【インクルージョン】上司と部下の良好な関係性が職場のインクルージョンを高める(Brimhall et al., 2017)

今回は、上司と部下の関係性がインクルージョンに及ぼす影響に焦点を当てた文献を紹介します。

Brimhall, K. C., Mor Barak, M. E., Hurlburt, M., McArdle, J. J., Palinkas, L., & Henwood, B. (2017). Increasing workplace inclusion: The promise of leader-member exchange. Human Service Organizations: Management, Leadership & Governance, 41(3), 222-239.

どんな論文?

この文献は、児童福祉組織におけるリーダーとメンバーの交流(Leader-Member Exchange:LMX)により、インクルージョンの度合いが時の経過とともにどう変化するかを調査したものです。

公立の児童福祉組織(n = 363)から、6ヶ月間隔で3時点のデータを収集し、そのデータを分析した結果、LMXに対するポジティブな回答が、6ヵ月後と12ヵ月後にインクルージョンの感情が高まることと関連していることが示されました。

3時点でのデータを収集した縦断研究は珍しいです。(なかなか協力してもらうのが難しいので・・・)だからこそ、概念間の関係性という意味ではそこまで新たな発見はないのですが、縦断研究というレア度の高さゆえに、関心が集まっているのだと思います。


上司と部下の関係性:LMX

本文献では、インクルージョンを高める重要な要因の1つが、組織におけるリーダーシップの質である、と述べられています。過去の先行研究から、リーダーシップは、従業員の機能だけでなく、従業員が職場環境に対する認識への影響も明らかになっているようです(Aarons & Sommerfeld, 2012; Dulebohn, Bommer, Liden, Brouer, & Ferris, 2012; Zohar & Gill, 2010; Zohar & Tenne-Gazit, 2008)。

中でも、リーダー・メンバー交換(Leader-Member Exchange:LMX)理論(Graen & Uhl-Bien, 1995)は、職場環境におけるリーダーシップの効果を研究する上で最も有用な方法の1つとなっている(Nishii & Mayer, 2009)とのこと。

過去の投稿でも、Nishii & Mayer(2009)の論文を取り上げておりますので、関心ある方はこちらをご覧ください。

今回の文献では、すでに明らかにされているLMX→インクルージョン風土の関係を、3時点のデータ収集による縦断研究により、リーダーとメンバーの関係性の質が高まれば、インクルージョン度合いは時を経るごとに高まっていく、という変化を示そうとした点に新奇性がありました。


3時点のデータ分析結果(備忘的に)

この論文では、一定変化モデル(Constant Change Model)という研究デザインが用いられています。正直、まだしっかりと理解・解釈できていないのですが、今後定量分析を行うかもしれないので、今後の備忘のために貼り付けておきます。

図3は、一定変化モデルのパラメータ推定値を示している。その結果、LMXは、第1時点のインクルージョンのスコア(b = 0.47, SE = 0.05, z = 10.37, p < 0.001)、および第1時点と第2時点の変化スコア(b = 0.18, SE = 0.06, z = 3.19, p = 0.001)と正の相関があることが示された。一定変化モデルは、インクルージョンの認知は、6ヵ月ごとに1.0単位の一定または発展的な変化によって正の影響を受けることを示唆している。

P10

(LMXがT3のインクルージョンに影響を与えている、という数値結果は探せず・・・謎です。)

ただ、T1、T2、T3と、人数が少しずつ減っている(回答してくれなかったのだと想像します)ので、インクルージョンの値そのものは減っています。


感じたこと

今回の研究では、一定変化モデル(Constant Change Model)というデザインが用いられていましたが、初めて聞いたものでした。モデルと分析方法だけでも様々な種類があり、また、こうした分析の出来るソフト・出来ないソフトもあるようです。

あまり得意ではない分野ですが、研究という領域に踏み入れてしまった以上、避けられないとも思うので、このあたりも徐々に学んでいかなくては、と思いました。



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