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ポップカルチャー集団「ワイルド・ゴリラ」が人類をゴリラにしてくれる

今回は読者のみなさんに、悲しい現実を突きつけねばならない。その現実とは、我々おろかなる人類が文明や経済やインターネッツのべんりさと引きかえにWILD(野生)をかんぜんに失った、ということだ。誕生してまもない時代、まだ人類は屈強な筋肉を搭載したたくましい生命体だった。そのたくましさゆえ凶暴なマンモスやサーベルタイガーと激闘をくりひろげ、時には勝利さえするほどだった。それが今ではどうだろう。筋肉ではなく電気にたよりきりで、マネーゲームや仮想通貨によって他人をだしぬくことばかり考え、SNSでの炎上におびえてみじめに暮らす者であふれている。

そもそもこうして嘆いている我々ソニックパルスフィクションもまた、弱体化した人類の一部にすぎない。パーソナルコンピュータやスマートフォンでテキスト文章を書いてきた弊害によりエンピツや毛筆の使い方がわからなくなり草書体も読めず漢字も書けなくなったり書けても筆順を忘れたりしているありさまだ。それもこれも、人類がWILD(野生)を失ったからにほかならない。

もうすべては手遅れなのか? 人類はこのまま弱くなりつつづけやがてイルカやネズミなんかの次世代生物にとって代わられてしまうのか? その答えは……NOだ。このように軟弱化した文明社会においても、人類を救うべく活動している勇者たちが確かに存在するからだ。その勇者たちこそが、新進気鋭のポップカルチャー集団「ワイルド・ゴリラ」だ。


ゴリラ is POWER

ワイルド・ゴリラは5名のクリエイターを中心に活動しており、コミック、アニメ映画、オリジナルのトイフィギュアなど、さまざまな作品やアイテムの創作を手がけている。世界中でメガヒットしたあのカトゥーンアニメ「ゴリラウォー・アルティメット」も彼らによる作品なのだ。

ユニット名が示しているとおり、彼らの作品群はゴリラをモチーフにしたものばかりだ。だがなにゆえゴリラなのか。同じく霊長類のオラウータンやチンパンジーやボノボではいけないのか。そもそも人間じゃダメなのか。もちろんダメだ。何故なら過去のインタビューにて、ワイルド・ゴリラのメンバーであるフィリップ・マクファーレンは以下のように語っているからだ。


「かつてすべての人間が持っていて、今は失ってしまったもの――野生や生命力、すなわちPOWER――そういったものを思い出させてくれる唯一無二の存在、それがゴリラだ。あらゆる霊長類において、ゴリラだけが原始のPOWERを失わずにいる。それゆえ俺たちはゴリラに敬意を払いゴリラをアイコンとすることで、人々の心にゴリラをとりもどそうとしているんだ」


そういうことだ。彼らはポップ・カルチャーのなかにゴリラというアイコンを組み込むことにより、人類DNAの奥底に眠る根源的ゴリラを呼び覚ますべく活動しているのである。それは崇高にして偉大なる試みだが、受け手である我々はなにもシリアスになったり肩肘をはったりする必要はない。なぜならワイルド・ゴリラはつねに良質なエンターテインメント・ゴリラ・コンテンツであることを心がけているからだ。コミックのページをめくったりアニメを観賞したりフィギュアを手に取ったりしているだけで、自然と根源的ゴリラが呼び覚まされる、そんな画期的でパワフルなシステムを搭載しているのである。そのすばらしい作品たちを、ここでいくつか紹介してみることにしよう。


人気アニメ「ゴリラウォー・アルティメットバトル」

全58話からなる長編カトゥーン・アニメであり、ワイルド・ゴリラの名を世界に知らしめた出世作。YOUTUBEの公式チャンネルにて無料配信された。

ストーリーはこうだ。太古の眠りから目覚めた暗黒ゾンビサメ軍団「ジェットシャーク」の地球破壊計画を阻止するため、同じく太古の眠りから目覚めた正義のゴリラ戦士「ゴリラウォー」が拳と棍棒をふるい大活躍するのである。主人公のゴリラウォーは人間以上に高度な知性を有する存在だが鋼鉄の鎧をまとう寡黙なゴリラであるがゆえに、最初はおろかな人間たちから誤解され嫌われる。まさか自分たちを守ってくれているのがゴリラだなんて人間は思ってもいないからだ。またゴリラウォーはゴリラウォーで不器用さを全開にしており、自分は地球を愛しているから戦っているのであって馬鹿な人間どもから評価されたいわけではなく自分の正体を知らせる必要もないと強がる。だが心やさしい少年ジョイや科学者エミリーをはじめとする多くの人間と出会い、ふれあい、人間という種の愚かさみにくさだけでなく、摩訶不思議な魅力に気がついてゆく。そして人間たちも、黙ってやるべきことをやるゴリラウォー・スタイルを目の当たりにしてWILDすなわち野生の心をとりもどしてゆく。そして最後は人間の味方となったゴリラ・ウォーと精神的ゴリラになった全人類が力を合わせジェットシャークとの最終決戦に挑むのである……。

