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新鋭トイメーカー“HALK ROAD”がスゴすぎる!!

突然だが、皆さんは「デザイナーズトイ」と呼ばれる玩具作品を知っているだろうか? まるで聞きいたことがないという人も、案外多いのではないだろうか。

デザイナーズトイとは、デザイナーやアーティストなどの作り手が主体となって製作されるオリジナル玩具のことだ。場合によってはアーティストトイだとかインディーズトイなどと呼ばれることもある(実際、これらの定義は割とあいまいなのだ)。一般的な玩具メーカーやフィギュアメーカーの商品と異なり、少量生産が基本だ。ゆえに過去のアイテムは入手が困難になっていることもしばしばである。

そんなデザイナーズトイ、玩具としての形態はさまざまだ。定番どころとしては、ポップでアーティスティックな雰囲気のソフビ(ソフトビニール製の人形)やプラスチックフィギュアあたりだろうか。

しかし今回紹介するトイメーカー「HALK ROAD(以下HR)」が主に手がけているのは、12インチアクションフィギュアなのだ。

この12インチアクションフィギュアという言葉にピンとこない方は、どこか手近なリサイクルショップに出向いてみるといい。おそらくはホビー売り場の片隅で、全長約30cmほどの素体に布製の衣装を着せた外国製の可動式フィギュアを目にすることだろう。そういったものをイメージしていただきたい。

ちなみにこれはGLITCHというデザイナーズトイメーカーから発売された12インチフィギュアだ。参考画像としてあげておこう。

ではHRの作品群と世界観を紹介していくが、その前に二人の所属アーティストについて説明しておく。


アメリカと台湾の二人組アーティスト

HRは2016年、アートワーク担当ディレクターのロドニー・ホーク氏とデザイナーズトイ関連のプロデューサーであるカイル・ホン氏が台湾で立ちあげた企業だ。

二人はとあるアート展示会のトイレで邂逅を果たし、そのまま用をたしながら意気投合。カイル氏がロドニー氏の描いたキャラクターの立体化を希望したことをきっかけに、手を洗いながらその場でHRの設立を決定した。その間わずか数十秒。恐るべき決断力とスピード感だ。

ニュージャージー出身のロドニー氏は、グラフィティライターとしてそのキャリアをスタートさせている。カラフルかつポップなストリートスタイルのキャラクターに、まるでシシリー・メアリー・バーカーの描くフェアリーのような可愛らしさとリアリズムをミックスしたイラストが持ち味だ。それでいて背景やガジェットからは、ストリートと相性の良いサイバーパンクのテイストが感じられる。一時期は毛筆による書道のテクニックも盛り込んでいたが、なんかしっくりこなかったらしく、すぐにやめている。その後は版画にも挑戦したが、これもすぐにやめている。あとコンビニのアルバイトもすぐにやめている。3時間でやめている。

一方のカイル・クゥ氏は個人でデザイナーズトイを製作するかたわら、映像作家やスケートボードのフィルマー、コンテンポラリーアーティストなど多方面で勇名をはせていた人物だ。普段はポップアートやストリートカルチャーに造詣が深い居酒屋アルバイターとして手腕をふるっていたようだ。造詣の深さを活かしてキッチンを担当していたらしい。ちなみに彼の出身地である台湾の台北はグラフィティアートが盛んな土地であり、これも彼らをひきつけた要因のひとつだったに違いない。海外のトイショーなどに姿を見せる二人からは、ビジネスパートナーというより仲の良い親友のような雰囲気が感じられるほどだ。

そんな両氏の手がけるフィギュアシリーズ“Core Device(コアデバイス)”が、世界中のトイフリークの間で評判になっているのである。


フィギュアの情報量と背景にある世界

コアデバイスはロドニー氏の設定画を忠実に立体化したシリーズだ。看板キャラクターであるDJサイボーグ「クゥ」をはじめ、現時点で8体のキャラクターがフィギュア化されている。もちろんすべてロドニー氏によるデザインだ。

