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平成のクリエイティブ魂

自分のお金で購入した服や小物を自らの手でまた新しくする。また自分のお金で購入した布で新しい服を作る。

私と同世代の方は特に90年代後半に流行った手作り・リメイクに夢中だった人も多いのではないだろうか?
私も例外ではない。振り返ると家庭科以外でも何故あんなに作ることに夢中だったのだろうと思う方も多いと思う。

今回は皆が夢中になった90年代後半の手作り・リメイク文化について語りたい。

◆兎に角にもバイブルは「ご近所物語」

90年代後半の手作り文化を語る時、30代後半~40代、また20代の若い世代にも大人気の「ご近所物語」(原作 矢沢あい・1995年集英社・月刊『りぼん』連載)は「何か作りたい!」と手作り魂に火をつけたきっかけの一冊だったのではないだろうか?

デザイナーの夢を持ち、服飾学校で日々奮闘し最終的にデザイナーの夢を叶える幸田美果子の物語に「ご近所物語の世界観」を含めて「何かを作ること」に憧れた読者は多かったと思う。
後に「ご近所物語」はその続編の「パラダイス・キス」(原作 矢沢あい・1999年~2003年祥伝社Zipper連載)へと移り00年代に突入しても皆の心を鷲掴みにした。

その中でも「ご近所物語」は特に90年代中期~後半の手作り文化に一役買ったと思う。
作中の実果子ちゃんのおしゃれで個性的なファッションに憧れることはもちろん、自由な服飾学校の雰囲気にも憧れた方も多かったのではないだろうか。
また当時は他にも主人公の遠藤豆子がデザイナーを志し奮闘する「ジェリービーンズ」(原作 安野モヨコ1999年Cutie宝島社)など人気漫画家が描く「服飾を題材とした漫画」があった。

この時代の「服飾を題材とした漫画」は10代の女の子の心を掴みに掴みにしたが、振り返れば「私も服を作りたい!」「私も服飾の専門学校に通いたい!」とその後の行動を起こさせることが特に凄かったと思う。
(実際、私の周りでもご近所物語の影響で服飾の専門学校に進学する人も多かった。)

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※1998年Zipper11月号 / 祥伝社
今思うと贅沢極まりなかったが、まるまる4P矢沢あい先生のご近所コラボとの連載があった。

◆様々なカリスマクリエーターが集う雑誌「ZIpper」と「CUTiE」

90年代〜00年代初めはとにかくストリートが元気な時代だったが、その「ストリート文化」はギャルや渋谷だけではなく当然のごとく原宿でも活性化していた。それは単に「原宿系」という簡単なくくりだけではなく自己表現やコミュニケーションを通して様々なファッションが生まれたのだ。

またこの時代は「ご近所物語」以外にもクリエイティブ魂に火をつける雑誌があった。みんな大好き青文字系雑誌の「ZIpper」(祥伝社現休刊)と「CUTiE」(宝島社現休刊)だ。

後に多くのクリエーターを輩出させるこの「ZIpper」と「CUTiE」はファッションに目覚めた10代にとって欠かせない参考書だったと思う。
また服飾学校に在籍中の読者モデルも数多く登場しており、カリスマ的な人気を誇っていた。

この時代は傾倒するほどのストリートブランドも数多くあったが、「ZIpper」と「CUTiE」の読者モデルはただ購入した服や流行りの服を着て雑誌に登場するのではなく、古着をリメイクしたりまたは自分で服を作ったり…とメイクやヘアスタイルもだが他と一線を画して登場しそのセンスと個性に憧れた方も多かったと思う。

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※1999年Zipper12月号 / 祥伝社
インテリアもだが、特にZipperは読者の「作品」紹介に力を入れていたと思う。現役服飾専門学生の作品も多く、もはやプロレベル!って言っていいほどの作品も多数あった。

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※1999年CUTiE12月号 / 宝島社
同世代はバリバリに気が付いていると思うのだが、1枚目は読者モデルとして大人気だった清川あさみさんだ。大人の事情でモザイクが本当に心苦しいが、当時原宿系女子の憧れの的だった。ちなみにこの時、古着リメイクは創作しやすいのもあり原宿系の間で人気だったが何故か00年に突入してからギャルの間でもリメイクが人気になる。

特に「ZIpper」は服飾専門学生の作品や作り方のレシピが多数記載され、またオリジナルMOOKなども発行していたこともあり、この時代の手作り・リメイク文化をより活性化させたと思う。
当時は人気アーティストの連載も多数あったが、その中でも千秋さんの連載はオシャレな千秋さんのファッションレシピも惜しげなく披露してあり、当時の読者の記憶に残っているのではないだろうか?

