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(7)This is,・・United States of America


 チベット・ラサの空港にアメリカ空軍の輸送機が3機とアメリカ合衆国の政府専用機が着陸する。韓国・ソウルから4機はやってきた。
マス・メディアが到着した面々を映し出す。国連の人権調査団とは別行動だと言わんばかりに離れて立つ、米国政府のマートン国務長官が居る。中国外相とスタッフが出迎えて握手を交わす。

大型の輸送機にはSUV車輌が5台づつ積まれていた。それぞれ降ろすと15台が並んでいく。側面には「UN」とロゴが書いてある。国連チーム・・とはいってもほとんどがアメリカ人なのだが。出迎えのバス2台の先導で、会談先兼宿泊先のホテルへ移動していった。

ネーション誌の山田瑠依記者は、アメリカが統治にやってきたのではないかと想像した。
アフガニスタンを撤退して13年が経過した。当時、カブールの米国大使館には4千人ものスタッフがいた。日本の米国大使館には15年前はそれ以上にワンサカ居た。コンサルタント会社から共和党関係者と大使館員だけではなく、統治機構、事実上の政権運営スタッフが20年の間居座った。     属国の自滅党の代わりに日本を統治をするには、4千人以上の人員が必要だったのだろう。今はあの大きなビルにビザ発給や在日米国人、旅行者向け担当者位しか居ない。今回のチベットで、アメリカが何人送り込んでくるか注目していたが、初日だけで150人を超えた。物資の輸送と共に日本大使館の経験者やカブールの大使館の経験者が送り込まれるのだろう。どこのホテルを接収するか、ビルを新たに建てるなりして。

アフガニスタン撤退時は政権交代期の端境期でドタバタした。最後の共和党政権が幕引き前に慌ててタリバン側と合意して、アメリカ撤退を決めた。 そのあとを引き継いだ民主党政権には撤退までの時間が短かったのと、アフガンに居た人材が共和党関係者ばかりだったので、良好な意思疎通ができなかった。アフガンにいるスタッフにすれば、民主党政権がどうなろうと構わない。自分の安全が第一だ。「印象が悪い」撤退方法を取る。支援してくれたアフガン人を蔑ろにし、アフガン政府に黙って、夜陰に乗じて撤退した。

「逃げ足の早いアメリカ」南ベトナムから逃げ出した際のイメージを彷彿させる手段で撤退する。残された現地スタッフが「取り残された」とアメリカ大使館の不当さを訴える。その卑劣さ、卑怯さは、民主党現政権に伸し掛かる。「一体政府は何をやっているのか!」と。
アメリカのメディアは背景も説明せずに、その上っ面だけを映像で流す。そんな劣悪な報道体制だった。空港に群がる人々を映像に撮る。現地スタッフだった人々がに空港に集まり、一緒に連れて行って欲しいと縋る人々を見て、パニックに駆られた人々も一緒になって空港に群がる。
先進国に行けた方が人生変わるかもしれない、そんな輩が集まりだす。  「ご覧ください。夥しい数の人が空港に集まっています。彼らはタリバンに怯えて、出国を願っているのです」と相手にインタビューもしないで歪曲して伝える。そもそも、現地語で会話など出来ないので憶測で話し続ける。

映像はその集まってきた群衆だけを捉えるので「見捨てるアメリカと西側諸国」というイメージだけが視聴者に強烈に残る。短いニュースなので解説は省かれてしまう。これが映像の怖さであり、視聴者がどう思うだろうと考えもせずに放映するTV局にも問題がある。特に日本のメディアは最低だ。海外メディアの現地の映像を流すだけ、現地がどうなっているのか把握しないまま垂れ流す。それもそのはず、日本大使館と日本大使が一番最初に逃げ出しているからだ。日本人が現地に居ないので電話取材もできない。コロナで海外に行けない。仕方がないと映像だけ流す。そんな日本のマスコミに嫌気が指した。誰も日本大使の卑劣さ、外務省の身勝手な判断を糾弾しない。現地の人々の混乱ぶりの映像を流して「仕方がなかった」で済ましてしまう国家でありメディアを抱えた日本。日本も政権交代し、もうあんな酷いことにはならないだろう、自分も職を変え、真実を伝えられる立場になった。このチベットはしっかりと伝えようと意気込んでいた。

