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「すぐ寝る彼女」を起こしたら、ブチ切れられた

めちゃめちゃ反省したことがあったので備忘録です。

男女の機会均等に関するマジメofマジメな見解を多分に含んでいるので、見たくない方はお引き取りを。

先日あったこと

「ワンルームに同棲中」という、虎穴のように気を遣い合う彼女との関係ももう1年以上になる。一緒に暮らしていて気付いたことのひとつが、彼女氏は非常に眠くなるのが早いということ。

ナルコレプシーのような症状があるわけではないけど、まどろみ始めてから本丸が陥落するまでの速度が尋常ではない。まぁ、寝る時間になったら急激に眠くなるというあたり、変な言い方だけどシステムとしては非常に優秀とも言える。僕は寝つきが悪いので羨ましい…。

それで、何が問題になってくるかというと。

もちろん風呂に入れないとか変な体勢で寝落ちして体を痛めるとかいろいろ弊害はあるんだけど、本人が一番気にしているのは「お化粧問題」

化粧を落とさずに寝ることが肌にどれだけの負担を敷くか、お化粧をする方ならご存知のはず。急激に眠くなってしまう彼女は、しばしば顔面フル装備のまま撃沈してしまう。最新技術を搭載したステルス機が敵地で墜とされた時のように、フル装備の寝落ちはお肌という国家にとって大打撃だ。

本人も自覚的ではあるのだけど、なにせ一度眠くなり始めたら加速度的に眠くなる体質なのでブレーキが踏めない。彼女がウトウトし始めた時の僕の常套句はすっかり「頑張って化粧だけ落としてきな」になった。母か?

しかもこれが結構な重労働だ。何度呼びかけても「んー」しか反応せず、そのうちレスポンスがなくなることがしょっちゅうある。荒療治と思いながら頬をペチペチとやってみても揺すってみても起きない。一度、反省を促す気持ちで(反省といってもこれは体質上仕方ないので、シンプルに僕の忍耐力が限界だった)放っておいたら、翌日ひどく怒られた。

「お肌に悪いのが分かってるのに放っておくなんて…」みたいな論調だったか。いや、しかし寝たのはアナタだしな。僕はそんな風に思いながら、「じゃあ分かった、今後は何があっても絶対にたたき起こすから覚悟してね」というようなことを言ったと思う。

さて、そんなこんなで、先日のこと。

いつものように彼女が寝落ちしかけ、僕は彼女を起こそうと呼びかけた。彼女が嫌そうに唸ってもお構いなしで体を揺さぶる。何故なら僕には大義名分がある。「何があっても絶対にたたき起こす」という誓いだ。

30分ほど粘って、彼女は目をこすりながら起き上がった。地球の表面を5回は焼き払い、生きとし生けるもの全てを呪い殺さんばかりの表情だったけど、割といつものことだ。

しかしこの日の彼女はさらに凶暴だった。

「うっさい」

うっさい?これはいつものことではない。

一瞬、呆けてしまった。いまうっさいって言われたのか?外で騒ぐ大学生でもなく、大通りを走るパトカーのけたたましいサイレンでもなく僕が?

…はぁ?

ちょっとまとめてみよう。

化粧落とすことを促す

起きない


ほっとく

なんで起こしてくれないの

分かった次から絶対に起こすね

起こす

うっさい

これ如何に…?

いくらなんでも、この言い草はあんまりだ。僕だって静かに寝かせてあげたい気持ちは山々。山々どころか連峰が出来上がってる。ネカセテアゲタイ連峰だ。なのに、アナタが拒んだんじゃないか。

もちろん、心の奥底では「彼女は悪くない」と分かっている。

安眠妨害されたらイライラする。そして、眠れば翌朝後悔する。彼女だってどうしようもないのだ。これはほとんど、彼女の意思が介在しない問題。僕は急速に眠くなる体質を理解して一緒にいるわけだし、サポートしてあげるのが筋だ。

だけどじゃあ僕はこの先ずっと、眠くなる彼女を強引に叩き起こして、癇癪で怒鳴られ続けなきゃいけないのか?耐えていかなきゃいけないのか。

第三者からしたら些細なことに映るかもしれないけど、彼女と関係を続けていくことが、この気持ちを生涯繰り返していくことなのだと思った時、嫌気が差さなかったと言えば嘘になる。

「自然災害みたいなものだと思えば?」と頭の中で声がした。いや、無惨様かよ。

確かに気の持ちようは変わるかもしれない。楽になるかもしれない。だけど、天災は本質的な解決方法が存在しない。天命だと思って、受け入れ、抗うには自分が遠ざかるしかない。それはつまり、彼女との関係を終わらせるということで…。

考えれば考えるほどどうしようもなかった。

え…?「彼女の眠くなる速度が速い」という問題、こんな難しいの?こんな一生苦痛に耐えるか別れるかの二択を迫られるような難題なの?