▪Zipperで大人気だった千秋さんの連載

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※1999年Zipper8月号 / 祥伝社
千秋さんのリメイクや服作りは本当に凄く、毎回その才能に驚いてしまう。難易度が高いデザインもあるがトライしやすいものも多く、当時は挑戦した方もいるのではないだろうか。

▪創作意欲が沸きまくる手作りMooK

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※右から順1999年「手作りBOOK KEROUAC特別編集」 / バウハウス .1998年「Zipper presents 千秋の手作り教科書」/祥伝社 .1998年Zipperニットブック /祥伝社

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※1998年「Zipper presents 千秋の手作り教科書」/祥伝社 

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※1998年Zipperニットブック /祥伝社

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※1999年「手作りBOOK KEROUAC特別編集」/バウハウス
98年~99年は手作りムックが多数発行された。どれもただの「手作りムック」の枠に収まらない大変素晴らしいデザインが多い。人気ブランドや「ご近所物語」のコラボなど作るか作らないかは別として、今振り返ると本当に贅沢で凄かったと思う。

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令和になり記憶からどんどん遠ざかっていくが、この時代はまだ原宿が歩行者天国だったのもまた手作り文化に大きく影響していると思う。
「FRUiTS」(青木正一氏により創刊現休刊)や「KEROUAC(ケラ!)」などのストリートスナップ雑誌の登場もあり、作ったものをより多くの人に見てもらえると言う機会が多く、この時代はこの時代でSNS時代とは違う表現の発信手段があった。

▪FRUiTSとKEROUAC(ケラ!)

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※右から順1998年KEROUAC vol1 / バウハウス
2017年FRUiTS Vol1(復刻版) /ストリート編集室 /1998年 KEROUAC(ケラ!)Vol2 / バウハウス

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※KEROUAC(ケラ!)Vol2 / バウハウス
現在と比べると平和過ぎて涙が出そうになるストリートスナップ。しつこいようだが、モザイクなんてかけたくないくらいみんなとても笑顔が素敵だ。当時は「路上デザイナー」という言葉があり、マイブランドを作り路上で販売する者もいた。特にKEROUAC(ケラ!)は路上マップを載せながらもポイ捨ての注意喚起についてもきちんと書いてあったり、10代の悩み相談など読み返すと原宿愛に溢れていて胸が熱くなる。

◆令和のクリエイティブ魂

振り返ると系統を問わず、90年代は特にファッションが「平均化」している現代とは異なり、「個性」と「自分らしさ」にもがいた時代かもしれない。当時の雑誌を見ると皆同じ装いをしているように見えるが、この時代は「みんなと一緒じゃ嫌っ!」という思いが一際強かったように感じる。私もその一人だ。

00年代始めにも一時期、ギャルの間でも「リメイク」が流行ったが、やはりここにも既存の服にオリジナリティを出したいという「みんなと一緒じゃ嫌っ!」精神が伺える。

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※2001年Popteen9月号 /角川春樹事務所
00年代に入ると、今度はギャルの間でリメイクが流行る。01年の80年代テイストの流れでのブームだが、色々リメイクして楽しんでいた。中にはヴィトンをリメイクする強者もいた。

10代ならではの悩みで「個性」や「自分らしさ」「オリジナリティ」という言葉は受け取り方を間違えると、自己肯定を低めてしまう呪いの呪文のようなところがあるが、この時代は雑誌や漫画を通して「もっとこうしたら良いんじゃないか?」とか「こうしたら新しくなるんじゃないか?」と次々に自らが新たな自己表現を試みたように思う。

SNS時代とは異なり発信して人に伝わるのが今より遅かったとは思うが、それでも皆ストリートや学校や雑誌でどんどん発信していたのだ。また逆を言えば、SNSがないからこそ「余計な一言」もなく、みんな自由にのびのびと自己表現が出来たのかもしれない。

現在のクリエイティブの発信のメインストリームはSNSやyoutubeが軸だ。ストリートスナップが主流だった雑誌の多くが休刊になってしまったことの引き替えに、最近のSNSを見ると令和のクリエイティブ魂はSNSにあり!といっても過言ではない。

全体的なところでみるとファッションの平均化は感じるが、まだまだクリエイティブなファッションは健在でインスタグラムを覗くと昔ほど肩肘張らずとも、より自由に令和ならではのライトなノリでクリエイティブなファッションを楽しんでいる者もいる。

近年ではファストファッションが主流になってきており、90年代後半のような過度なリメイク文化もやや下火な印象がある。だが、動画配信時代の幕開けによりもしかしたらもう一度、平成の頃とは違う令和時代ならではの方法でやリメイク文化がまた再建される時がくるかもしれない。

去年流行った手作りマスクやデコマスクのような、いわゆる〇〇の作り方のようなレシピも動画配信でより早く伝達されるようになった。そうしてみると、ファッションや小物のみならずメイクや料理などでも皆が作ってみよう!と行動に移しやすい時代になったと思う。

誰かに特別褒められなくてもどんな小さな創作でも何かモノを作るのは楽しいし、人はクリエイティブなことに没頭すると心が豊かになる。

今回の記事の手作り文化をただ「懐かしい!」と思うだけではなく、あの時の「何かを創作することの楽しさ」や単純なSNS上の数字の評価ではない、「モノを作る時のあのワクワク感」を少しでも思い出して頂ければ幸いである。

また90年代後半のリメイク文化は路上スナップの印象からか「90年代後半の奇抜なファッション文化」として認識されやすい。

しかし、このカルチャーは「人の評価なんかより、自分が好きなことをする」という極めてピュアな思いが原点にあり、それはとても大切だと言うことを改めて教えてくれる。

そして、この手作り文化をただ表面的な「90年代のカルチャー」としてだけでなく、この時代のピュアなクリエイティブ魂がそこにあったことを私よりもうんと下の世代の方にも伝わって欲しく思う。

「何かを作りたい」と思った時点でみんな立派なクリエーターなのだ。


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