共和党と民主党間の姑息な政治背景はさて置くとして、混乱の元にアフガンから逃げ去り、アフガニスタンの不敗神話を増強させたアメリカという黒歴史はしっかりと残された。
最強の大英帝国を蹴散らし、インドまで侵攻して打ち勝ち、ソ連との戦争に勝利し、最強と言われたアメリカ軍を撤退させた。アフガニスタンの強さには箔が付いた。単に、アフガニスタンには地形的な優位性があるのと、軍事的な統治だけで、全く民族融和政策を考えなかったこの敗れた3ヶ国が悪いだけのだが、そこには絶対に触れない。
アメリカに至っては、ベトナム、イラク、シリアの教訓が全く生かされていない。ただ単に引っ掻き回しに行って、勝手に敗れただけの話だ。「国内統治は傀儡政権の仕事。その位は自分達でやれよ」と、勝手に線を引く。「やるつもりがないなら、最初から行くなよ」と言う話なのだが、現地スタッフは徹底的に手を抜くし、遠い本国では「よしよし、ちゃんとやってるな」と嘘で塗れた現地レポートを見て安堵する。
何時まで経っても、ずっとベトナムと同じスタンスのままだ。金だけ出して放置し続ける。分析して、改善などしないのがアメリカ合衆国の実態だ。
アフガン、イラク、シリアに介入し、アルカイダを育て、ISを増長させ、アルカイダには本国を攻撃され、ISは中東を混乱させ、最後はイラクとアフガンから逃亡した。これが世界の警察と自称して喜んでいたアメリカの姿だ。これら失敗の数々は何故か反省材料にすら、ならない。それがアメリカだ。

「ベトナムが共産国になれば、周辺国に多大な影響が及ぶ」
「イラクは大量破壊兵器を所有している」
「イスラム過激派が増長すると、中央アジアが大混乱に陥る」といったデマゴーグについては、一切検証されることなく。派兵は成功裏に終わったと自画自賛して終わる。
要は、貯蔵した弾薬と兵器を使いたいだけなのだ。トマホークを都市空爆の為に定期的に消費し、民間人を虐殺して、攻撃を加えたと胸を張る。ベトナム撤退後は暫くおとなしくしていたが、成功した唯一のケース、日本と韓国駐留で美味しい蜜を味わい、ほとぼりが覚めると中東へ出掛けていった。中東の石油が心配だと、国内の石油会社様が懸念を表明したからだ。中東湾岸戦争で勝利し、フセインの生け捕りに成功すると、石油価格が上がった。そこで石油会社様はアメリカ国内でシェールオイル生産に踏み切る。自前の石油で賄えると中東の石油の輸入を止めた。
自ら支援し、育てたフセインを切り捨てて軍事行動を取る。裏には政治的な思惑が隠されているのだが、誰もテキサス州選出の大統領が、その後その石油会社の役員・顧問になっている事実を暴こうとしない。何よりも戦略兵器は未だに見つかっていないのだ。

アフガン介入は、9.11のテロが原因となる。自ら育てたアルカイダに逆ギレされ、貿易センタービルとペンタゴンに民間旅客機の突入自爆攻撃を許す。この時の大統領が、湾岸戦争の時のバカ息子というのだから、笑える。

激高した息子は、アルカイダを匿ってるとタリバンにイチャモンをつけて掃討作戦に乗り出していった。以降、アフガニスタンに居座ること20年間、共和党系コンサルタント会社に軍事費、国連費が中抜されて、傀儡政権は人民の掌握も出来ないまま米軍の庇護下でヌクヌクと私腹を肥やした。南ベトナム政府、日本自滅党と一緒だ。米軍が撤退すると同時に、瞬時に政権が崩壊するような政府・組織しか作れないのが、アメリカ合衆国であり、フィーリングが命の共和党だ。
韓国が未だにアメリカの被害に合い続けている。大統領が変わるたびに、前任者が投獄されるような国だ。アメリカが国作りとか、民衆掌握とか、全く考えていないのがよく分かる。アメリカに貢いでくれれば何でも構わない。賄賂を渡して、大統領解任後はどうなろうが知ったことではない。