このゴリラウォー・アルティメット、じつは配信当初は誰からも相手にされなかったのだが、SNSなどで徐々に評判が広まった。その圧倒的ゴリラ性に圧倒される人々が続出したというわけだ。さらに動画には日本語を含む6カ国語の字幕とふきかえが有志によってつけられているので、こどもでも安心して楽しめる。過度なスプラッター表現などもない。またこれは他のワイルド・ゴリラ作品すべてにいえることだが、彼らはゴリラという存在を決してモンスターやクリーチャーのように描いたりはしない。一見そのように描かれていたとしても、それはあくまで表面上のことにすぎない。何故ならワイルド・ゴリラの面々がゴリラに見出したのは野生であって野蛮ではないからだ。そしてまたゴリラという種が現実に直面している絶滅の危機というものもキャラクター性に反映されていることが多い。それゆえ彼らの描くゴリラはクレバーでありながらどこかメロウかつメランコリックで賢者のような表情をしていることが多い。


トイ・フィギュア「シルバーバック・シリーズ」

これは映像作品やコミックではなく、ワイルド・ゴリラのオリジナルキャラクターたちを立体化したトレーディング・フィギュアのシリーズである。言うまでもなくキャラクターはすべてゴリラがモチーフだ。ファンタジー風からサイバーパンク、果てはジャパニーズMANGAチックなものまで、ありとあらゆるゴリラが立体化されている。その造形や塗装のクオリティは細部にわたって高品質であり、情報量が多く安全性にも配慮しており耐久性も十分で完全に完璧だ。

シルバーバック・シリーズは1シーズンごとに4体のキャラクターがラインナップされ、2018年12月現在、12シーズン目にあたる「ヒップホップゴリラと愉快なクルーたち」までが発売されている。なんと公式発表によると、少なくとも87シーズンまでは発売が決定しているようだ。フィギュア1体あたりの大きさは約30cm前後で、日本の住宅事情にまったく馴染まないアメトイならではのBIGサイズ感を堪能できる。ちなみにその価格は円に換算すると約3000円といったところ。これはトイやフィギュアの値上がりが止まらない昨今において、驚異の安さであると断言してさしつかえないことが明白に明らかな決定的事実だ。もし国内の大手玩具メーカーが同クオリティの製品を製造販売したなら確実に1万円は超えるだろう。つまりワイルド・ゴリラの創作活動は、そのWILD(野性)なPOWERによって資本主義経済の弱点すらも克服しているということにほかならない事実がこれで明らかになった。


みんなゴリラ

上記で紹介した作品のほかにも、アメリカンコミック「ゴリサーガ」やファッションブランド「ドラミング」など、ワイルド・ゴリラの活動は多岐にわたっている。だが彼らはなにもグッズを乱造してビッグ・マネーの獲得をもくろむセルアウターというわけではない。むしろこの娯楽過多で大量生産大量消費の文明社会を逆手にとるという現代的テクニックによって、潜在的ゴリラの目覚めをうながしているといえるのではないか。上司のパワハラにおびえたり奨学金の返済に苦労したり作りすぎた料理をけっきょく冷蔵庫のなかで腐らせてしまったり。そんな文明社会が抱える闇深き問題の数々は、ゴリラにはなんの関係もない。それはゴリラがWILD(野生)だからだ。さきにも言ったように、ゴリラは野生であり野蛮ではない。だが現代の人間は野蛮なくせに野生ではないのだ。これはいけない。ワイルド・ゴリラのメンバーもそう考えたからこそ、良質なゴリラ・コンテンツを作り続けている。そうしていつしか我々の精神が真のゴリラと昇華された時、ワイルド・ゴリラは計画の成功を祝い、全ての人類とともにナックルウォーキングで熱帯雨林へ帰ってゆくのだろう。

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