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鈴木晶子『辺境の国アメリカを旅する』から浮かぶ多様性と多面性

3年前にニューヨークのEast Side InstituteでのホルツマンらのWSに出たときにお世話になった(一緒にWSに参加した)鈴木晶子さんの著書が出た。

鈴木晶子『辺境の国アメリカを旅する 絶望と希望の大地へ』明石書店、2022

鈴木さんは、日本で臨床心理士/ソーシャルワーカーとして、ひきこもりの若者支援や貧困問題にかかわってきた方。
家族の仕事の関係でアメリカに住むことになった際に、夫&幼い娘とアメリカの大陸全48州をまわった旅行記。

エンタメ性あふれる旅先エピソード集の類いではなく、かといって、ガッツリ社会問題について分析・考察する論考でもない。
淡々といろいろな場所をめぐっていく。

「グラウンドホッグデー」で町おこしをしているペンシルベニア州パンクサタウニー
不動産価格が高騰してホームレスが増加、キャンピングカーでの民泊を選んだワシントン州シアトル
奴隷制維持を訴えた「南部」、南北戦争以来の確執が残り、最近(2017年)にも痛ましい事件が起きた、バージニア州シャーロッツビル

こうしてさまざまな土地を訪れるなかで、鈴木さんの目を通して、貧富の格差、人種差別、先住民などさまざまな社会問題が浮かびあがってくる。

ウィンド・リバー先住民居留地を訪れたときに立ち寄ったホテルでのこと。

カジノエリアとその他でゾーニングがないのは、やはりラスベガスと同じだ。カジノというより日本での感覚から言えばゲームセンターという雰囲気だ。飲み物もアイスクリームも無料で、娘は喜んでいる。
見渡すと、平日の昼間ということもあり、客足はまばらだ。中には見た目にもわかる先住民の人たちも座っている。混血が進み、見た目に先住民とわかる人ばかりではないので、実際にはもう少し多いだろうと思う。

実際に全米を回って目にする先住民カジノは、日本で聞く華やかなカジノ産業のイメージや、アメリカ国内の「先住民はカジノで儲けて裕福」という都市伝説とは全く異なっていた。このカジノのように地方の普通のホテルや、中には誰も来ないような山奥にゲームセンター程度のものがぽつんとあるだけのものまであった。これでは単に地元の先住民がギャンブル依存症になって地域全体が疲弊していくだけなのではないか、と仕事柄依存症を持つ人にたくさん出会ってきた私としては、解せないものを感じていた。

pp.146-147

上の引用部でもそうだが、道中での幼い娘さんの反応――飲み物にはしゃいだり、途中で飽きてしまったり――が、出来事の多面性を表し、シリアス一辺倒になるのを防ぐ点で、よい味を出している。もっとも、その娘さんが博物館でのKKKの衣装と説明に怯えてしまうような話で、また考えさせられるのだけれど。

「多様性」という一見きれいな言葉ではこぼれ落ちてしまうようなアメリカの多様性を映し出す良書。

私はアメリカは、先述のNYに加え、学部時代に2週間ホームステイしたシアトルにしか行ったことがない(全米をめぐるというと子どもの頃にやっていた「アメリカ横断ウルトラクイズ」を思い出してしまうというイメージの貧弱ぶり)のだが、アメリカの各地を訪れたことがある人なら、よりいっそう本書を楽しめるだろう。

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