では、何故チベットにやってきたのか?話は極めて単純だ。軍事的な緊張がチベットには無い。それ故に弱体化した米軍であっても力を誇示できる。
「共産国・中国に虐待され、占領下にあった民族を開放した」として国民からは賞賛され、軍事予算枠を維持し、多額の税金を使えるようになる。しかも、今回は国連軍として入るので国連からも費用を分捕れる。コンサルタント会社を潤わせるだけの資金位は簡単に集まる。アフガン駐留時のコンサル会社と同じだ。上前を撥ねて中抜きしまくって、お飾りの傀儡政権を作る。
チベットは毟り取られる可能性が極めて高い。アフガンでは見つからなかった地下資源も危ない。チベット高原のチャカ塩湖にはリチウムの大鉱脈があるとも噂されている。塩湖というのが、最近ボリビア・ウユニ塩湖で発見されたリチウムを想像させる。資源が見つかれば、アメリカは大満足だろう。

北京での取材で、元々、中国はチベット開放を計画していたと、とある中国高官から聞いていた。解放後はインドと日本が後ろ盾になってチベットを立て直す計画だったらしい。それが、先の事件でアメリカ参入の余地を作ってしまった。インドと日本の関与については更に確認して取材してする必要があるが、チベットに取って見たら、選択する余地もなくパートナーヅラして現れたアメリカの登場は、今は解放者として歓迎するだろうが、不幸な事件が発端となり、米国が相手となり将来的に大きな禍根が残るかもしれない。

山田瑠依記者のスタンスはアメリカメディアとは違う。アフガン撤退時の米軍、政府寄りの報道「残虐なタリバン、女性蔑視のタリバン、偶像崇拝禁止のタリバン」のといった偏向報道に辟易していた。カメラの前で訴えている民衆は達者な「英語で」話していた。要はアメリカや西側各国が雇っていた人々からコメントを取ったのだ。「アメリカの手助けをしていたから、報復を恐れて怯えている」人々の映像とコメントを取って、タリバンの恐怖に怯える人々として流した。日本のメディアもその映像を垂れ流しただけだった。正確な判断が出来ないアメリカ人。民衆掌握能力に著しく欠ける国なので仕方がないかもしれない。アルジャジーラの報道との差異がはっきり出るのでがっかりした。あれだけの偏向報道を増産し続けたアフガン後の、久々のアメリカ統治だ。アメリカだけに疑って掛かったほうがいい。隣りにいる大勢のアメリカメディアを見てそう思う。彼らもまた、どうやって稼いでやろうか、と考えているのだろう。
だからこそ日本の新聞社を辞め、ネーションに転じたのだ。真実を伝える為に。 山田瑠依記者は、意を新たにした。

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「パキスタン外相がサウジアラビアを訪問し、石油LNGの長期契約を締結」

「ブラジル、チリを中国・韓国企業の訪問団が到着。両国への工場用地等の視察と、南米諸国連合企業と協議」

そんな記事がこの日の新聞に載った。中国そしてチベットを巡って世界が動き始めた。
日本連合としては状況を静観しながら、何かしらの手を打つのか、何もしないまま傍観するか、見極めながら判断するだけだ。その間、粛々と足元を固めてゆく。また、新聞には以下の情報は載らない。そもそも公表していないので仕方がないのだが。

北朝鮮、古豊郡の山中でエクソンモービル社とPB Enagyの合同チームが石油の試掘に成功した。新浦港までの出荷用パイプラインの着工を始める。部材も既に揃っており、用地も確保済で繋げていくだけだ。来月からの出荷に向けて作業に入った。

また、イランの日本油田に自衛隊ビルマ基地の工兵部隊が到着した。
油田の上に敷き詰められた太陽光パネルの撤去作業を始めていった。既に10年以上経過した太陽光パネルだ。その撤去した場所に短いながらも滑走路を建設し、その両脇に最新の太陽光パネルを設置する。それでも従来の発電量の2倍以上の出力が得られる計算だ。合わせて、自衛隊駐屯地の建設にも取り掛かる。北朝鮮の石油出荷開始と同時に、本油田の出荷を停止する。日本の石油会社はペルシャ湾までタンカーを回送する手間から、暫くの間開放されることになる。

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阪本北韓総督は北京入りして、梁振英と会談後、中国首脳と会談に臨む。
梁振英からは、チベットを巡る中国政府とモリの間で交わされた幻の借款契約について知らされる。もっとも今回の騒動でご破算になってしまったが。
阪本も、同行していた柳井太朗副外相も驚いた。梁振英には伏せなければならないが、それで油田の採掘を早め、インドとインドネシアでの発電事業を先行させたのかと合点がいった。

「チベットがこのまま独立するとして、日本はもう関与する必要はありませんよね?」アメリカが前のめりで出張って来ている現状から、率直に思う。

「モリさんは、連中に好きなようにやらせておけばいいと言っています。どうせ、アメリカ政府はコンサルタント会社に丸投げして、必要以上の税金を使うだろうと言っています」

