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『夜明けのすべて』は、押し付けない。

僕は新海誠監督作品のファンで、出演者のことも須らく好きです。
監督の耳、サブスクで共有してほしいくらい。彼ら、いい声なんですよね。

『君の名は。』に出演している上白石萌音さんや、『すずめの戸締まり』の松村北斗さんのことも須らく好き。

……と、なんとこの二人が実写映画で共演しているらしい。
しかも、世界的な「ベルリン国際映画祭」に出品されたということで、なおのこと気になる。

ということで、今さらながら日本の映画館で見てきました。
『夜明けのすべて』という作品。
原作は瀬尾まいこさんによる同名小説。監督は三宅唱さん。
月経前症候群(premenstrual syndrome : PMS)に悩む女性と、パニック障害を抱える男性の物語。

(以下、ささやかながら劇中のセリフに関する言及があるので、まっさらな状態で見たい方にはオススメしません。やめとけ)

病気を笑い合う。バカにしあうこと。

細かいことを長々書くつもりはありません。見てほしいです。
(良さを書ききれないし、僕の筆力の弱さは隠しておきたい)

PMSに悩む藤沢さん(演・上白石さん)と、パニック障害を持つ山添くん(同・松村さん)。
同じ職場で働く中で、それぞれの病気や障害に気づき理解し、触れ合っていく。

ただし先に言っておくけれど、そこに恋愛的な要素はまったくありません。
この映画の魅力は、そうした前提のもとに、その先にあります。

彼らは、お互いの病気をバカにしあいます。
劇場で見たきりなので、一言一句合っているかはわかりませんが――

「PMSのせいにできるのいいですよね」
「パニック障害のせいにしてるでしょ」

後半、偶然鉢合わせた二人、雑談の中のキャッチボール。
本当に衝撃的でした。
だって、今の御時世にこんなセリフ、真正面からテレビドラマでやったら、切り取られて怒られるじゃない?
僕だったら恐くて書けません。

「君の病気/障害を理解している」って真正面から表明するのではなく、理解した上で、小馬鹿にする。
これって、現代らしいツンデレですよね。

とってもいいやりとりだと思いました。
さらに、この文脈に対して瞬間的な拒否感を覚えてしまった観客に向けてのメタファーか、藤沢さんは「言っても大丈夫かなと思って」と、ちゃんとフォローをします。

とっても切実なのに、無理のない等身大なシーンだと思いました。

言えない、言わない、美学。

作中において、病気/障害を持つ彼らの周囲は、非常に穏やかでした。

たとえば、藤沢さんが体調不良で早退したり、山添くんがパニック障害の発作を起こしたりした時。
職場の同僚は心配するけれど、決して白い目で見ない。
そこには「直接はうまく言えないけれど、心配してるよ」というメッセージが確実にこもっていました。

そして、そうした言外の穏やかさは作中の登場人物のセリフに留まらず、作品全体に漂っていたように思います。
この作品には「クライマックスが存在しない」と言ってもいいでしょう。
いや、確かにあるのだけれど、そのクライマックスにあるメッセージを押し付けようとしない。

「大丈夫」「わかってる」と言うのではなく、「夜明け」を例に挙げて、「いま辛いよね」と、静かに寄り添う。

そこに上白石さんや松村さんの穏やかな声が伴って表現される様は、原作小説の「文字面」を超えた表現。
気づけば、エンドロールが流れていました。

この作品はフィクションだけれど、しっかりとしたドキュメンタリーだと思いました。

起承転結、すっきり解決を意識させられて、現実を忘れられるようなエンタメ映画が多くある今日この頃。
映画『夜明けのすべて』は、現実逃避も、問題の解決もしてくれません。

しかし、「どうにかできないか」と無意識でも意思を持つ人にそっと寄り添い、ヒントを与えてくれる映画だと思いました。

スクリーンを後にして、久々にパンフレットを買って帰りました。

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