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学級担任制から学年担任制&教科担任制に。学級4つの小学校で実現へ。

関西地方のある小学校。これまで当たり前だと思っていた、「1学級につき1名の担任の先生」。これを変えて、「1学年の子どもたちを1学年の先生たち」でみていくという仕組みへの変更。令和7年度に向けて準備中という学校の先生に話を聞いた。


学年の子どもたちを複数の先生で見ていく意味

-学級担任制をやめて学年担任制に移行するということだそうですが、詳しく教えていただけますか。
当校は1学年4学級あります。従来は、1学級に担任教員が1名ですよね。これを変更し、4つの学級に4人の先生がつき、1週間または2週間程度の間隔で、担任教員がローテーションしていきます。イメージとしては、1週目はA先生、2週目はB先生、3週目はC先生のように。従来は、1年間ずっと担任教員は変更しないのが基本ですが、これを短いスパンで計画的に交代していくことになります。令和7年度から実施することが決まり、現在は詳細を検討中という段階です。

-どのような狙いがあるのでしょうか?
教員も人、児童も人ですので、どうしても相性があります。そして人と人ですので、感知しやすい出来事と、感知しにくい出来事がありますよね。一人の人間ががんばって全ての出来事を感知しようとするのではなく、色々な人間が関わったほうが、結果として色んな子の色んな成長を見られるのではないかと思います。相性についても、この人とはあわないという児童と教員が一年間ずっと解消できないままになるのではなく、適度に入れ替わることで、その関係性も変わる可能性があると思います。

-なるほど。複数の人が入れば、色々な関わり方が生まれそうですね。
学級担任制が日本には根づいていますが、「学級の状態の評価」イコール「担任教員の能力の評価」と結びつけて考えてしまう傾向が強く存在します。そのせいで、同僚の学級について話をしにくいんですよね。特に先輩やベテランに対して、学級の状態が心配ですとか、あの子がちょっと調子がよくなさそうですとか、言いにくいわけです。周りの教員は、ちょっとまずいかもしれないと思っても躊躇してしまうんです。そうしているうちに事態が進んでしまうことがあります。私はそれを「学級担任の壁」と呼んでいます。そうした心理的な壁もあって、サポートし合いにくいシステムになってしまっていると思っています。

「学級担任の壁」をそもそもなくす

-「学級担任の壁」ですか。
担任をローテーションすることによって、教員の責任は共同のものとなり、心配なことが起きれば心置きなく相談できるし、どこかの学級の状態が良くなかったら、それは誰か一人が責められるわけでなく、全員で解決すべき問題になります。当然、情報共有をこまめにする必要が出てきますが、逆にそれくらいはすべきだと思います。

-教員同士の連携が一層大事になりそうですね
さきほど先輩やベテランの学級に指摘しづらいという例を挙げたのですが、実は、若くて経験が少ない教員へのサポートというのも、学級担任制では限界があります。というのも、例えば経験が少ないA先生の手腕が足りず、腕のあるB先生がサポートに入るとします。でもサポートはあくまで限定的にしなければなりません。なぜなら年度末まで責任を持って担任をするのはあくまでA先生なので、学級の児童とA先生の信頼関係が崩れないように、割って入ることが憚られるのです。そういう意味で、とても遠慮がちなサポートにならざるを得ないのです。

-共同で見ていくということは、教員の力量の差も埋まるような気もしますね。
仰る通り。少し観点が変わりますが、学年担任制を取り入れるということは、中学校と同じように教科担任制も導入することになるんですね。国語は~~先生、算数は~~先生、というように。これにもメリットがあるんですよ。

例えば、新任で経験不足のA先生と、ベテランで腕のあるB先生がいるとします。従来の制度ですと、1組がA先生、2組がB先生だとしたら。2組の児童はどの教科も腕のあるB先生に一年間教わってニコニコ。1組の児童はどの教科も経験不足のA先生に一年間教わって残念…。ということになってしまいます。教材研究する時間も限られ、スキルアップにも時間がかかります。結果的に教員の力量の差が、その学級の一年間の、専科を除く全教科の授業の差になってしまい、なかなか埋まることはありません。これを不公平と思う親御さんもいると思います。