「アフガニスタン、ベトナムと一緒ってこと? チベットには敵対組織もいないのに?」

「確かにチベットには軍隊がありませんのでアフガンのような出費まではいかないでしょう。しかし、橋や道路、ビル建設、下水道といったインフラはチベット全土ではまだまだ不十分です。韓国企業に買い叩いて作業をさせ、米国コンサルタント会社が上前を撥ねる形を取るでしょう。それと、グアムと韓国からの米軍駐留部隊の経費を国連からふんだくるのです」

「懲りない国ね・・」

「中国の隣に軍隊を配置出来ると、喜んでいるのかもしれません」

アメリカ国内の軍事産業を潤す為に多額の支出が必要となる。それが消費大国のアメリカ軍に身に付いた「お作法」だ。十数年前、アフガニスタンとイラクからの撤退時に大量の兵器を置いていった。アフガニスタン政府もイラク政府も当初は喜んだが、直ぐに態度を撤回する。アメリカの兵器が、直ぐに故障するからだ。
修理部隊と大量の交換部品が無ければ、維持できない兵器を所有しているのが米軍の実態だ。それを安易な形で世にさらしてしまうのも、アメリカのズボラなところでもある。それ故に無駄な軍事費が嵩む組織になっている。この品質問題は兵器産業に限らず、全ての米国製造業に共通して言える構図だ。アフガニスタン政府もイラク政府も、この大量の不良品や欠陥品をプルシアンブルー社に2足3文の値段で売却し、その費用でプルシアンブルー社からロシア製の改良兵器を購入した経緯があった。プルシアンブルー側ではこの米軍の遺産を大改良して売りさばいた。

アメリカ兵器の品質管理は、残念ながら全く改善されていない。この10年というもの、戦闘行為が行われていないのと自衛隊との軍備競争に敗北したので、兵器開発力が著しく低下している。
つまり海外派兵すればするだけ出費が嵩む軍隊、それが今のアメリカ軍だ。在韓米軍の駐留費を負担している韓国政府は目も当てられない状況になっている。巡洋艦や戦闘機やヘリ、ミサイル、戦車全て兵器のメンテナンス費用が、掛かりすぎる。

チベットに政府が出来たとしても、チベットには当面の間は支払い能力などありはしない。そこで国連軍という体裁で駐留して、国連や中国政府から資金を得る。そこは日本の自衛隊の国連軍への参加を模倣しようというのだろう。「チベットを開放する」と宣言すれば、自由の国アメリカらしい国威発揚となり、国民も賛同する。しかし、必要以上に多額の税金を投入することになるのだ、アメリカ国民は。
北米のコンサルタント会社がBlue Mugs社に仕事を奪われ続けているので、チベットをガス抜きの場として、有効活用するだろう・・

アメリカと早々に手を切っておいて良かったと阪本は安堵しつつも、チベットを介して、そのアメリカと向き合う格好になった中国政府を悲観せざるを得なかった。ある意味でアメリカは内政干渉に近い行動を取ってくるかもしれない。チベットに出来るであろう新政府も心配だ。南ベトナム政権、イラク政権、アフガニスタン政権と同じ、傀儡政権となる。アメリカ国民の税金で私腹を肥やす政権にならねば良いが、アメリカの統治だと自ずとそうなってしまう。日本も韓国も賄賂と金に塗れた・・

阪本は決断した。北朝鮮をいろいろな意味で固めなければいけない。中国と韓国がアメリカの干渉が加わって、揺れ始めるのは必死だろうと理解した。

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中国政府は方針転換をせざるを得なくなった。総書記の発言内容が漏れ聞こえてくる。

「モリと描いたプランは、見送った。予定していたよりも急な展開となるが、チベットからは早晩撤退せざるを得ないだろう。発表することで、国際世論からは一定の評価を受けるだろう。チベットから撤退もせずに、この批判の波を堪える事は出来ない。前回の民族迫害に続く事件だ、もうこれ以上は無理だ。とても庇いきれない。残念だが、已む無しと判断せざるを得ない。この発表により、経済成長率やCO2削減目標といった目標値は全て未達のまま終わらせる。中国を取り巻く状況が大きく変化したと、うやむやにする。全ての新事業を凍結するので、当面は追加融資を必要としなくなる」