フィギュアの素体(ボディ)はもちろんHRのオリジナル仕様だ。カイル氏の独自設計により、他社の12インチフィギュアを凌駕する圧倒的な可動域を実現している。そしてヘッドパーツのクオリティもさることながら、キャラクターそれぞれの布地衣装や付属する小物パーツなどの作りこみと情報量が尋常ではないのだ。

たとえば「クゥ」で言えば、彼のトレードマークであるプルアップパーカーだろう。これは未来世界においてのヴィンテージ品であり、もとの持ち主がグラフィティライターだったという設定のアイテムだ。そのためペイント塗料を再現したカラフルな汚し塗装が、なんともリアルに再現されている。この手のフィギュアにありがちな着膨れ感もクリアしており、自然にジャストフィットしている状態だ。生地はしなやかながら頑丈な作りで破損の心配がない。作り手たちの並々ならぬこだわりを感じさせる一品だ。

ほかにも細やかな塗装をほどこしたヘッドフォンなど、ハイクオリティなパーツが山ほど付属している。だが圧巻なのは、なんといっても1/6サイズのターンテーブルとレコードだろう。これは実際に起動させることができ、レコードにはHRオリジナルのクールなトラックまで収録されている。これはDJサイボークである「クゥ」のフェイバリット・トラックという設定だ。

そしてフィギュアの購入者には、商品とは別に8000ページにもおよぶ設定資料&アートワーク集、そしてコアデバイスの世界を舞台にしたインディーズゲームのデータ無料で配布されている。ここまでくると、もはやフィギュア製作の域を超えている。ほかにもフィギュアが収められているボックスのポップなアートワークなど、微に入り細に渡って完成度が高い。彼らがそこまで作品を作りこむ理由はなんなのだろうか。

その点について、カイル氏は台湾のトイイベントでこう語っている。


「ぼくらはフィギュアを作っている。でもそれだけじゃない。フィギュアと同時に彼らの住まう世界も作っているんだ。だから30cmそこそこのトイに、キャラクターの人生や彼ら彼女らの住む世界をブチ込まなくちゃならない。あたかも履き古されたVANSのオールドスクールから、持ち主の歴史さえ感じるようにね」


言葉にするのはたやすいが、彼らのように実践できる者はそうそういないだろう。まったく感服するほかない。

さらにHRの活動はとどまることを知らず、例にあげた「クゥ」のほか、原宿のkawaii文化に影響された妖精メカ娘「キャリー」や、スケーターにしてギャングスタにしてフリーターの「ジャンク・リー」など、魅力的なキャラクターが次々と立体化されている。そしてそのどれもが上記のような驚異的完成度を誇っているのだ。

惜しむべき点があるとするなら、それは日本での入手難度の高さだろうか。国内において小売店の流通数はほぼ皆無であり、英語表記の海外通販ショップで購入するか、ホビー系の中古ショップやオークションを狙うしかない。

ちなみにコアデバイスシリーズの本体価格はフィギュア一体あたり10万円前後だ。ひょっとするとあなたは、これを高額すぎると思うかもしれない。だが生産量の少なさとクオリティを考えれば当然の価格だろう。それでもなお価格の妥当性を疑う読者は、どうかいちど実物を手にしてみていただきたい。きっと生命力溢れるフィギュアを前にした瞬間、あなたは衝撃のあまりドボゥドボゥと感涙にむせび、激しい動悸と息切れに襲われ、手足が痺れると同時に意識が遠のき、やがて価格の10倍払っても惜しくないと思い始め、ついにはロドニー氏とカイン氏にそれぞれ2000万ずつ振り込みたいと考えるようになるはずだ。それほどのエネルギーに満ちた玩具作品であるということを、我々ソニックパルスフィクションが保障しよう。


HRは今後フィギュア製作のほかにも、アパレル関連のグッズ展開などを考えているという。そんなロドニー氏とカイル氏の活動を、我々はこれからも引き続きチェックしていく所存だ。



※Photo by Simon Zhu on Unsplash

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