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内臓はお好き?衝撃の初アンドゥイエット体験

最近、パンを焼く機会が増えてきたのでパンのお供として鶏レバーペーストを作るようになりました。ヨーロッパでは各国にレバーペーストがあって国ごとに若干作り方が異なるようです。今回はフランス風に牛乳とバターを使ったレシピで作りました。

さて、日本でも様々な料理で楽しまれるホルモンですが、私の印象ではフランスもかなりのホルモン好き。今日はパリで出会ったアンドゥイエットの衝撃初体験の思い出話。

時は2006年。世界一周の旅の第一弾として日本を出て2年目でした。半年をヨーロッパにあてる計画で、中でも4月下旬から6月下旬の3か月をじっくりパリで過ごしてみることにした我々は、最初の1か月は安宿に泊まりながら観光し、同時に賃貸できる部屋も探していました。

まだまだアナログだった時代、オペラ座近くのBook-offの店内には「売ります・買います」など日本語でのリアル掲示板がありました。賃貸料金の値上がりが激しかったパリでは、既にルームシェアが始まっていて、パリ在住の日本人が自分が借りている部屋の一部を貸す募集を出してくれていたのです。そこで、中心部のアパートの一室と郊外の庭付一軒家の一室を見学させてもらい、パリ郊外に2か月部屋を借りることになりました。

借りた部屋からの景色

家のあったノアジー・ル・グランNoissy Le Grandは、パリ中心部のオペラ座から西に20km。新宿から国分寺くらいの距離で、最初は遠いなぁと思っていたのですが、中央特快みたいなRER(パリ高速郊外列車)があってオペラ座駅まで20分で行けるので、実際はそんなに苦痛ではない場所でした。

苦痛どころか、駅ビルには大型のカルフールや家電ショップなどが入り、大きな公園もあって、非常に快適に静かに暮らせたので、2か月後には去りがたい街となりました。

駅近くの公園
駅ビルのショッピングモール

この家を拠点に、毎日のようにパリ市内や郊外の観光地を訪れる日々。朝はその日のランチ用にバゲットを買いに行くところから始まるのが常でした。近所には3軒のパン屋さんがあって、どこも安くてレベルの高い焼き立てバゲットが買えました。これにソーセージやハムやチーズとサラダをはさんだら、簡単なのに絶品サンドイッチになります。

近所のパン屋さん

最初は普通のソーセージを買っていたのですが、5月のある日、カルフールで今まで気づかなかった激安ソーセージを発見したのがアンドゥイエットとの出会いでした。

翌日、モンマルトルの丘周辺に観光に行こうと、いつものようにバゲットを買ってきて、家のキッチンでフライパンを温めて縦半分にソーセージをカット。その瞬間、いつもとは違うアンモニア系のホルモン臭に「おや?」と思ったのでした。「ははーん、フランスにはこういう内臓入りのソーセージもあるのね。」なんて軽く思いながら、そのソーセージの切断面を下にしてフライパンに置いて1分もたたない内に、ソーセージの下からニュルニュルと細いヤツや細切れのヤツが出てきて、フライパン中をクネクネと這いまわる。同時に最初に感じたホルモン臭が更に数倍も強烈な臭いを発してキッチンに充満してくるではないですか!

「ギャーーーーッ!!!!」。私の叫びを聞きつけてキッチンに来た夫も「何じゃこれはー!」とその臭いと光景に愕然としたのでした。

恐怖のフライパンの図(右下)

そして改めて調べてわかったのが、この食品が、アンドゥイエットという、豚の小腸に豚の腸や胃などの内臓類を詰めたソーセージだという事でした。因みに大腸に詰めたものはアンドゥイユというそうです。我々のようなフレンチ・ホルモンについてズブの素人からしたら「とても食えない」という第一印象の食べ物ですが、世界的にこういう食べ物こそ根強いファンがいて歴史があって奥深いものです。
アンドゥイエットはシャンパーニュ地方のトロワという街が有名で他にもアルザス地方で伝統的に食べられていたようです。

1960年頃にはグルメ・コラムニストで美味しいシャルキュトリの愛好家である5人の友人によって非常に非公式に「Amicale des Amateurs d'Andouillette Authentique」という協会が設立され、この協会の審美眼が有名となり、今では協会の審査員によるお墨付きを得た製品は協会の頭文字を取った「AAAAA」や「5A」をパッケージや広告で2年間使う事が許されているそうです。

