燃料

一度、こう思ったことがあるんだ
もしも、この身体が燃え始め
辺りの何もかもを道連れに
真っ黒く焦げ付かせた挙句
全てが灰と化すのなら、と

自らの指で放つ矢が
あの能天気な晴天を破り去る
瞼に取り憑く害虫を脅かすのに
それは丁度いいのだろう

隙を見せて
身体中に開いたその穴を
覚悟は沈ませておいていい
重い分、揺るがない自信があるから

目隠しされたこの手を取って
この身を宿した薄い影は
本物から浮かび上がり
今、真昼の月めがけて昇ってゆく

一度、こう思ってみろよ
格好がつかないことだって
別の終わり方を示すには
丁度いいんだってことを

自らの指で弾いた
たった一本の矢先が
辺り一面を真っ青に変えた
今やここは
浮かんでいるのか沈んでいくのか
分かりようのない色の中

そして
はっ、と我に帰り
そのときに目に映る自分の姿は
もう少しで明日を見誤る
無邪気な子供のようだと
きっと思うことだろう

泡になった時間に触れると
小さく弾けて消えていく
耳を澄ますと聞こえてくる
断崖に立つ自分の足音

灰と化していく骨が指す
明日はきっと光に満ちている
無垢な心が欲しがるその先を
燃料まみれの指先で
灯した蝋燭の火が照らす

落ちていく、そのままで
姿など気に留めぬまま
諦めたように力を抜いて
足音も立てずにそうろっと
誰も知り得ぬ懐に
大事な、大事な
命を隠す

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