これも、青砥さんに聞いてびっくりしましたけど、実は人間は自分で自分をコントローすることが難しい生き物。なぜかって言うと、人間の脳っていうのは エネルギーをとても使うので、可能な限りパターン化したいんだそうです。これ聞いて、またまた僕は驚きました。人間はほぼ90パーセントは無意識で動いていると。いや、僕は生きているのに90パーセント無意識で動いているなんて言われるとドキッとしますよね。ほんとですかって話なんですけど、人間はこう会話もしていますけど、ほとんどがパターンで生きているってことです。これ、なんでかって言うと、 人間の脳は1000億以上の脳細胞があるんですかね。その脳細胞が、考えれば考えるほど、使えば使うほど熱を持つんです。

幼児の脳と大人の脳 
そもそも回路はつながっていない
何度も行動を繰り返していくことによって 
少しずつつながりやすくなっていく
そのうちに何もしなくても出来るようになる

細胞を殺したくないので、可能な限り人間はパターン化して動物のように生きたいってことですね。じゃ、そのパターンって誰が作っているのかっていうと生まれながらにずっといろんな自分が偶然のように行ってきた言動も含めて、繰り返したことが自分の無意識に定着され、それが出やすくなるってことです。一旦ネガティブになった人間がポジティブになれないのもここに理由があります。一度固定化した無意識を変えることはとても難しい。

NHKスペシャルのものをちょっと画像でとってみたんですけど、脳の番組やっていました。これ、左側が幼児の脳で、右側が大人の脳です。
細胞が幼児の場合にはバラバラになっているの、わかりますかね。細胞の数がとても多いです。
人間の脳細胞は2歳が1番ピークで、あとは減る一方だと言われています。大人の脳に変わるのは大体10歳ぐらいでしょうか。10歳ぐらいになるとこのぐらい。もう4、5年生でこんな風になります。
左側の脳は回路が繋がってないので、いろんなものがまだバラバラです。エネルギーもめちゃくちゃ使うそうです。
幼児の脳は、ご飯食べて、そのエネルギーの60パーセントぐらい使うそうです。人間は、大体20パーセントから25パーセントと言われています。
脳の重さは、体重の2パーセントぐらいしかないのに、エネルギーは20パーセントから25パーセント使う。
幼児の脳はもっと使うわけです。ここで気を付けてほしいのは、右側の脳は、細胞がどんどんスッキリしていっていますね。回路がはっきりできるので、できることは、回路が繋がり、もう何度も何度も繰り返していることがやりやすいようにできているってことです。
皆さんはこの結果どうなるかというと、3日坊主になります。新しいことを大人になってからやろうとするとなかなかできない。
幼児のうちはいろんなものができるんですけど、大人になってしまうともう回路が出来上がっているので、新しいことをやるのにとてもストレスがかかります。イライラします。だからどうしても脳はやめなさいと3日坊主になるのがごく普通なわけです。でも、 何度も何度も行動を繰り返していると、そのうち脳細胞が繋がっています。シナプスが繋がり、回路が太くなります。あの回路が太いパイプがありましたよね。
例えばピアノも習い始めた頃は、譜面を見て頭で考えて指を押すと、回路を作っているわけですけど、だんだん繰り返していると、譜面を見るだけで指が勝手に動くようになる。すごいですよね、人間っていうのは。
つまり、そういう回路ができるから勝手に指が動くようになるわけです。これと同じことが皆さんの日常の言動だっていうんですよ。わかりますかね。
皆さんが友達と喋ったりするのも、このピアノのことと同じように、瞬間的に無意識が出てくるということです。

固定化した無意識を変えるには?


ルーティン モデリング 

じゃあ、 一旦ネガティブな人間がポジティブになろうとか、なかなか身につけられない技術を身につけられるようにしようとか、そういった固定化した無意識を変えていくためにはどうすればいいのか。
これが教育ってことです。で、昔の日本の教育は、とにかく根性だと。やればやれ、やっていくうちにその回路ができるみたいな指導をしていたんですけど、全然違うんですね。精神力じゃないんですよ。
精神でやったらできないように人間は出来ているわけです。元々続けられるように出来ていると。

優れた人たちは、みんな今は、最近は脳科学を利用しています。よく知っています。大谷君なんかもそうですね。彼は自分を、あの練習をもなかなか続けられないことを知っているので、癖をつけようとして、つまりルーティーンってやつですね。
イチローくんもそうですし、優れた方々は自分を知ってそれを仕掛けて、 癖をつけるための方法をやります。

