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「サービス管理責任者が足りない」その声の裏側にある現実

私の長い障害福祉支援のキャリアの中で一つだけあげよと言われたら、迷うことなく「サービス管理責任者」と答える。自分のキャリアの軸となっているからだ。

私がこのサービス管理責任者(以下サビ管)を取得した当時、サビ管資格を取るには分野ごとに研修を受ける必要があり、私は「就労支援」分野と「地域生活支援」分野の2分野のサビ管資格を取得し、のちに実際に就労移行支援や共同生活援助(グループホーム)・自立訓練などのサビ管を勤めた。
現在の制度では分野ごとではなく共通講義となった。現在の仕組みについては後程触れるが、このサビ管という役割はとても大変だったがとてもやりがいを持って支援に向き合うことができた。


改めて言うが、サビ管の仕事で最も重要なものは「個別支援計画の策定」である。この個別支援計画というものは単なる「書類」にとどまらず、本人の生活、もっと言えば人生においての方向性を指し示すものでなければならない。先に述べた「サビ管研修」でもこの個別支援計画の作り方に多くの時間が割かれる。

とはいえサビ管の業務はそれだけではなく、利用者個人のみならず事業所全体の統括役であり、各支援員の育成であり、外部機関との連携の主窓口となる大切な存在である。いわばその事業所の「顔」であり、極端な言い方「サビ管の良し悪しで事業所の評価も決まる」と言っても過言ではないと個人的には思っている。障害者支援に意欲があり、専門性を発揮しようと思うならばぜひチャレンジすべき役割。私ならそうアドバイスする。



ただ、そのサビ管が今人材不足に陥っているとよく耳にする。

これは結構重たい課題で、多くの福祉事業所を設立する際には必ずサビ管を配置しなければならない。しかし、新規参入企業などでは、開設間際になってもサビ管を採用することが出来ず、やむを得ずオープンを延期したり、開設自体取りやめにするケースなどもあるようだ。

またやっとの思いで採用できたサビ管が退職されると、事業運営にとっていきなり死活問題が生じこととなる。

全てとまでは言わないけどこれらの事業所はやむを得ず「資質」は問わず「サビ管要件有り」というだけで採用・雇用せざるを得ないのが現実である。そのため、厳しい言い方をすれば「資質の伴わないサビ管」が少なからず存在するのも事実。
先ほど述べたようにサビ管は事業所の顔である。運営者は事業所の質よりも運営基準を満たすことだけに意識を向けてしまう状況だ。


もちろん、組織として長・中期的にサビ管候補者を育成し、経験年数や素質をもとに順次研修を受講させるなど、計画的に人材育成に努めているところも多く、上記は氷山の一角とも言える。ただ我々側からすればそうと言えるのだけど、サービスを利用する側からすると、それこそ「サビ管ガチャ」となる。



なぜこのようなやりがいのある職種が人材不足に陥るのか。
私が組織のマネジメントをしていた時も、近年福祉関係のキャリア相談に携わった時も、一定数は「いずれサビ管になりたい」という方がいたと実感している。まだ要件には達していないがサビ管として必要な「意欲」と「自己研鑽力」のある方々だ。



ここから先はあくまで個人的な意見になるけど、まずサビ管の要件自体に問題がある。ハードルが高すぎるのだ。それらもあり、数年前にサビ管の要件がついに「緩和」された。下の図がその新しいサビ管要件だ。

整理すると
①実務年数の緩和
②分野別から共通(冒頭に述べた通り)
③初任者研修の後、2年以上のOJT後に実務研修→単独配置可能
④更新研修の新設
などとなる。

それぞれケチをつけたくはなるが、1番引っかかるのが③のOJTである。
結局のところ時間的なハードルはクリアされるどころか、状況によってはさらにややこしくされた。


具体例で言うと、まず個別支援計画は必ずサビ管が作成することと決められている。しかし大人数の利用者の事業所ともなると、おそらくは多くのところで「担当制」が敷かれている。例えば、より個々の利用者に深く関わっているそれぞれの担当者が個別支援計画のたたき台を作成し、サビ管はそれらを精査し取りまとめる役割に徹する、という業務の進め方。その際に書類上は作成者はあくまでサビ管となるが、各担当者が「作成補助者」として名前を連ねる。
これらの業務はもう立派な「サビ管のOJT」と言える。