-不公平と思う親御さん、たくさんいますね…
学級ごとの固定担任制をやめることで、この差はなくせるのです。学級が4つあればひとつの授業を4回行うことができて、その間に磨いていくことができますから、スキルアップのスピードは上がります。違う学年の同じ教科担当の先輩に聞くこともしやすいでしょう。生徒の方から見ても、分からないことが残ってしまった時には、教え方が上手な先生に聞きに行きやすく、その点でセーフティーネットのような仕組みになるのではないでしょうか。

大きな柱としての「学校教育目標」をよりどころに

-これまで、どのように進めてきましたか?
元々当校では教科担任制も取り入れていました。その上で、私から学年担任制を提案して、半年ほどかけて議論して実施方針が決まりました。教員代表数名で実際に見学にも行きましたし、オンラインでつないで教職員全体の前でお話しいただくこともしました。私だけが提案しても絵空事を語っているように見られがちですが、実践者の話を直接聞けたのは、とても励みになりましたね。

-先進校の話を聞いて、何か新しい気づきはありましたか?
ローテーションでやっていくので、教員間で揃えた方がいいこと、揃えなくていいことなど、共通理解が必要になります。私たちも話し合いの中で、意見が割れる場面がありそうだなとか、対立が起きたらどうしようかと、心配していました。先進校は、理念的な柱として「学校教育目標」が浸透していて、教職員全員がそれを議論の拠り所にしているということでした。なので細かな点で揉めたりすることはないそうです。そのことの大切さを改めて認識しました。

懸念点はほぼない。固定観念を手放すだけ

-ところで先生方の仕事は増えそうですか?
先進校に聞いてみたら、一年目は増えもせず減りもせず。二年目から全員がグッと減ったということでした。

-減るんですね!
学年担任制と同時に、教科担任制も導入します。小学校の教員は基本的に、専科担任がいる教科以外の全ての教科の教材研究と授業準備をする必要があるのですが、教科担任制になると一人が担当する教科が減るので、その点で効率的になり、時間が減ります。

それから学級を一年間担任するということは、先ほど言ったように、「学級の状態の評価」イコール「担任教員の能力の評価」と結びついてしまうこともあるし、思い入れも強くなりますので、やることにきりがないというか、力が入っていくんですよね。その点、ある意味ではドライになっていくというか、やりすぎなくなるという効果が出るようです。

-なるほど、そういう側面もあるんですね
でも、残業時間がグッと減った一番の理由は、学級崩壊が起きなくなるからだと思います。子どもたちを複数の目で見ながら教員同士が普段から声をかけあって、問題が大きくなる前に手を打っておける。それにより突発的な生徒指導案件に駆り出されなくなるからだと思います。急な生徒指導案件で問題が発生すると、その学年団の全員と、生徒指導担当、管理職などが集まって急遽打合せが必要になります。そうなると教材研究や授業準備が後回しになり、残業時間が増え、心身にも負荷がかかり、悪循環が始まってしまいます。それを防げるのが一番大きな理由だと思います。

-素晴らしいですね。課題点や懸念点は残っていますか?
私も先進校の方にいくつか聞いたのですが、特にないんですよね。強いて言えば、担任の学級の子と一年間じっくり関係を作れていたのが、薄まることくらい。一年間担任するとすごく思い入れもできるし、お互いに濃い信頼関係ができてやりがいに感じます。私も良い思い出をたくさんもらいました。それが薄れるかなというのは頭をよぎりますが、でもそれを味わいたいというのは、教員のエゴかもしれませんね(笑)。子ども目線で見た時には、それは手放さなければいけないのかもしれません。

保育園幼稚園の子どもたちは特に混乱していない

-全学年で実施するのですか?
それは今後相談して決めていきます。他校は、中学校を見据えて高学年から導入しているところが多く、小学校一年生から始めるところはほとんどありません。ですが私は個人的に一年生から導入したいと思っています。

-一年生には難しいのでは?と思ってしまうのですが。
一年生の子どもの目線で想像してほしいのですが、初めての小学校でドキドキと緊張して行く学校で、担任の先生のことが好きになれず、その人と四六時中一緒にいて、色々と指導されるなんて、苦痛以外の何ものでもないですよね。小学校イコール嫌な場所という認識になってしまい、逃げ場もないと感じてしまうと思います。なので一年生こそ導入したいと個人的には思っています。

