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おうまの写真を撮っているEX~おうまの映画を見ている

 ドーモ、タイラダでんです。よくいらっしゃいましたね。

 さて、僕はライトな競馬ファンだが、ライトな映画ファンでもある。最近はもう胸を張って映画好きですオタクです、と名乗れるほどの数は見てはいないが、映画館で映画を見ることをためらわない(そしてペプシやパンフに払う金をためらわない)程度には映画が好きである。
 そうなると当然「競馬の映画を見よう」という結論になるわけで、見たからには感想を出力したくなるわけであって。
 つまるところ、これはそういう記事なのである。

1『ドリーム・ホース』2020年制作/イギリス

 イギリスの片田舎で専業主婦やっている主人公(こういうキャラの常だが、代り映えのない生活や景色、退屈な日々に倦み疲れている)が、パート先の酒場で見かけた元馬主の話に触発されて「あたい……馬主やってみたいかも……いやちがうわ! あたい、馬主になる! そうよ、きっとあたい、そのために生まれてきたんだわ!」と一念発起。だけど競走馬を買うだけの資産は持ち合わせていない……どうすれば……。
「そうか、みんなでお金を出しあえばいいのよ。一人だけの夢ではなくてみんなの夢にすればいいんだわ!」
 かくして投資の名目の元、町のみんなに声をかけ集まった資金で繁殖用の牝馬を購入。その牝馬の命と引き換えに生まれた子馬は「ドリームアライアンス(夢の同盟)号」と名づけられ、競走馬としてデビューを果たす。町の顔役や税理士、酔っぱらいなどの素敵なサークルメンバーと一緒に、目指すはウェールズ地方最大のビッグレース、「ウェルシュナショナル」! 
 という実話ベースの物語。ウェルシュナショナルはイングランドでいうところのグランドナショナル(イギリス最高峰の障害レースで、人気や売り上げは本家ダービーをしのぐらしい)で、それに勝つことは大変な名誉なのである。それを競馬のことをほとんど知らない主婦が主導するサークルの所有馬がやってのけたわけなのだから、ドラマチックに過ぎるというものである。映画にもなろうというものだ。まあ、競馬の神様がドラマ性大好きだということは数々の事実から証明済みなので仕方のないことではあるが。
 作品としては「発端→奮闘→挫折→復活→ハッピーエンド」という王道展開で、はっきりいって面白い。陳腐すぎる表現だが「笑って泣けて、最後は笑顔で大団円」という言葉がバッチリとハマる、娯楽映画のお手本のような作品だった。競馬の知識は無くても大丈夫だが、多少はあったほうが登場人物の葛藤や喜び、劇中で起こる事態の深刻さがより呑み込めて、話に入りやすいのではないかと思う。
 最後になるが、今作はかなり「ウェールズのお話」であることを意識しており、スタッフも地元出身が多くを占め、劇中で使用する曲も「ウェールズの酒場でかかっていそうな曲」「地元の酔っぱらいどもが景気良く歌っていそうな歌」という風情のものにしたらしい(逆に競馬場での音楽はクラシック風の荘厳なものにして、主人公サークルの場違い感を強調するという演出にしたそうだ)。
 そのせいか、劇中で一番よく使用される歌が「自分に振り向いてくれない女が別の男と寝ていたところに押し入って、ナイフでそいつらを刺し殺した男の歌」であり、エンディングはキャスト陣とモデルとなった人々(まだご存命である)が肩を組んでその歌を合唱するという、なんとも味のあるものになっていたのであった。

