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おじさんがひたすら自給自足する物語「土を喰らう十二ヵ月」を観た感想(農家目線)

ほぼ全編が長野県で撮影されたという事から、県内では話題作であった「土を喰らう十二ヵ月」
観てきました。(昨年11月の公開から時間が経ってしまいましたが。。。)

鑑賞直後ノートに走り書きした僕の感想を公開してみるとこんな感じ↓

・ご飯に味噌汁、ふろふき大根に手作りのゆず味噌を乗せ、その料理に対しての「いただきます」で幕を閉じる。
エンドロールが終わり、劇場内に明かりが戻ってきてから真っ先に思い浮かんだことは「帰ったらゆず味噌とふろふき大根作ろう」だった。
・他、これといった感想はない
・あぁ、いいよね、やっぱ日本料理の原点って割烹だよね
・そんな曖昧で抽象的な言葉しか出て来ない
・囲炉裏の端っこで酒を熱燗するシーンが一番よだれ出た
・主演の沢田さん身体硬そう(笑)

なかなかに薄っぺらい感想だと、我ながら思う。
もしくはまだ言葉にできていないだけか。。。

「で、どんな映画だったの?」

と、帰宅早々妻に聞かれると、

「雪国の山荘に一人暮らしするオジサンが、山や畑から旬の食べ物を採ってきて、それを調理して食べる。ただただそんな話。」

と自分は答えていた。

これだけ聞くと実に面白みの無さそうな映画で、観に行くに値しないと思ってしまうだろうが、この物語は一貫して、「雪国の山荘に一人暮らしするオジサンが、山や畑から旬の食べ物を採ってきて、それを調理して食べる。」
を軸に据え、そうしたシーンが繰り返されるのだ。

もちろん作中でいくつかのイベントが起きるのだけれど、そのオジサンは旅に出る訳でもなければ、何かを成し遂げる訳でもない。なんなら自分の生活圏から一歩も出ないままエンドロールを迎える。

もはやエンターテイメントと言えのか?というほどに現実的な物語。
こうした作品、僕は好きだ。

誰かの日常も、カメラで切り取って劇場で放映すると、他の誰かにとっては輝かしいエンタメとして映るのだと再確認できるからだ。

胡麻豆腐をつくっていくシーン

「土を喰らう十二ヵ月」を観て脳内で蘇ってきたのが、「リトルフォレスト」という作品だ。

2015年に映画化されたこちらの作品は、岩手県の過疎の山村が舞台で、18歳程の少女が小さな家で一人暮らしをする話。

野菜入りの色鮮やかなパウンドケーキをストーブで焼いたり、幼馴染たちとどぶろくで一杯やったり、旬の野菜たっぷりのパスタなどが登場。
少女が主人公なので、若い人が観て面白い様に作られている感じ。
田舎出身の僕でさえ、「田舎暮らしいいなぁ」と思ってしまうほどに、色鮮やかな料理や風景が流れていくのが楽しい作品だった。

「リトルフォレスト」を観た当時は、20歳の頃。「田舎での自給自足暮らしをベースにしたい」と思い始めた頃なのでドンピシャでハマったのを覚えている。

それから時は流れ、実際に長野県に移住し、食料自給し農業を生業とした今。
「リトルフォレスト」から約10年の時を経て「土を喰らう十二ヵ月」を観て「こんな丁寧な暮らしがいいな」と相変わらずに思う僕は、きっと今世は作中の主人公たちのような暮らしと、穏やかな精神状態を心の底で望んでいるんだろう。
そして雪国での暮らしが好きなんだろう。

安曇野での自給自足の記録↓

野から植物を採ってきて、調理して食べる。
そんな当たり前のことが、今や「冒険してるみたいだ」と思えるのはきっとこの様な作品に出会えたからこそ。

この手の作品に触れて、「いいなぁ」と思った人はたぶんこんな極小サイズの冒険で日々心を満たしたいのかもしれない。

さぁお外で遊ぼう。

もっと冒険しよう。

野良着を着て玄関を開ける時、それは小さな冒険が始まる時。


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読んで頂いてありがとうございます。

最後に最近心に残った一文

「終わることのない喜びが自然の中にはあります。」
by レイチェル・カーソン

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