保育園の先生にも意見を聞きました。保育園や幼稚園の先生って、入れ替わり立ち替わりじゃないですか。でもそんなことくらいでほとんどの子は混乱しませんよね。だから基本的に問題ないという意見をもらっています。むしろ一年生の方が馴染みやすいかもしれません。

当たり外れのない公教育を目指して

-この仕組みがいい!と思われたきっかけを教えてください
私が新任の時、私が力不足だったために、学級崩壊のような状態にしてしまったんです。私もしんどかったですが、子どもたちにも悪いことをしてしまったと、今も心に残っています。

同じ学校には学級経営がすごく上手な先輩もいたんです。自分もそうやって力をつければ、どんな子たちでも、どんな学級でも、それなりにまとめられるようになると思って、自分の力を高めようと必死で努力したんですよ。実際に力をつけて、それなりにまとめられるようになりました。

ところが自分が担任をした翌年に、その学年で学級崩壊が起きてしまったり、自分が担当して元気だった子が翌年に不登校になってしまったり、そんなことをたくさん経験しました。悔しかったです。そういう経験を経て、自分だけが力をつけても何の意味がないと愕然としていました。

-それは辛いですね
はい、肩を落としていました。頑張っても意味がないと思いました。でも冷静に考えたらこれはシステムエラーだと思ったんです。教員だってみんな悪意があるわけでなく、努力している人が大半なのにこのようなことになってしまうのは、努力不足ではなくシステムが悪いのではないかって。でも、どうしたらいいのかは思いつかなくて、半分絶望しながら、自分の努力は続けるしかないと思って、必死でやっていた時期がありました。

学級崩壊した時にその学級にどんどん入ったりしていたのですが、それでも全然根本解決にならないということを散々繰り返して諦めかけていた頃に、先進校のニュースを見かけたんです。それを見て「担任を変えればいいのか!」「これだ!」と思いました。

-ついに見つけたわけですね!
私の初任の時の経験を思い出してみても、腕のない新任の私と、腕のある10年以上の先輩とが隣のクラスなら、雲泥の差がある状態を一年続けるのではなく、足して2で割ったものを提供できればいいと思うんですよ。腕のない新任の先生が、力をつけないまま一年間べったりになってしまったら、子どもたちに申し訳ないですよね。

-そこから提案につながったんですね
何の脈略もないところでそんな話は提案しづらいですが、管理職の方から、「教職員みんなで子どもたちを見ていくことが大事だから、まずは教科担任制を進めていこう」という話があったので、その流れに乗せて提案してみたんです。そして話し合いを重ねて今に至るという感じです。

-こんな仕組みが可能だなんて、ほとんど知られていませんね。
ちょっと皮肉な言い方になりますが、もし日本中の教員が、誰でも等しく立派な先生で、誰が担任でも全く心配ないと思ってもらえているなら、そこまで考えなくてもいいかもしれません。でも現状、社会からそう見えていないのは事実ですよね。保護者の方々を、毎年ビクビクドキドキさせてしまっているという事実を、もうちょっと謙虚に受け止めるべきだと、一人の教員として思っています。

学級担任制が導入されて定着したころは、たぶん教員がとても尊敬されていて社会的地位が高く、学級崩壊なんてものはほとんどない、そんな時代だったんじゃないかと思います。

-先生にとって一番の動機はどういったところにあったのでしょうか?
私は公教育ということにプライドを持っています。当たり外れがあってはいけないと思うんです。去年は大当たりだったけど、今年は大外れだなんて、そんなことはおかしいと思うんです。確かにまだ経験が少なかったり、上手じゃない先生もいるかもしれないけど、上手な先生もいるので、少なくともその平均の授業や学級経営を提供しなければいけない。そういうセーフティーネットのような仕組みを用意しておく必要があると思います。懸念点はほとんどありませんし、当校では幸い、実施まであと一年ありますので、しっかり話し合って準備していきたいと思っています。

<編集後記>
「学年担任制」ということは聞いたことはありましたが、小学校でその導入に深く関わる先生に直接お話を聞いたのは初めて。なんでもっと早く気づかなかったんだろう!と思うくらい、様々な問題解消につながりそうな気がします。実施まで一年の準備があるとのこと。良い形で実現することを心から応援したいと思いました。本当にありがとうございました。
聞き手・文・編集:すーじー/鈴井孝史

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