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命は数えるものか? 【234/200】

僕は間違っていたのかもしれない。

以前、世界史の教材編集者だった頃、20世紀を扱った号の編集後記でこう書いた。

僕らは死者の人数を数えることに慣れてしまった。
命は、数えるものじゃない。

受験生の読者から、共感の手紙もいただいた。

歴史を学ぶ者として、歴史から学ぶ者として、そして、戦争を放棄した日本で生きる者として、深く考えて言葉にしたものだ。

でも、僕は間違っていたのかもしれない。




先日、このETV特集を観た。


ミッドウェー海戦 3418人の命を悼む 第一部「命の重さ」

ミッドウェー海戦 3418人の命を悼む 第二部「残された者たちの戦後」


恥ずかしながら、作家・澤地久枝さんのことを初めて知った。

40年前、日本とアメリカで大規模な調査を行い、ミッドウェー海戦で命を落とした3418人の詳細を明らかにした方。

遺族の方々へのインタビューも、澤地さんの言葉も、知識として受け取るにはあまりにも重かった。

澤地さんが調べ上げた3418という人数は、その一人ひとりにとって、その一人ひとりの遺族にとって、極めて重要な意味を持つ「1」の総和だ。

「およそ3400人」では意味がないのだ。

まだ他にもいるのではないか? 3419人ではないのか?
そう問い続けて、探し続けて、数え上げた3418人なのだ。


そうやって一人ひとりを大切に数え上げてはじめて、僕らは命を悼むことができるのかもしれない。


僕らは、いや僕は(勝手に世の中を代表してはいけない)、死者の人数を数えてなんかいなかった。
ただ、メディアから知った「人数という情報」の受け取り方に困り、キレイな言葉にまとめることで、その情報がもたらす心の重さから少しでも解放されたかっただけかもしれない。

命を数えるということは、一人ひとりの命を大切に扱うということなのだ。


その情報を受け取る立場として、僕はもっともっと想像力を働かせなければならない。


番組の中で、特に心に残った言葉がある。

「戦争を知らなくとも、想像することはできる」
「忘れることはできなくとも、許すことはできる」
「同じ過ちを繰り返さないためにも、忘れてはいけない」

そしてもうひとつ。
第二部の最後に澤地さんが語った言葉。

「絶望はしない。自分が希望を失ったら、後の世代があまりにも酷いことになる」


学べば学ぶほど、知れば知るほど、過去の教訓は、心を暗闇で満たそうとする。

それでも、絶望してはいけないのだ。

絶望しないと決めねばならないのだ。

20年経って、僕もそれに立ち向かえるだけの経験と勇気を得てきたはずだ。



戦争とは、暴力とは、怒りとは、目的ではない。手段だ。

最も愚かで、生産性の低い、決して目的を達成することのできない、間違った手段だ。

手段は選ぶことができる。選択肢をつくることに、知恵を絞り続ける必要がある。

「やむを得ず他に手段がなかった」とは、絶対に言ってはいけないのだ。


安全な場所からは、何とでも言うことができる。

極限状態に追い込まれて誤った手段を選んだ人たちと僕は、本質的には何も変わらない。

ただ、生きている時代と場所が違うだけだ。

だからこそ、安全な場所にいる者こそ、安全な時間にいる者こそ、想像し続け、考え続ける必要があるのだ。

目的は何か? 他に手段はないのか?


こう書いていて、難しさに目がくらむ。

身近な環境においても、職場でも、地域でも、家庭でも、相互理解ができずに争いが絶えない。

多様性を尊重し、共存共栄することは、無理ゲーにしか思えない。


それでも、絶望してはいけないのだ。

正しく暗闇で満たされた心を道連れに、希望を描き続けていく。

今を生きるということは、そういうことなんじゃないかと思う。


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