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BOOM&DODO!!!

Imagine……(想像してください……)。今あなたの右手には、コミックヒーローのアクションフィギュアがにぎられており、しかもそれがおそろしくクールな一品だったとしましょう。そして反対の左手がつかんでいるのは、ブロック・トイで構成された自作のカイジュー・キャラクターです。

おそらくあなたは、たましいの奥底から発信されるなぞめいた衝動をキャッチしており、両手のトイを戦わせて遊びたい欲求におそわれている最中でしょう。むりもありません。なぜならそれは人間がまだ勇敢な生物だった時代――こうてつの剣と盾を装備してゴブリンやドラゴンやワニやゴリラと戦っていた時代――のなごりであり、あなたのDNAにこびりつき、かろうじて残った野生のPOWERだからです。

両手のトイをガシガシと衝突させることにより、あなたの脳はアドレナリンという名の脳内ニトロ麻薬を高速噴射し、V8妄想エンジンを爆発的に回転させます。アメコミヒーローとオリジナル・カイジューの対決という、オフィシャルではありえないコラボレーションの実現に、あなたの心臓は怒涛の16ビートを刻みます。ぜったいに刻みます。それは決定的に確実な確定的事実であることが明らかです。

そして妄想エンジンの回転数が臨界点に達したとき、あなたは音響演出効果によるグッド・ヴァイヴスを求め、無意識のうちにこう叫びだすことでしょう――BOOM!(ブゥーン!) DODODO!(ドドドッ!)と。

※「ブンドド」とは、人形で遊ぶ際に発する世界共通の擬音であり、戦闘シーンの効果音やロボットの駆動音などを表現した語であるとされている。またそこから意味が転じて、今では人形玩具を用いた表現行為全般を指す用語となった。なおブンドドを生業としている者たちは「ブンドディスト」と呼ばれる。(マイク・スチュアート「SNS時代とポップ・カルチャー論」より抜粋)



ブンドド・ビックバン

もともとブンドドとは、単なるトイ遊びの一環にすぎませんでした。それは世間一般の人々にとって子どもじみた行為であり、大人がたしなむべき趣味ではないとされてきたのです。そのため、いにしえの時代のブンドディストたちは、すごくくるしみました。おのれのDNAからはっせられる野生ブンド衝動と、文明社会の無知で無慈悲な視線とのあいだで、板ばさみになったからです。これは今の若いブンドディストには想像しがたい事態かもしれません。ですがこれがまぎれもない歴史的事実であるということを、どうかおぼえておいてください。

やがて時は流れ、だんだんと状況が変わりはじめます。対象年齢を高めたトイ・フィギュア(いわゆるハイターゲット・トイ)の登場や、インターネッツ技術の発達によってです。

2010年ごろをさかいに、人々はSNS上でふしぎな写真を目にするようになりました。それはアニメキャラクターのアクションフィギュアをたくみにポージングさせたり、恐ろしく精巧なジオラマにフィギュアを配置したりして撮影した、いわゆるブンドド写真だったのです。また動画配信系のサイトでも、ブンドディストたちは産声をあげていました。海外YOUTUBERをはじめとするプロ動画配信者たちが、こぞってブンドド動画をアップするようになったのです。配信者たちは動画のなかで、両手にもったスポーンのフィギュアやガンプラなどを戦わせ、爆音量で"Boom! Boom!  Dodododo!"と吠えちらかしていました。当時のネット利用者は、困惑すると同時に未知なる期待感をふくらませたのです――”Wow! このINTERNET世界でいったいなにがおころうとしているんだ!?”と。

かしこい読者のみなさんには、もうおわかりでしょう。大人むけのトイ・フィギュアと広大なインターネッツ空間――つまり道具と名目と舞台――これらを同時に手にいれたことにより、ブンドディストたちはニュージェネレーションエネルギーをばくはつさせたのです。言いかえるならば、文明社会としほんしゅぎ経済のあつれきにより押さえつけられていた野生のPOWERすなわち野生ブンドド衝動が、ついに解きはなたれたということにほかなりません。この現象は「ブンドド・ビッグバン」と呼ばれ、現在も専門家のあいだで議論の種となっています。