「パキスタンの外相が訪中し、新疆ウイグル自治区の分割案を提案していった。ウイグル人居住区と漢族居住区を明確に分けるプランだ。具体的にはウルムチなどの主要都市部を漢族が抑え、西部のウイグル人居住区の自治を認めるという内容だ。
パレスチナのガザ地区と似通ったプランとなる。サウジアラビア皇太子からの親書も持参し、「少数民族への一連の事件に懸念を感じている」と始まり、「イスラム同胞の保護へ舵を切って欲しい」とある。以前はウイグル政策に理解を示していた皇太子も、一連の失策に態度を変えてしまった。
チベット撤退を発表すれば、次は自分たちの番だとウイグル人や内モンゴルが決起するのは間違いない。この分離案を元にして、ウイグル人宥和政策を取って、一旦懐柔するしかないだろう。チベットをまずは優先する。ウイグルは「その方向で検討を始める」とチベットの進捗状況で国際世論の反応を見て、言うか言わないか判断したい」

「一連の事件で話が大きく変わった。モリからの追加融資を得られなくなったので、エネルギー政策も元の方針に戻す。原子力と火力、再生エネルギーの3本柱とする。国内で販売・製造する自動車はEV車両のみとする。エンジン車生産販売から中国は撤退する。つまり、全て現行の計画通りとなる。方向性が明確となった分、投資戦略を限定出来る。その製造物で持って、内需を固めてゆく」

中南海の方針が決まったようだと渡された内容を聞いて、モリは溜息をついた。民族政策以外は全て現状維持となる。改善点は何一つとして、無かった。また、ブラジルとチリに進出する中国企業は、EV自動車会社4社でバッテリーはボリビア企業から提供される。韓国企業もEV自動車会社3社と電子産業1社となった」。
少し前ならば、大騒ぎだったが、EVメーカーで7社は多すぎだろうと思った。ブラジルとチリから指導をして貰う必要があるだろう。精々2社づつ位がちょうどいいのかもしれない。EVばかりというのが、非常に気になる。工業製品だけの進出、しかもどの社も落日感のある企業だ。割安のバッテリーを積んで、値下げ販売で攻勢を掛けようという腹積りだろうか。
こちらから助言をするのもどうかと思うので、やはり静観することにしよう。要求通り全社に進出して頂いて、失敗も含めて学んでいただく方がいいのかもしれない。何が原因だったのかと。中国企業であっても競合他社になるのだから、タコの足食い競争になると考えなかったのだろうか・・・

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日本で買収した旧イオ・ン、Indigo Blue Groceryの大型店舗57店舗に併設されているガソリン・電気スタンドのガソリン販売価格が下がった。この57店舗は西日本に集中している。ガソリン車に乗っている家は買い物ついでに給油するのが当たり前のようになった。EV車輌は店舗駐車場にの充電エリアに停めて、買い物中に充電していくようになる。

57店舗の周辺のガソリンスタンドの売上が下がるのは、自然な流れだった。国内3大石油会社から供給を受けないガソリン・電気スタンドは、契約をエクソン社と交わし、ガソリンと電気の供給を受けて、同じ最安価格で販売を始める。嘗て日本で見られた「Mobil」というスタンドが、所々で見られるようになってゆく。そのスタンドにはスタンドの面積に応じてセブ・イレブンの大小のコンビニが併設されてゆく。コンビニはスタンド経営者の収益補完の手段となる。

中国とASEANでは、日本と逆の動きを取っていった。大型ショッピングモール50店舗で、駐車場の一角に充電器とMobilの小型ガソリンスタンドを設置した。中国産のシェールオイルを提供し、国内最安値のスタンドとなる。このようにして日中でガソリン・電気スタンドの攻略を始めていった。

ExxonMobil社がアフリカで買い付けた石油は、自社のメキシコ湾内の石油備蓄基地に納めていた。満杯になる頃には、パナマ・コロン市に完成間近の石油備蓄基地に格納しながら、ガソリン精製したものを近隣の中米国へ出荷してゆく。年内グァテマラで産出される石油もコロン市へ集約する。