一応、大谷くんがピッチャーマウンドに向かう時に白線を踏まないみたいなことは、あれはルーティーンと言いません。
我々のスポーツの世界ではルーティーンって言っていますけど、あれじゃないんです。あれは単なるおまじない、願掛けみたいなもんですね。
練習方法でなかなか忘れそうなものを、きちんとその仕掛けを作る。

もう1つ、これもスポーツの世界の方々はよく使います。
自分を俯瞰的に見ることはとても苦手です。だから、例えば鏡に自分の姿を映すとか、ビデオで撮ってチェックをするとか。
モデリングをするってことです。職人の世界でも、最近では使われるんだそうです。
原田左官工業所っていう、東京の文京区にある、ちっちゃな30人ぐらいの会社が、メディアによく取り上げられます。なんでかって言うと、左官業を1つに絞って考えてみると、左官のこの仕事って、すごく技術が必要で、職人技だそうです。
10年ぐらいで、ようやく一人前、職人になるって、若者たちがずっと安月給で下積みを10年も続けるかって、そんなことはなかなか難しいですよ。昔の職人っていうのは、人の技は盗んでやるもんだって、やっぱ精神主義が日本の文化の中に結構根強くあります。でも、この原田左官工業所は、 若者が入社してわずか2か月で仕事を覚えて、4ヶ月で現場に立てるんだそうです。3年ぐらいで、 昔のプロの10年ぐらいの技術を身につけて、柔らかい頭で新しいデザインをどんどん生み出して、とても人気のある会社だそうです。何をやっているかというと、さっき言ったビデオです。
優秀な職人の技をスマホに入れて、また自分の姿をビデオで撮り、 見比べながら、肘の位置、こね方とか、そういったものを可能な限り最短で、1番いい回路を見つけてくって、みたいなことです。

脳は良くも悪くも「繰り返し」が重要

お分かりだと思うんですけど、人間の脳っていうのは、良いことも悪いことも繰り返されると定着するってことです。ですから、 優秀な人っていうのは自分を見つめる能力があって、自分にはどんな癖があるか、その癖を変えるための仕掛けを作るってことです。

例えば・・・ 忘れない工夫 思い出す工夫 手にメモを書く

例えば、忘れっぽいなら忘れない工夫をしたらどうか。いや、忘れてもいいから思い出す工夫をすればいいんじゃないか。例えばこんなことですね。
小学校の高学年ぐらいになるとやっている子がいますよね。手のひらに書いて忘れ物しないようにする、これですね。これ、最高の工夫です。
子供たちは、自分が忘れっぽいのを知って、ここに書いたら思い出せるだろうっていう工夫をした。まさにメタ認知です。
この延長線上に優れた人間があるから、実は教員たち、大人はこれを褒めてあげる必要があるんです。本当はすごいことなんですよ。
ただ、だんだん情報量が限られてくるので、この方法では通用しなくなるわけですけど、こんな仕掛けをしたらいいんじゃないのって話なんですが。

頑張るんじゃなくて 自分自身の「トリセツ」をつくる

日本の教育は、大人も親も先生たちもやたら使う言葉があります。これ、英語にはないって言われている言葉です。
日本語独特の言葉で、頑張れですね。僕もよく使いました。
でも、頑張れって言葉は決していい言葉ではないんです。タイミングが悪いと、ほとんど落ち込ませます。なぜかというと、人間は、さっき言った通り、頑張れないように脳ができているからです。全員が3日坊主になるようにね。
頑張れ頑張れって育てられた子供は挫折しやすいってことです。タイミングが悪いとですね頑張ったつもりなのもできない。あー俺は頑張れないダメなやつだって思いやすいってことです。これ、職業でも1番辛い職業があります。学校の先生です。
学校の先生たちは、子供たちに頑張れ頑張れっていうので、自分を追い込む先生がとても多いです。
夜遅くまで働いて、徹夜みたいにして授業準備するのに、子供たちがうまくいかないと、自分を責める、あ、自分は能力がない、って思っちゃったりするわけです。実は、脳のことを知って頑張らないことを知って、仕掛けを作ってく。

ネガティブな自分でさえも変えることが出来る

例えば、ネガティブだって自分のこと思う方がいたら、これも、ポジティブな言葉を発する仕掛けを作っていくと、ポジティブな言葉が出やすい脳に変わっていくので、実は、行動が変わっていく。
自分自身が変わってくってことです。本にも書いてありますんで、興味のある人は読んでください。(その4に続きます(その4まであります))



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