【パーソナリティ】パーソナリティ研究の動向と展望を概観できるレビュー論文!(平野, 2021)
最近は「イノベーション」に関する文献紹介が多かったですが、今回は、「パーソナリティ」に焦点を当ててみたいと思います。さて、私の研究はどこへ向かっているのでしょうか・・・。読んでくださっている方の参考になれば、まあ良いかな、という気持ちで、少しずつ領域を拡げていこうと思います。
どんな論文?
この論文は、ここ数年のパーソナリティ研究の動向を、「ビッグ・ファイブを用いた研究」や、「敏感さやダークトライアド」といった,病理や不適応と親和性の高いパーソナリティに関する研究を概観しているものです。
突然ですが、「ビッグ・ファイブ」についてご存じでしょうか?
このNoteをご覧になっている方は、大学院関係者の方も多いので既知の内容かもしれません。
「ビッグ・ファイブ」とは、簡単に言うと、人の個性が5つの因子の組み合わせによって決まる、とされる理論や因子を指します。
その5つの因子とは、「Openness(開放性)」「Conscientiousness(誠実性)」「Extraversion(外向性)」「Agreeableness(調和性)」「Neuroticism(神経症的傾向)」の5つです。
以下のサイトを読むと、イメージを持っていただきやすいのではないかと思います。
もう一つ、聞きなれない(と思われる)「ダーク・トライアド」という言葉についても補足します。
ダークトライアドとは、ナルシシズム、サイコパス、マキャベリズムという3つの因子によって説明されるパーソナリティ特性です。
簡単に言えば、平気で嘘をつく、罪悪感が欠けている、人を裏切る、共感性がない、思いやりが足りないといったヤバイ特性、です。
ちなみにWikipediaでは、以下のように解説されています。
ダークトライアドでググると、カウンセリング系のWebsiteにたどりつくことが多いのですが、研究文脈だと、以下が元論文なども紹介されていて便利でした。
現在のパーソナリティ研究の動向
まず、ビッグファイブですが、パーソナリティ研究では本当に頻繁に登場するようです。
小塩氏らによって開発された日本語版(Ten Item Personality Inventory: TIPI-J)という、わずか10項目で調査できる尺度が生まれたことにより、多くの研究に活用されるようになったとのこと。
最近では、5因子に加えて、公正さー謙虚さ(Honesty-Humility)を加えた、HEXACO(Honesty-Humility、Emotionality-Extraversion、Agreebleness、Conscientiousness、and Openness to experience)と呼ばれるモデルが用いられることも増え、研究蓄積も進んでいるようです。
主に心理学領域での研究が多いですが、学び・キャリア・パフォーマンスとの関連や、コミュニケーション特徴など、経営学領域での研究も増えているようです。
よい特性/悪い特性
こうしたパーソナリティ関連の研究レビューを踏まえ、著者は、特性の良し悪しが文脈的に語られていることを指摘しています。
本来、価値とは無関係であるはずの特性(パーソナリティ)ですが、
抑うつ傾向や神経症傾向、攻撃性などの不適応の原因になったり、社会的関係の阻害となるような変数は「わるい性格」、
社会的な適応や学業的・経済的な成功を導く『能力』(たとえばレジリエンスや自己効力感)と関係する変数は「よい性格」
として、研究されてきたとのこと。
そして、「わるい性格」の代表として紹介されているのが、上で紹介した「ダークトライアド」です。そして、ナルシシズム、サイコパス、マキャベリズムに加え、「サディズム」を加えた「ダークテトラポッド」という考え方も出てきているようです。
また、「よわい性格」は、不適応や、病理や精神疾患につながりうる特性として紹介され、ビッグファイブの「神経症的傾向」、「バーンアウト(燃え尽き症候群)」「感覚処理感受性」などを紹介しています。
興味深いのは、こうした「わるい/よわい性格」にも、ポジティブな側面がある、という研究が紹介されていることです。
例えば、ダークトライアドは、社会的に望ましくない行動との関連性が見られますが、以下のようなケースでは、ポジティブな影響があると説明されています。
マキャベリズム・ナルシシズム⇒政治家としての資質や成功
集団主義的な文化におけるナルシシズム⇒リーダーに選ばれる
競技スポーツのアスリートは、そうでないアスリートに比べて、ダークトライアドが高い
ナルシシズムが高い⇒ストレスの持つうつ病リスクを緩衝
また、「神経症的傾向」は、将来の健康行動や、死亡リスク低下を予測させるものという研究が合ったり、「誠実性」も「神経症的傾向」も高い場合は、喫煙や薬物使用のリスク低下といった健康へのポジティブな影響が報告されています。
ほかに、「感覚処理感受性」(いわゆる、Highly Sensitive Personと呼ばれるとても繊細な感受性)は、騒音などの環境からネガティブな影響を受ける一方、美的感受性などのポジティブな影響も受けやすいようです。
逆に、「よい性格」と考えられる特性にも、ネガティブな側面があると指摘します。
例えば、「環境への適応」といった特性は、時に過剰適応となってしまう懸念があり、「共同性」という他者への配慮を含む特性は、配慮が行き過ぎた際に「傷つけられ回避」という行動と正の相関が示されているようです。
著者のメッセージ
本論文のまとめとして、著者は以下のように述べており、これには強く同意します。
感じたこと
こうした、「よわい/わるい特性」として研究されているものにも、光を見出すという姿勢や、最後に紹介したような、個々人の特性を受け止めて、共存するための視点を探ろうとする姿勢などには、素直に感銘を受けました。
こうした、著者の熱い想いが現れている一方で、研究に求められる客観性も失っていない、という絶妙なバランスは、やはり文章全体の構成や言葉の選び方に現れるのだと感心します。
研究内容も参考になりますが、研究者としての姿勢にも学ぶところの多い論文でした。
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