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社風 #38

⒈組織(企業)文化の重要性

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2.組織(企業)文化と企業風土 

組織(企業)文化とは、企業の構成メンバーの間で共有された価値や信念、思考様式や行動規範などを指します。

経営理念と異なり、組織(企業)文化は明文化されていないことが多いですが、企業の構成メンバーの判断や行動に対して少なからず影響を与えています。また、創業者のメッセージや生き方・個性などが企業内に語り継がれ、組織(企業)文化を形成することも多くあります。

一方、組織(企業)文化と似た概念として、企業風土 があります。企業風土とは、企業に所属する構成メンバーが企業内部で感じる、その企業独特の雰囲気のことをいいます。個々に感じる主観的な感覚が集約されて、企業全体の雰囲気として伝わるもののことです。

また、個々の感じる感覚が同質的であるほど、強い企業風土となり、構成メンバーに影響を与えるようになります。企業風土は、組織(企業)文化の原型として理解することができます。

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「社風」とは、この組織(企業)文化と企業風土の両方を包含した概念だと考えて良いと思います。

3.組織(企業)文化の機能

強い組織(企業)文化は、構成メンバーの一体感を高め、企業を安定化させる一方、逆機能として、組織の硬直化を招く可能性も秘めています。

4.組織(企業)文化の醸成とは

ニューヨーク・ヤンキース は、ワールドシリーズ史上最多制覇を誇る屈指の強豪かつ名門球団です。一時は地球上で最も強い野球チームと言われていました。

 伝統的に規律を重んじる“名門”チームは「紳士たれ」が文化です。ですので、ヤンキースに所属する選手もその規律を尊重します。

ワイルドさがトレードマークだった「ジョニー・デイモン」もニューヨーク・ヤンキースへの移籍が決まると、以下の通りです。

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組織に文化が醸成されるとは、こういうことを言うと思います。このこと自体にはメリデメがある思いますが、いずれにしてもそのような文化が組織に所属する人の言動に影響を与えるという事実を理解することが大事です。

5.T電力の山本保安部長のケース

社風を考える一つの材料として、以下のケースを考えてみます。このケースは以前取り上げた「ビジネスエシックス」にも関係するテーマです。

T電力は多くの都市に電力を供給する大手電力会社だ。ある冬の朝、出勤したばかりの山本保安部長に区役所から電話がかかってきた。
「S地区で大規模な停電が発生しています。至急対処をお願いします。この地区にある病院の補助電力では本日中にも病院機能が麻痺してしまいます。病院機能が完全に麻痺すると入院患者はもちろん、お年寄りなどの外来患者へも影響します。過疎地区ですから近くに大きな病院もありません。それにこれだけ寒ければ、地域住民の生活にも大きな支障が出ます。」
山本はすぐに送電線の通電状況を調べ、断線箇所を特定した。断線したのは、S地区北部の山中で、変電所から少し離れた地下の配管であった。山本はやっかいな工事になることを想定して、異例とも言える20人の作業員を召集し、現場に向かった。
断線箇所をチェックしていたエンジニアの川上係長が、山本に状況を報告した。
「現在、断線している配管の下にガスが溜まっている箇所があり、工事をすると爆発を起こす危険性があります。」
「なんだって?!爆発の確率はどのくらいだ?」
「確率まではなんとも。ただ、わかっていることは、配管箇所の斜め下にガス鉱脈があり、そのガスが溜まっているようだということです。通電作業中に境になっている壁が崩れてガスが漏れ出すと、引火して爆発を起こし、作業員が生き埋めになるおそれがあります。」
「そのガスを抜き取るのに何日ぐらいかかるのか?」
「機材を調達してガスを抜き、安全確認をするまで、最低でも1週間はかかります。費用にして5億円です。断線修復のための配管作業がガス岩盤と平行に進めば爆発は避けられますが、どこかに接点があれば、爆発の確率は高くなります。」
「いったいなぜ、そんなところに配管してあるんだ」
「配管後にガス鉱脈があることに気づいたようで、要注意工事ポイントになっています。工事の判断は現場の保安部長に一任されています。」
「そんな馬鹿な」
保安作業員は原則として嘱託社員で、一日作業することで5万円の歩合給を得ていた。電力会社は、石油価格の高騰や、IPP(独立系電発事業者)などの新規参入者の増加で競争が厳しくなったことから、収益性が著しく悪化していた。T電力も毎年の経営は赤字と黒字を行き来する低調さであり、経営陣も口を開けばコスト削減、顧客サービスと叫んでいた。顧客サービスが悪ければ、IPPや他エリアの電力会社に契約を奪われることも多かった。
「病院機能を麻痺させるリスクを取り、しかもこの寒空に1週間、電気のない生活を地域住民に強いると同時に、5億円の損失を出してでも100%安全の道をとるか。多少の危険は覚悟してすぐに復旧工事を行い、地域住民への奉仕を優先させるべきか。作業員を遊ばせるわけにはいかないし、コストの5億円も大きい。しかし、もし爆発が起きたら、とんでもないことなる」
山本はしばらく自問自答していた。その最中にも、復旧見通しの報告を求める役所からの電話が鳴り続けていた。
山本は作業長を呼んだ。
「危険なエリアだから用心して降りるように。予想外のガス噴出もありうるから、異臭には気をつけてくれ。当然だが、穴の中でのタバコは厳禁だからな」
「わかっています」と作業長は答えた。
はっきりしないリスクのために1週間、顧客である地域住民に電気を使えない生活を強いるのか。病院機能の麻痺は地域住民に大きな影響を与えそうだ。入院患者の生命にも関わるかもしれない。それとも、リスクを恐れず、顧客奉仕を最優先するのか。
ガス爆発といっても、顧客の安否には関係ない。そんな中で復旧を引き延ばせば、官僚的対応と批判され、他の電力会社に顧客を取られるかもしれない。
しかし、リスクを冒して復旧作業を進めたために爆発事故が起こり、地中に作業員が取り残されたらどうするか。さらにリスクを冒して救助を目指すのか。それとも地中に取り残された人を犠牲にしてでも、ガスを抜くために1週間待つのか。

出典:グロービス・マネジメント・レビュー(ダイヤモンド社)

こうした状況を考えながら、山本保安部長の立場にあったら、どの時点でどのような判断を下すか考えるというのが、このケースです。

あなたが山本保安部長なら、どのような決断をするでしょうか。

それは、あなたの倫理観と共に、その組織(企業)が持つ社風もあなたの判断に影響すると思います。

このT電力は、何を重視し、大切にする会社でしょうか、そして、あなたはその空気に従うか、それとも自らの倫理観、信念に基づくでしょうか。ぜひ、考えてみてください。

言うまでもないですが、このケースに模範解答はありません。

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