ここまでが勘違い

僕が問題の本質を完全に見誤っていたことに気付いたのは、悶々としながらシャワーを浴びていた時だった。

やっぱりストレスを感じた直後というのは目が濁っているもので、「怒り」という感情は正しくピントを合わせることを困難にするらしい。

「僕が彼女を起こすと、彼女が怒る。起こさなくても怒る。困った」

問題をそんな風に認識していたのがそもそもの間違いで。

そんな狭い範囲の問題じゃない。もっと根深い問題なのだと気づいた。

問題の根本的解決

「根本的な問題が何か」の前に、僕がこの問題に、自分なりにどうやってケリをつけたかを説明すると、

「今後は僕が彼女の化粧を落とすことにした」

となる。

…。

何か、違和感を覚えるだろうか。

「まぁ勝手にすれば?」という意見がほとんどだと思うのだけど。

中には、「献身的にし過ぎだ」という声があるだろうか。「バランスがおかしい」という人がいるだろうか。

確信を持って言うけど、これは本当に何もおかしくない。「優しさ」にすらカウントされない、当たり前の話だと断言できる。

これ、「???」となる人がマジで結構いて、最初は僕も気づいてなかったことなので、順を追って説明していきたい。「付き合ってるとはいえ、彼女が自分でやるべきことだろ」と考える人もいるだろう。僕が言いたいのは、それこそが根本的な問題だということ。

彼女が陥ってる(ように思える)「お化粧問題」だけど、じゃあなぜ僕は「お化粧問題」に陥っていないのだろうか。

答えは超簡単で、そもそも僕が化粧をしてないからだった。

じゃあ、なぜ化粧をしていないのか。

当然これは、化粧をしなくてもいいからだ。

では、なぜ化粧をしなくていいのか。

驚いたことに、そこには理由なんかない。

逆に彼女はなぜ化粧をしているのだろうか。落とすのが辛いならそもそもしなければ良いのに。すっぴんで電車に乗り、会社に行き、街を歩き回り、仕事をして、帰ってくればいいのに。

シャワーを浴びながら、こんな程度の低いことに気付けなかった自分がやるせなくなった。

社会は女性に対して化粧を強要しているし、男性はしないことを許されている。

そのあたりを理由付けし始めると歴史を紐解くことになるのだろうけど、「しなくても許されるべきもの」を毎日して、毎日リフレッシュまでしている彼女を僕は改めて、これまでと全く異なった視点からリスペクトせざるを得なかった。#Ku Tooなんかに近いものがありそうだけど、その訴えの先にある「男女の装いを取り巻く不平等さ」がここにも表れている。そして自分でも気付けないほど、自分の意識が男性優位社会に毒されていることに愕然とさせられた。

彼女に「うっさい」と言われたとき、「何だよ起こしてやってんのに」という思いが少なからず、確実にあった。だけど僕が「献身的に手伝ってやってる」つもりだった作業は、そもそも彼女のタスクではなかったのだ。無関心と惰性によって根拠もなく義務化されている「女性らしい装い」が、眠気以前に彼女を縛る鎖だった。

もちろん、化粧を楽しむのは良い。だけどそれを強要する社会であってはいけない。「今日は可愛く化粧できてハッピー」はアリ、「なんで化粧してないんだよアイツ」は無し。言ってしまえば簡単なことなのに、社会は当然あるべき自由を許していない。

強要するくらいなら共用すべきだ。つまり、かかっている負荷を二等分するということ。

彼女は化粧をする。僕は化粧を落とす。シンプルな担当分け。リフレッシュするだけならそこまで技術や時間が要らない分、負担で言えばまだ平等とは言えない。だけど落とし所を(化粧だけに)探っていくための第一歩くらいにはなると思う。

男性優位につくられた社会システムはなかなか変えられなくても、狭いワンルームの中だけならいくらでも世直し可能なはず。変わるべきは僕だった。

彼女に「化粧は楽しい?」と訊いた。彼女は「楽しい」と答えた。「ほら私って可愛いじゃん?」とも続けた。その自己肯定感に本当に救われる。

彼女が好きでやっているなら嬉しい。だけどやっぱり、彼女が眠いと言う時には僕が化粧を落とすのが当然であって、今ではそういうシステムになっている(ベッドに横になってて貰い、コットンで落とすやり方)。

「むしろ私は、化粧が女だけのものみたいになってるのが勿体ないと思うけどね。いや、化粧男子もたくさんいるけど、メイク覚えようってなる機会が性別関係なく均等になればいいと思う。テンション上がるじゃん」

彼女の語る平等も、非常に気持ちがいい。じゃあ、化粧してみようかななんて思ったり。

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