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悲しみと絶望を越えたキセキの指輪のものがたり

結婚式を挙げました。
晴れの特異日とされる秋晴れの日、
お姫さまにしてもらいました。
幸せいっぱいでした。


新婚旅行に行きました。
6泊7日で組んだ旅行。
嫁ぎ先の祖母が
「7日帰りは縁起がよくない」
と言って、7泊8日になりました。
幸せいっぱいでした。


朝、目覚めると私たちの新居。
嫁ぎ先の2階の部屋でした。
幸せいっぱいでした。


ゆっくり目覚めて、遅い朝ご飯を食べました。
嫁ぎ先の母が朝寝坊の私たちの分も
用意してくれていました。
3世代同居で主人の弟も一緒に暮らして
いました。
甘えん坊の朝でした。


洗濯を始めます。
新米主婦初日、
やっちゃいました、、、
ポケットの確認を忘れました、、、
最後に洗った色物に白いものがまとわりついて
います。

パンパンパン
パンパンパン


バスタオルは、2階の窓の柵にかけましょう。
爽やかな秋の風が乾かしてくれます。

パンパンパン
パンパンパン


今日は、お世話になった方たちに新婚旅行の
お土産を持ってまわりましょう。
そんな話をしながらのカフェタイム。


そんなとき、、、


あっ、声が出ません、、、
こころで叫びます、、、


ない!!!



隣りにいる彼にも言うことが出来ません、
でも声にならない声に気づいた彼が言いました。

「どうしたの?」


「指輪がないの・・・」


「えっ!!!???」


優しい彼は、「さっき手を洗ったでしょ」
と洗面台を見てくれました。
階段を下りて台所、玄関、とわたしが通ったで
あろう場所をみんな見てくれました。
外にも行き、2階の窓の下、側溝の中、
見て回ってくれました。
わたしもテーブルの下、カーペットの下、
半泣きになりながら探し回りました。


でも、どこにも見当たりませんでした。。。


悲しみ・・・

の底にいるわたしに彼はやさしく言いました。


「誕生日までにみつからなかったら買ってあげるよ」


一筋の光が差しました。


「ごめんね。。
 どこにいっちゃたんだろう、」



2カ月後の誕生日。


結婚指輪はまだ見つかっていませんでした。


でも、彼が買ってくれると言ったから・・・


誕生日の朝、
「お誕生日おめでとう」
と手渡された四角い小さな箱。


ようやくおそろいで指輪をつけられる、
と嬉しくて嬉しくて、ほくほくの笑顔だった
と思います。


包みを開けてでてきたのは、
誕生石の入った指輪。
わたしが欲しかったあの結婚指輪では
ありません。


その指輪もすてきです、
でも、わたしの欲しかった指輪はちがうの、


彼は言いました。

「結婚指輪は、一生に一度のものだから、
 やっぱり買うことはできない」


絶望・・・


確かにその通りです。

でもすぐには受け入れられず、もやもやを
引きずっていました。
この絶望の中で起こった出来事はまたの機会に。。。

でも、嬉しいかな、悲しいかな、
わたしという人は、案外と短い時間に癒され、
冬の間には、すっかり、
«あんなこともあったよね»
の気持ちになっていました。


積もっていた雪も溶け、春がやってきました。
指輪のゆの字も口に出さず、静かに時は過ぎて
おりました。


もうすぐゴールデンウイークという頃。
仕事から帰るとお義母さんが言いました。


「これ、たかこそうそうのじゃないかね、」


キセキ・・・


おばあちゃんが草取りをしていたら、抜いた草と
一緒にぴょんと跳んできたそうです。
なんだろ!?と拾ってみたら、なんと指輪!

そして、おかあさんに見せたそうです。
裏を見ると、
日付は、息子夫婦の結婚記念日。
イニシャルは息子と嫁のもの。
なんで、外に・・・???
と思ったでしょうね・・・


「あっ!!!わたしのです~!」


「どこにあったの???」


わたしたちの2階の部屋の窓の真下ではなく、
少し奥のほうにありました。


普段、人は歩かないところ。


あの日のパンパンパン、パンパンパンで
飛んでいったのですね。
結婚前にやせて指が細くなっていたのです。
指輪、ゆるくなっていたのです。



秋を過ぎ、冬を越え、雪の下、春まで、
この子は耐えてくれました。
見つけてもらうのを待っていてくれました。
これをキセキと呼ばずにいられましょうか!
こんなに辛抱強い指輪は滅多にいませんよね。


いやいや、結婚指輪をなくす人が滅多に
いませんよね、、、


新婚旅行から帰ってからすぐ、結婚指輪を
なくすような子と30年以上一緒にいてくれる
人がいることもキセキかな・・・


そして、この子は今でもわたしの薬指にいます。
あの日を反省して、指も痩せなくなりました。



30年以上前のお話です。


キセキの指輪のお話です。






 



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