2『セクレタリアト/奇跡のサラブレッド』2010年制作/アメリカ

 時は1968年。主人公であるペニー・チェリーは、倒れた父親の牧場を周囲の反対を押し切って相続し、競走馬の生産に着手する。専業主婦と牧場経営の掛け持ちに悪戦苦闘しながらも、父の時代には赤字続きだった牧場経営の立て直しに成功。そんな中で生まれた一頭の子馬を、ペニーは牧場の専属秘書の助言から「セクレタリアト」と名づける。セクレタリアトはデビュー戦こそ敗れたものの、そこから怒涛の連勝を開始。ついにはアメリカ競馬界の名誉たる三冠戦(ケンタッキーダービー・プリークネスステークス・ベルモントステークスの三レース)に挑むこととなる。立ちふさがるは強力なライバルである「シャム」号。はたしてセクレタリアトはシャムに勝ち、三冠の栄誉に輝くことができるのか―—。
 セクレタリアト号。競馬に詳しくない人にはなじみのない名前だろうが、アメリカ競馬の歴史に残る名馬であり、「米国三冠馬」の栄光をつかみ取った一頭でもある(ネタバレ)。
 というわけで、こちらも実話ベースの物語。「三冠戦の全てでレコードタイムでの勝利」「三冠の最終戦であるベルモントステークスで2着のシャムに31馬身の差をつけて勝利(1馬身=約2.5mで計算してください)、なおかつ、この1973年に記録されたレコードタイムは2023年現在でも破られていない」「死後に解剖したところ、心臓が他のサラブレッドの二倍以上の大きさだった」「米国のメディアが選んだ『20世紀最高の北米スポーツ選手ベスト100』に競走馬ながらランクイン(さすがに物議を醸したそうだ)」「同重量の黄金よりも高い金額で取引された」「同馬の写真がタイム誌の表紙を飾る(競走馬で唯一、イラストではもう一頭いるらしい)」など、イチローコピペ並みの伝説を持つアメリカのヒーローが、映画化されないわけがないのである。
 ただし、エンタメ映画としての面白さはあきらかに「ドリーム・ホース」のほうが上ではないかと感じる。シナリオの完成度は正直言ってあまり高くない。とにかく各エピソードがつぎはぎで、いたって説明不足であるという印象を受けてしまうのだ。予備知識がない人が見たらチンプンカンプンなのではないだろうか(特にコイントスの場面など)。だからだろうか、日本では劇場でかかることはなかったようだ。もしかしたら、あまりにも同馬が有名すぎるので細かい部分は端折っても大丈夫などと思われてしまったのかもしれないが。
 褒められる個所はレースシーンだろうか。ここを外してしまうと競馬映画としては大失敗の部類に入ってしまうと思うが、さすがにそんなことはなく大迫力のいいレースシーンに仕上がっていたと思う。三冠2戦目のプリークネスステークスは実際のレース映像を使うなどの工夫もあり、なかなかのものだった。

3『ライド・ライク・ア・ガール』2019年制作/オーストラリア

 オーストラリアはメルボルンで行われるメルボルンカップ。その開催日はメルボルン市の祝日(素晴らしいことだ。僕はつねづね、日本ダービーの日と有馬記念の日は国民の祝日にするべきだと考えている)であり、「国の動きを止めるレース」とも呼ばれるオーストラリア国民にとっての一大イベントなのだ。
 3200mの長距離で争われる同レースで勝つために必要なものは、チャンスが訪れるのをじっくりと待てる忍耐力と、いざ訪れたチャンスを決して逃さず勝負に出ることができる決断力――つまるところ、騎手としての腕なのである。日本でも馬券術の一つとして「長距離戦は騎手で買え」という格言が伝わっているように、長い距離のレースでは馬の実力とともに彼らを導く騎手の実力が物を言うとされているのだ。
 その伝統と格式あるレースを女性騎手として初めて制したのが、この映画の主人公のミシェル・ペイン騎手であり、ストーリーは彼女が歴史に残る偉業を果たすまでを描くものである。
 というわけで、またまた事実を元にしたストーリーであり、またまた女性が主人公なのであった。
 競馬界というのは極端な男性社会で、その中で女性が結果を出すということは簡単なことではない。劇中でも露骨すぎる女性差別が何度も描写されるが、それを持ち前の負けん気と行動力、そして何よりジョッキーとしての実力で覆していく様子がこの映画のカタルシスを支えている。
 男性社会の壁を「押し倒していく」ミシェルの快進撃もいいが、この映画の魅力の一つにミシェルの兄であるスティーブの存在が挙げられるだろう。
 スティーブはダウン症患者である。競馬界におけるミシェル以上にハンディキャップを背負っていると言える存在だ。
 しかし彼は決して、そのことを後ろ向きにとらえない。いつでも軽いユーモアを口にしながら、一流の厩務員(競走馬の身の回りの世話をする役割の人をいう)としてミシェルの相棒であるプリンスオブペンザンス号の面倒を見ていくのだ。そして馬だけでなく、ミシェル自身の心の支えにもなっていく。ミシェルが偉業を成し遂げるに当たって、スティーブが果たした役割は決して小さなものではないと思う。
 そういう重要キャラを、障害者だからと変に力の入ったものではなく自然体で演じきった役者のうまさが印象に残ったので、一体どんな人なのかと思いエンドロールで確認してみた。
 「スティーブ:HIMSELF(本人)」
 ……ご本人だったのか。 