いずれにしても個別支援計画立案の際には支援員が出席する作成会議が開かれているわけで、新人であってもベテランであっても何かしらのサビ管業務には携わることとなる。研修受講後さらにに2年間というのは勿体無い時間に思えてならない。

もちろんサビ管の業務は先ほど述べたように個別支援計画の作成だけではない。しかし、上記の新しいサビ管要件を練り上げた人は、サビ管の仕事は個別支援計画作成だけと思い込んでいるのではと勘繰ってしまうような気分になる。


確か相談支援専門員のコラムでも話したと思うが、私が必要だと訴えるのはサビ管になったあとの研鑽の機会、明確にいうならば定期的な「現任研修」である。これも「更新研修」という名称で新しく制度として加わったが、この部分をさらに発展させるべき。これらは単なる「交流会」ではなく、れっきとした「資質維持・向上のための研修」である。

サビ管から聞こえてくる多くの声は「サビ管として配置されたけど、業務の進め方がわからない」など、初任者研修で学べなかったことが中心だ。これらは実際にサビ管として勤務しないと見えてはこない部分である。しかもこれを指導できる上司は少ない

ではそんな上司はどうするのか。
「君に全て任せるから」
これがサビ管が孤独に陥ってしまう致命的な言葉かけである。
驚くほどこのやり取りは多い。


この状態は最悪「早期離職」と繋がり、その事業所はサビ管迷子状態となる恐れがある。
せっかく高い志をもって立ち上げた福祉事業所が、サビ管不足により次々と閉鎖に追い込まれる状況は考えただけでもゾッとする。



だからこそ組織任せではなく制度としての「サビ管の現任研修」が重要となる。
サビ管本人も「苦しんでいるのは自分だけではなかった」という安心感も芽生えることだろう。
国も「サービスの質を上げる」ことにこだわるのであれば、入口を狭めるよりも、広げた入口から来られたソフトの熟成にシステムとしてもっと力を注ぐべきである。


国に敵対する訳ではないけど、日本の福祉で一番未熟なのは「制度」であると最近感じている。政治家や有識者が発する理屈は美辞麗句に聞こえるものの、当事者や実際に現場に根を下ろしている福祉従業者の声が不在の制度改革は「結局予算を削るための隠れ蓑」と意地悪く受け止められてしまう。誤解恐れずいうと実際その側面もあるのだろう。


福祉制度は、長年様々な立場でキャリアを積んできた私ですら正直分かりづい。本題のサビ管の要件や、各事業の人員配置基準などまるで「結局覚えられなかった数学の方程式」のようだ。他産業から参入される福祉事業者が、本来重要であるサービスの質よりもこのような複雑な福祉制度にばかり意識が向いてしまうのもわからないではない。
私は様々な他産業が福祉事業に参入することは喜ばしいことだと思う。だからこそ、そのような事業者からして「とっつきにくい」と感じられないように、今一度原点に戻って精査してみてはどうだろうか。




話をまとめるが、私ならばまずはサビ管の種を多く蒔き、根を広く育て、芽生えた枝にきれいな花を咲かせられるような良質の活性剤を定期的に与えること。これらを制度としてシステム化すること。

言うは易し。
でも福祉事業の1番の花は現場である。

『素敵な花を咲かせる』

多くの人がサービス管理責任者としてやりがいを持って活躍できる時代が来ることを、サビ管の先輩として(偉そうに)心より祈っている。




※蛇足ではありますが、COCOLOLAではこのようなサービス管理責任者のための外部専属アドバイザーとしてのサポートも承っています。
一人でも多くのサビ管の心を支えられますように。

最後までお読みいただきありがとうございました。皆様のお役に立てるようなコラムを今後も更新してまいります。ご縁がつながれば幸いです。 よろしければサポートお願いいたします。