見出し画像

ソニパルロックフェス、そして謎のニューカマーバンド「マヤカシ」に迫る

SONIC PULSE ROCK FESTIVAL
通称ソニパル。

みなさん御存じのとおり、ソニパルは我々ソニックパルスフィクションが主催する、日本100大ロックフェスのひとつである。1998年の第1回から始まり、なんと今年は記念すべき20回目の開催となった。そして例年通り大盛況のうちに閉幕したことは、まだ記憶に新しいだろう。

なかでも話題を集めたのは、2004年に惜しまれつつも解散したオルタナティブロックバンド「ロジカルヘッド」の再結成だろうか。

思い出されるのは第1回ソニパル。まだステージがひとつしかなかったあの時代。当時メンバー全員が10代だったロジカルヘッドがオープニングアクトを務め、圧倒的パフォーマンスで聴衆の度肝をぬいたのだ。そんな彼らの演奏を再び耳にできる日がまさかこようとは。それもこのソニパルの舞台でだ。そして今年2018年の夏、聴衆は汗と涙とよだれを流し、時には失禁しながら、その奇跡のパフォーマンスに酔いしれた。


しかし、である。

本コラムで語るべきはロジカルヘッドのことではない。彼らの再結成がもたらした衝撃と感動については、すでに多くの方々があちらこちらで報告している。あえてこの場で文字数を費やす必要はないだろう。

記事タイトルを見てもらえばわかるように、今回紹介するのは「マヤカシ」というバンドのことだ。

ではどうしてロジカルヘッドの話題を持ち出したのか。

それにはもちろん理由がある。20年前のロジカルヘッドと同じく、今年のオープニングアクトをメインステージで務めたマヤカシ。そんな彼ら彼女らのパフォーマンスが、これまた20年前と同じように、空前絶後のインパクトをもたらしたのだ。



未知にして原始的

会場に足を運んでいただいた方々はすでに御承知のはずだが、今回のソニパルは例年となにかがちがっていた。それは開幕前から、つまり聴衆が入場する時点からはっきりしていた。入場ゲートでスタッフたちがなにかを配っていたからだ。そのなにかとは、なにか。


それはヘッドマウントディスプレイだ。
VR体験に必須の、顔に装着するごついSF眼鏡みたいなやつだ。


どうしてロックフェス会場で、ヘッドマウントディスプレイ?

入場者は困惑したはずだ。まさか今回のソニパルは、なにかしらのヴァーチャルなギミックがほどこされているのかと考え、肉体的なパフォーマンスを期待する者は落胆し、新しいもの好きな人々は興奮したかもしれない。

そして気になる点がもうひとつあった。出演者リストに記載されている「マヤカシ」というバンド名である。こんなバンドは音楽雑誌でも情報サイトでもyoutubeでもSound Cloudでも目にしたことがない。マイナーな地元枠というわけでもなさそうだ。いったい何者なのか。

期待と不安が交差するなか、ついにマヤカシがメインステージに姿を現した。例年のような歓声はなく、聴衆は黙ってステージに視線を送っていた。ヘッドマウントディスプレイ越しの視線を、だ。

そこにはデニムにTシャツ姿の男性が2人、おなじような格好の女性が3人いた。マヤカシのメンバーだ。フェスに出演するロックバンドのヴィジュアルとして、特筆すべきような点は見あたらない。構成もギターにベースにドラムそしてシンセサイザーと、ごくごく平凡なものだった。いや。よく見るとDJブースが設置されてはいるが、これさえとりたてて珍しいことではないだろう。


そして演奏が始まった。

激流のような轟音ギターサウンドに、マリアナ海溝のごとく深々としたリバーブ。いわゆるシューゲイザー的サウンドである。しかしその音量の大きさたるや、マイブラッティバレンタインの比ではない。それは殺戮的であり、壊滅的であり、非人道的ですらある。もはや音による人類滅亡作戦であるとしか考えられない。それははっきり言えば雑音であり、ノイズミュージック愛好家ですら裸足で逃げだすレベルだ。

一方でドラムはひたすらトップシンバルだけをドシャドシャと不規則に打ち鳴らし続け、シンセサイザーはやたら原始的なビープ音を爆音で轟かせ、ヴォーカルはなにか歌っているようだが、ぼそぼそ声でなにも聴こえない。ベーシストはベースに触れてすらいない。マンガを読んでいるからだ。