4『今日もどこかで馬は生まれる』2019年制作/日本

 最後は日本競馬を扱ったものである。だが事実を元にした劇映画であるこれまでの3本と違い、この映画はドキュメンタリーだ。
 扱うテーマは「経済動物としてのサラブレッド」であり、ありていに言えば経済動物であるがゆえの「負の側面」である。
 そもそもサラブレッドとは、ひたすら速く走る馬を作ることを目的にした品種改良(という名の近親交配だ)の果てに生み出された、自然には決して存在しない種である。
 近代競馬とは、極論すればその試走の場であり、そこで勝ち残った馬が新たな親としてその血を後代へとつないでいく。優秀な種牡馬の精液は数百万円の値を付けられて、優秀な繁殖牝馬を受胎させる。そうして生まれてきた子をまた走らせて選別していく。その繰り返しでサラブレッドたちは、より速く、そしてより強く進化「させられて」きたのである。
 では、勝ち残れなかった馬はどうなるのだろうか? 競走馬として、繁殖用の馬として、価値がないと断ぜられた馬たちはいったいどうなってしまうのか。 
 たとえ競争馬として価値がないとされたとして、倉庫に死蔵しておくという訳にはいかない。なぜなら馬は生き物だからである。生きている限り食事代もかかるし、飼うための土地や施設の維持費、さらには世話する者の人件費だってある。ではどうすべきか。
 映画の中で最初に取り上げられるのは、屠畜の現場――食肉工場である。
 この道50年だというベテランスタッフは語る。競走馬はたまにしか来ないが、彼らは賢いので自分が殺されることがわかっているような様子を見せることも多い。殺す瞬間、馬が涙を流しているのを見たこともある。仕事だと割り切らないと、とてもやっていられない……。
 驚くべきことに、サラブレッドのどれほどがこのような運命をたどるのかについて、きちんとした統計はないのだという。しかし他の統計から推測するに、年間数千頭の馬が「用途変更」「所在不明」(これらの言葉は競馬界では「食肉送り」とほぼ同義である)になっているらしい。
 なんとも悲しい、やるせない話だ。しかし「では元から食肉用である牛や豚、鶏ならばいいのか」と問われれば答えに窮してしまう。競走馬だろうがイベリコ豚だろうがブロイラーだろうが、人間の欲望のために彼らの命を奪っているということには変わりないからだ。
 今作はそういった、競馬好きが普段は「横目で見ている」部分にスポットを当てていく。
 映画は引き続き、競馬に関わる様々な人々へのインタビューを敢行していく。生産牧場主、調教師、厩務員、競馬記者、馬主。様々な立場の人たちが、この問題についての考えを述べていく。
 ここで述べられる考え方は実に様々だ。馬が若いころから厳しい訓練を課すことで勝てる可能性を少しでも上げる、引退馬専用の牧場を立ち上げてそこで死ぬまで面倒を見る、または「悲しいけれども仕方がない」と現状を割り切って受け入れる―—実に多種多様である。
 おそらく正解は、すべての問題を一気に解決する「銀の弾丸」などは存在しないのだろう。
 いや。「銀の弾丸」は、本当はあるのだ。
 それは競馬を即刻中止することだ。
 そのうえで、野生には戻れないサラブレッドたちは、競馬関係者が死ぬまで面倒を見てあげればいいのだ。動物愛護の立場から、そういう意見を持つこともわからなくはない。
 しかし、そんなことはできないし起こりえない。それはなぜか。
 競馬が簡単にはつぶせないほどの「巨大産業」だからである。
 国営賭博である中央競馬の売り上げは、2022年度で約3兆2938億円。そのうちの何割かが国庫に納められていくようになっている。そういうシステムが出来上がってしまっている以上、そして競馬産業に関わる数多くの人々が存在している以上、ドラスティックな解決策など全く現実的ではない。現実は、SNS上で口汚くののしっているだけでは決して変わらないのだ。
 だからこそ、地道な取り組みが、救える命を一つでも増やしていく行動が必要なのである。たとえば馬のセカンドキャリア(乗馬用に転向するなどだ)を支援するような活動を始める。または、馬の糞を肥料として有効活用する仕組みを作ったうえで、そのための馬として引退した競走馬を引き取っていく、などだ。映画は最後に、そのような取り組みをしている方々を紹介して終わる。
 そういうつくりだから当たり前ではあるが、見終えてから改めて、競馬ファンとしての自分の立場というものをしっかりと考えさせられた。
 関係者でも何でもない1競馬ファンの自分にできることは、そう多くはないだろう。しかし皆無ではない。
 たとえばそれは寄付(先日大往生を遂げたナイスネイチャ号のバースデードネーションには、僕も少額ではあるが寄付させてもらった)であったり、公式の窓口に愚痴ではなく意見を送ることであったりするだろう。他にも何かできることがあるかも……競馬ファンである、ということは、もしかしたらそういう問題ととことん向き合っていくことなのかもしれない、などということを思いながら映画を見終えたのであった。

未来へ……

 そんなわけで、見た順に感想を書いてみたわけであるが、当たり前だが「競馬の映画」とは決してこの4本だけではない。とりあえずアマゾンプライムで見られるものを続けて見ただけの話である。プライムにない作品としてぱっと思いつくのは洋画ならば『シービスケット』、邦画ならば『優駿』あたりだろうか。機会を見つけて視聴していきたいものである。
 
 それはそれとして、関係者の皆様。
 『ウマ娘 シンデレラグレイ』『ウマ娘 ROAD TO THE TOP』あたりは、劇場でかけられるだけの作品になるポテンシャルを十分備えていると思われます。ぜひぜひご検討いただく思う所存です。シングレは三部作とかでも全然アリですよ。

【おわりです】

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