世界のブンドディストたち

現在、ブンドディストは世界に数多く存在しています。その活動方法や作品形式はさまざまですが、ここでは代表的な4つのスタイルを紹介していきましょう。

ひとつめは、アクションフィギュアにクールなポーズをとらせて一枚の写真に落としこむシンプルなフォトスタイル。ふたつめは、写真をコミックのコマのように見たてた連作フォトスタイル。みっつめは、専門技術と制作時間を必要とするストップモーションスタイル。そしてよっつめは、自らがブンドドしている様子を動画配信するシアタースタイルであり、これが世界的にもっとも人気のあるスタイルだと言えるでしょう。ここでは主にこのシアタースタイルのブンドディストについてふれてゆきます。

たとえばシアトルを本拠地に活動する4人組ユニット”Sonic groove”は、典型的なシアタースタイルのブンドディストであると言えるでしょう。彼らはとくべつな撮影技術や奇抜な編集などにたよらず、メンバー全員が一体ずつフィギュアをもってブンドドするさまを、一発録り(ある時にはLIVE配信)で収録しているのです。sonic grooveメンバーのひとりであるトレモロ・アンダーソンは、以下のように語っています。


”シアタースタイルはもっとも修得が困難であり、もっとも根源的なブンドドスタイルだよ。フィギュアを手にもった瞬間、ぼくたちブンドディストはプレイヤーになり、シナリオライターになり、サウンドエンジニアにさえなる。この三役をひとりでこなして、それを人に見てもらう。それではじめて本当のブンドディストと呼べるんだ。”(2017年のインタビュー記事より)


このように、sonic grooveはクラシックさを重視しており、年齢層の高い硬派なファンをかくとくすることに成功しています。そのいっぽうで、ブンドドとはEスポーツやヴァーチャルYOUTUBERなどと同じく新型のポップカルチャーであり、ファンのメイン層は若者です。つまり若者にとってクールであったりsugoi kawaiiであったりすることが重要なのです。

その点において、ロドニー・エーハーンとアガシ・タケナカの2人組ユニット”HARAJUKU ZOMBIE”は突出しています。彼らがブンドドに用いるフィギュアの多くは、コミックを実写化した人気ハリウッド・ムービーなどのリアル系です。それらは熱心なファンからライトな少年少女まで、幅広い層の若者たちを夢中にさせるブロックバスターなのです。そうかと思えば、往年のカトゥーンアニメキャラクターなど、絶妙にレトロでポップなチョイスを現代的センスによってやってのけるのだから、油断なりません。彼らの動画編集はカラフルでつねにテンポがよく、SNS世代のスピード感にとてもマッチしています。ネット上ではファンサービスもかかさず、ふたりを応援するヘッズたちは「自分もこのムーヴメントに参加しているのだ」という実感と一体感を得ることができるというシステムを構築しているのです。

sonic grooveやHARAJUKU JOMBIEのほかにも、無数のブンドディストたちがインターネッツ上で活動しており、それぞれのファンを獲得しています。こうしてブンドドシーンはじょじょに成熟してゆき、2019年9月には、ついにロサンゼルスにてシアタースタイルブンドド世界大会が開催されることとなったのです。ついに時代が動き始めました。


これからのブンドド・シーン

今やブンドドは巨額のマネーがうごめく世界的ムーヴメントと言っても過言ではありません。だからこそ、ブンドディストたちはこれからの方向性について、できるだけシリアスでいる必要があります。マネーはポップカルチャーを成長させるエサの役割をはたしますが、エサを与えすぎれば動きが鈍重になったり、あるいはお腹を壊したりして、体調を崩し、やがては死に至るでしょう。

また性急すぎるシーンの肥大化は、マナー違反を犯す観衆や悪質なヘイターなども引きよせます。そうした連中に攻撃され、心を痛めて引退したブンドディストもすくなくありません。このような事態にうまく対処していくことこそが、これからのブンドドシーンには求められています。ですが、わたしたちソニックパルスフィクションは信じています。野生フロンティアスピリットPOWERに溢れたブンドディストたちならば、それらを必ずうまくやってのけるだろうということを。

冒頭で述べたように、人類はかつて剣と盾をもっていた両手で、今ではフィギュアをつかんでいます。そしてドラゴンとかゴリラとかに勝利して歴史をつないでくれた先祖たちのように、ブンドディストは自分の信じるブンドドによって、わたしたちにまばゆいポップカルチャー・フューチャーを切りひらいてくれることでしょう。

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