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テーマ:「かつての英雄が、今では戦犯…みたいなこと」

○「こちらは対談の形をとった、単なる日常のメモの覚え書きです」

●「日常のメモにしては、物騒なテーマですね。何かあったんですか?」

○「戦時中には敵国の兵をどれだけ退けたとか、敵機をいくつ墜としたとかで、英雄として祭り上げられた存在も、時代が変わって平和になった瞬間『大量殺人者』として後ろ指をさされるようになる。こういうこと、日常でもあるよなーと思いまして。先日都営三田線に乗ってたんですけども」

●「地下鉄には英雄も戦犯も乗ってないと思いますけど…本当に脱線してないですか? あっ電車エピソードで脱線とか…ウワァ恥ずかしいのでしばらく黙ります」

○「ね。本当に黙るならすぐさま口を閉じれば良いのに、恥ずかしいとそうやって逆に口数増えますよね人間って」

●「」

○「続けます。まぁ電車に乗ってて、そこそこの混み具合だったわけです。ちょっと質問なんですが、●さんだったら電車に乗り込んで、最初に何をしますか?」

●「そりゃ、空いてる席を探しますかね。目的地がどれくらいの距離かにもよりますが」

○「目的地は6駅先です。時間にして15分くらいかな」

●「10分超えるなら、座る一択ですね。席を探します」

○「すると奇跡的に見つかるわけです、3席並んで空いてる席が」

●「おっ、ラッキーですね。ディスタンスの時代ですから、3席空いてるなら真ん中に座るでしょうね」

○「そして席の真正面まで歩いて行って、途中でカラクリに気づくわけです。空のペットボトルが席の真ん中に陣取っているという事実に!」

●「あー、そういうことですか。誰かの忘れたゴミが起きっぱなしになってるから、周りの人はそれを避けて、席が空いていたパターンですね。他にも、やたら臭う人が座ってたりすると起こる現象だ」

○「しかし、冷静になってみてください。相手はたかだか10グラムあるかどうかのプラスチック容器ですよ。嬉々として勇み足で目の前までやってきて、周囲から注がれる『ま〜たこの車両のルールを知らねぇ新入りがやってきた』という嘲笑の視線を浴びながら、『べっつに、そこまで座りたいわけでもね〜し?』というバレバレな態度で泣き寝入りしてドアの横にもたれかかるような赤っ恥を、本当に受け入れる必要はあるのか?それほど及び腰になる必要があるのでしょうか?」

●「まぁ、誰かが拾えば済む話ではあります。もちろん、誰も触りたくないからそうなってるんですが」

○「みんな長い物に巻かれて、誰も現状を変えようとしない。情けないですよ。『同じ車両の仲間が大変な目にあってるのに、何ヘラヘラ笑ってるんだよ!?』と声をあげたくなるのが、やっぱり人情でしょう」

●「あなたONE PIECE大好きですもんね。女ヶ島編とかのノリですよね。わかります」

○「かくして、私は行動を起こすわけです!」

●「おお〜、勇気ある決断ですね。つまりゴミを回収してその席に座り、問題を解決してやったと!」

○「そこまでする義理があるのかと!」

●「っぉ〜?、??」

○「だって考えてみてください。どこの小汚いジジィが咥えたかも分からないペットボトルを財布やPCと一緒にカバンへしまいこむなんて、どんな凶悪な菌が接触感染するか分かったもんじゃないでしょ」

●「そのタイプの菌は子供がイジメをするときしか登場しないんだよ」

○「や〜い、お前のか〜ちゃん出〜不精〜」

●「悪口じゃなくて傾向言うのやめてください」

○「そんなわけで私、間を取りました」

●「『間を取る』って…どういうことですか?」

○「『時間』が『時』になり、『人間』が『人』になるってことですね」

●「無理にボケられても」

○「まぁ冗談は孫の顔だけにします」

●「次世代を巻き込むなクソ先祖」

○「間を取ったというのは、無視することと片付けることの『中間』を取ったってことです。つまり私は、ペットボトルを隣の席に寄せ、3席の真ん中に、座った!!」

●「それって…ほぼ無視なのでは? けっきょく隣席にゴミは置きっぱなしなんですよね」

○「当然それだけではありません。私はこの時すでに決心してるわけです。私が目的地に着いたとき、そのタイミングで私は、このペットボトルを拾って、ホームのゴミ箱に捨てると!!粋!!まさに粋!!!」

●「粋…かなぁ…。それって、他の人が先に拾っちゃったときはどうするんです?」

○「なに馬鹿なこと聞いてるんですか?もともと私のモノでもなんでもないゴミなんだから、他の人が触った時点でこの物語の主人公はその人です。私は関係ないモブキャラとして周囲の人に紛れるに決まってるじゃないですか」

●「その程度の心構えで何をイキってるのか理解できないんですが。一人相撲で意味不明な駆け引きするくらいならさっさと拾えよって思いますね、普通に」

○「ツッコミの言葉が強すぎて、だんだん対談じゃなくて漫才になってますよ」

●「おっと危ない、柔らかな口調を心がけます」

○「今の『だんだん対談』のところ、語感が気持ち良かったですね」

●「黙れ。結局そのあと、どうなったんですか?」

○「はい、ここでようやくテーマに繋がるんですが、僕のビジョンとしては『えっ!?端に寄せただけのように見せかけて、けっきょく去り際にゴミ処理すんのかよ!粋なことしやがってぇ〜!』これですよ。英雄になる予定だったんです」

●「そうはならなかったと。だんだん分かってきました」

○「巣鴨を通ったあたりですかね。めちゃめちゃ人が乗ってきまして、ほぼ満員になってしまい」

●「ちょっと整理しましょうか。もともとはチラホラ立ってる人がいるくらいの混み方だったんですよね。それで、3席空いてた真ん中にあなたは座っていて、空のペットボトルは隣に移してある。しかし、巣鴨で山手線から乗り換えてきた人々が殺到し、車両はほぼ満員に。すると当然、あなたから見てペットボトルと反対側の席は?」

○「埋まりました。この時点で、車両に空いてる席は無くなったと思います。隣席のペットボトルreservedを除いて」

●「周囲の人は席を占領してるペットボトルを見て、どう思いましたかね?」

○「…」

●「…どうぞ」

○「『隣のお前のちゃうんか?』」

●「ですよね。隣に座ってるわけですから、関連性を疑われますよそりゃ。何なら関係なくてもお前が拾えよって思われてたと思いますね」

○「それは座りたい人が拾えばいいだけのことでしょ。主人公交代ですよ。意志を継いで下さいよ。人の夢、時代のうねり。人が自由の答えを求める限り。それらは決して止まることはない」

●「Folder5の『Believe』ドンピシャ世代すぎてイントロのそのセリフ聞いただけでテンションあがっちゃんだよなぁ」

○「初志貫徹ってことで、目的地に着いたのでペットボトル拾ったんですよ」

●「ほうほう」

○「そしたら拾った直後、目の前の人がズドンッ!!と秒で座りまして」

●「どんな顔してました?」

○「『結局お前のゴミだったんかい』みたいな。俺のじゃないよ!? でも周りの人もすっかりマナー違反野郎みたいな視線を俺に向けてくる」

●「それで『かつての英雄が、今では戦犯…みたいなこと』ですか。善行には善行の旬があって、時期を逸すれば悪行になってしまうこともあるんですね」


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