人々に失望の色が広がり始めた。なんだこのめちゃくちゃな演奏は。いよいよ今年でソニパルも終わったな。そんな心の声が、スタッフテントまで聴こえてくるようだった。


だが。

そこで人々は思いだした。自分たちがヘッドマウントディスプレイを装着していたことを。そして、ある考えが彼らの脳裏をよぎる。


「ひょっとして、ステージに立っているのはヴァーチャルなのか……?」


ごくりとつばを飲み込み、ディスプレイを外す聴衆たち。そして目の前に広がる光景。


同じだった。
ディスプレイ無しでも、まったく同じだった。


あいもかわらずデタラメイションな演奏を続けているマヤカシの5人。地獄の音楽隊もかくやというほどの殺人的サウンド・ウェポン。ベーシストは速読家らしく、早くも2冊目のマンガに手を伸ばしていた。これでは聴衆の混乱は深まるばかりだ。

しかし一人、また一人と、マヤカシが伝えんとするメッセージに気がつき始めた。暴力じみたバンドサウンドから彼らの意図を読みとったわけではない。メッセージははっきりと、文字にして書かれていたのだ。


「俺たちはここにいる!!」


そう記されていた。
ステージ上の巨大な垂れ幕にだ。


しかし何故だ? あんな垂れ幕はさっきまでなかったはずだ。人々は困惑し己の正気を疑い始めた。それもこれも、VRに対する先入観があったからにほかならない。


VR。
つまりヴァーチャルリアリティ。


人々はそれを、実際にはないものを映し出す装置だと思いこんでしまった。だがそうではなかった。マヤカシはVRによってそこにあるはずの垂れ幕を隠していたのだ。発想の転換だ。果てしなく進化を続ける科学技術の無機質性を利用することで、逆に自らの肉体性を強く主張してみせる。それが彼らのやり方なのだった。

ようやくそこに思い至った聴衆たちは、心を打たれた。強く打たれた。くだらない先入観に支配され、物事を深く理解することもなくぼけらーっとステージを眺めていた自分を、……恥じた。そして無意味に設置されていたDJブースさえも、おそらくはVRなのだろうと考えた。


だが違った。DJブースはちゃんとあった。ちゃんと無意味に設置されていた。ベーシストは3冊目に突入していた。


聴衆は再び心打たれた。くだらない先入観に支配されまいと誓った矢先の不意打ちは、まるで100億ボルトの電流だ。気がつくと人々の目からドボドボと涙があふれ、口から泡を吹いて喚き散らし、そして踊り狂った。


「俺たちはここにいる!」
「俺たちはここにいる!」
「俺たちはここにいる!」


マヤカシが演奏を終える頃には、会場全体で大合唱が起きていた。俺たちはここにいる。この究極的にシンプルなメッセージが、人々の心を鷲掴みにしたのだ。


そしてこの時、我々ソニックパルスフィクションは確信した。20年前にロジカルヘッドがぶちかましてみせた劇的なパフォーマンスを、マヤカシもまた、成し遂げたのだということを。



ソニパルの未来は明るい

パフォーマンス終了後、マヤカシは瞬く間にSNS上で話題になった。だがいくら検索してもバンドの情報はでてこない。それもまた彼ら彼女らの神秘性を底上げする要因となっていた。

マヤカシは自分たちのことを、ほとんど黙して語らない。それは我々主催者に対しても同様だった。それゆえ、ここで新たに開示できる情報は皆無だ。だがひとつだけ、本人たちの口から聞きだした重要な話がある。


「第1回ソニパルの、ロジカルヘッドのオープニング。あれに衝撃受けて、俺ら音楽始めたんですよ。見たのはYouTubeの違法動画だけど」


マヤカシはロジカルヘッドの遺伝子を受け継いだバンドだったのだ。第1回のオープニングアクトを務めた当時のニューカマーが、記念すべき20周年のオープニングアクトを任されるニューカマーを誕生させた。これほど主催者冥利につきることが、ほかにあるだろうか。いやあるはずがない。


音楽界の未来は明るい。そう思わせてくれるミュージックパワーを、マヤカシは見事に発揮してくれた。

きっとマヤカシのパフォーマンスに影響を受けた若者たちが、10年後あるいは20年後のソニパルに現れることだろう。そして彼らの遺伝子もまた、後世に受け継がれていく。


そう。
どんな時代でも変わらない。

いつだって「俺たち」は、ここにいるのだ。


※Photo by danny howe on Unsplash

この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?