全米各州で水素発電導入を決定し、北部の州から建設を始めている。
嘗ての石油メジャーが、アメリカの電力事業を一手に担うという構図が明確になってきた。
電力の送電事業も真新しい方法で請け負う。従来の電力会社はエクソン社に売電する方向で検討を始めていた。
全米中のガソリン・電気スタンドの大半がExxonMobil社が供給するアメリカ内のシェールオイルを販売している。各スタンドは悩ましい選択を迫られていた。提携関係にある石油メジャーがエクソンと資本提携もしくは合併を検討していると報じられている。エクソン社の配下になれば、そのままエクソン社のスタンドに移行するが、交渉が上手く行かないと今のままだ。エクソン社の魅力は価格が安いこともあるが、サイドショップとなる店舗戦略に長けている。店舗自体の人気も高くその店舗の収益も見込める魅力がある。交渉が上手く行くことを願うばかりだった。
今は北米でエネルギー会社として大きくなろうとしているエクソンに擦り寄るのは、戦略として重要だ。アメリカに続けとインドとインドネシアが水素発電採用を決断した。
中国を除けば、人口大国の2カ国が同調したことで、水素発電が電力の主流となるのは確定と言えるからだ。

嘗て、湾岸戦争を起こした元凶とも言えるエクソン社を、ベネズエラ企業にしたのは共和党の封じ込めも兼ねていた。この共和党とツーカーだった会社が石油利権を求めて動き出すと、共和党が何をしだすか分からないからだ。経営権を掌握して役員をお払い箱にして、企業自体を成長させて、成果を出すことで社員を従わせる。社長のアンディは会社の1−3月のファーストクォーターの実績で最高益が出た事を受けて、社内向けの動画を公開した。

「君達は石油会社ではなくて、エネルギー企業に勤めている。
石油という先の見えない業界ではなく、エネルギーという必要不可欠な産業の将来を担う。アメリカ全州のエネルギーを、我が社が一手に引き受ける事になった。以前のエクソン社で、このアイディアを抱いた諸君は居るだろうか?太陽光発電は実際に手がけていたから分かるだろうが、水素発電や外壁発電はどうだろう?スタンドにコンビニは普通の発想だが、同じコンビニでも競争力のあるコンビニやカフェとドッキングしたらどうだろう?と、考えた社員は居ただろうか? しかもスタンドも販売する電気も、自家発電で電気代は掛からない。経費が掛からない上に、販売しているガソリンは国産のシェールオイルだ。そのシェールオイルの生産コストが劇的に下がったからこそ、ガソリンを安く提供する事が出来る。
残念ながら我が社の研究所では誰も取り組んでいなかった。そこに突破口があったというのに、シェールオイルは金のかかるものという思い込みで、ただ事業撤退とフタをしてしまった。太陽光発電を始めたのはいいが、その先の発電事業は全く考えていなかった。コンビニもそうだ。競合他社と競争するという発想が極めて薄弱だった。
諸君、発想の転換をしようじゃないか。他社がやっている事を真似しても、それは競争ではなく、同調でしかない。競争とは、相手の客を奪い取る事だ。ビジネスで勝利することだ。
競争に勝利し、成果が得られたから、私たちは最高益を手に入れた。今後、四半期ごとに最高益を更新し続けていくだろう。それはアメリカ50州で発電事業が始まっていくからだ。

アメリカの電力事業で終わりではない。我々はベネズエラ国営企業の子会社で、大統領の組織でもある。アメリカの次はアジアに進出しよう。インドとインドネシアでも水素発電導入を決定した。両国のエネルギー会社との合弁会社を作って、水素発電、水素ステーション、送電サービスを行う。人口は2カ国でアメリカの10倍、20億人にもなるビッグプロジェクトだ。ここ5年間は、クォーター毎に最高売上を記録し続けられると考えている。
仕事も増える、給料も増える。暫くの間は成功が約束されている。その中であなた方が何を成し遂げるか、どんなアイディアを創出するか、楽しみにしている。みんなよく考えるんだ。ビジネスチャンスを逃してはならない」

アンディ社長はそう言って、動画を終えた。

インド政府とインドネシア政府は、同日、アメリカの水素発電所導入を受けて、両国も水素発電を採用し、エネルギー政策を見直すと発表した。
中国に融資予定だった金額を7:3に分割して、インドとインドネシアに内密に融資するとの伝達を受けて、時間差で両国が発表した。

報道を受けて、早速 日本政府が両国と交渉に乗り出してゆく。原資がモリの融資だとも知らずに。

バンコクで発足したMillennium SE-Asia社の坂田夏樹社長は、ジャカルタに飛んだ。9店舗全てを廻る訳ではないが、メインの店舗の式典に出席する。
そ・ごう改めミレニアムは店舗外壁工事を終えて、再出発しようとしていた。インドネシアは それ以外のネタでちょっとした騒ぎになっていた。

(つづく)

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