確かに、スーパーに並ぶアンドゥイエットを注意深く観察すると高価なものにマークが付されていていました。

因みに同協会の公式HPを日本語で自動翻訳すると「本物のアンドゥイレットとアンドゥイレットを愛する人の友好協会」と協会名が翻訳されます。喜多方ラーメンと同じシステムだと思うと幅広いファンがいる事が容易に想像できますね。

そんなわけで実は奥深い食品と出会ったのですが、心構えもなくカルフールの中でも一番リーズナブルな「No.1シリーズ」の製品(大抵は粗悪)を買ってしまったため、恐怖の初対面となりました。

ソーセージの備蓄もなく、時間も迫っていたので、アンドゥイエットのサンドイッチとデザート用にバゲットにヌテラ(ヘーゼルナッツチョコクリーム)を塗ったものを持参して観光にでかけました。

モンマルトルの丘の麓、有名なキャバレー「ムーランルージュ」の脇を通って、ユトリロなどが描いた細い趣のある階段を上って、丘の上にあるサクレクール寺院を見学し、寺院前になだらかに下る緑の公園のベンチで持参したランチを広げてみました。

サクレクール寺院

朝の強烈な臭いは大分鳴りを潜めているものの、やはり普通のソーセージを期待する身には限りなくホルモン味で、食べているとどうしても今朝のフライパンに蠢く光景が思い出される。辛かったなぁ。早くデザートのヌテラサンドに移行したいのに、ホルモンサンドがなかなか終わらない。楽しいはずのランチタイムは「どうする?もうやめる?まだ頑張れる?」と不思議な我慢大会の様相を呈して、眼下に広がるパリ市街や遠くに見えるエッフェル塔も心なしか涙で霞んでくるようでした。

モンマルトルの丘から眼下のパリ市街

丘から下る途中で映画「アメリ」で有名になったカフェでアメリが大好きな「クレームブリュレ」を食べて、大分気分を取り戻したのを思い出しました。

カフェにはアメリのポスター
お店の推しはもちろん「クレームブリュレ」

因みにモンパルナス駅付近で有名なガレット屋に行った時、洒落た身なりの若い日本人男性が同じく若い日本人女性に「ああ、このアンドゥイユって有名なんだよねー。これにしよう!」と注文。「おいおい、やるじゃないか」と思ったものです。しかし、到着したガレットを一口食べて二人が沈黙してしまいました。アンドゥイエットやアンドゥイユは博識ぶった輩が手を出して火傷する危険な食べ物なんだとあらためて認識したものです。恐るべし、フランス食文化!

その後、AAAAAのアンドゥイエットを食べて夫は「私はもう克服した!」と仰ってますが、私はいまだに克服できていない。人生における課題とさせていただきます。

ということでアンドゥイエットよりは全然ハードルが低くて食べやすい鶏レバーを使ったパテのご紹介です。アクセントとして生の春菊を最後に加えてみました。


★ 『鶏レバーパテ』
<材料>

  • 鶏レバー 200g

  • にんにく 1片

  • 玉ねぎ 1/2個

  • バター(有塩) 30g

  • ブランデー 大さじ2

  • 強力粉 大さじ1

  • 塩小さじ 1/3

  • こしょう 各少々

  • ローリエ 1枚

  • 牛乳 100ml

  • 春菊 適量

<作り方>

  1. にんにくと玉ねぎはみじん切り

  2. レバーは一口大に切って、血の塊や脂肪を取り除き、水洗いしてペーパータオルで水気をとり、塩・コショウして強力粉をまぶす

  3. バター10gをフライパンに入れて着火し、1を炒めて軽く色づいてきたら、2とローリエを加え、レバーの表面にうっすら焼き色がついて火が通るまで炒める。

  4. 3へブランデーを加えてアルコールを飛ばしたら、火を弱めて牛乳を入れ、水分がなくなるまで煮た後、粗熱を取る。

  5. 4からローリエを取り除いてフードプロセッサーにかける

  6. 5に残りのバター、塩・コショウ、春菊を入れて更に攪拌

材料
レバー下処理後に強力粉をまぶす
玉ねぎとにんにくのにんにくのみじん切りをバターでソテー
レバーを追加
ローリエも加えて更に炒める
牛乳追加
水分がなくなるまで火を入れる
バゲットにレバーパテ(左)を乗せて召し上がれ!

今回は牛乳をフライパンに入れて煮詰める方法なので、ふわっと甘い仕上がりになりました。他にもレバーを牛乳に30分浸して臭みをとって、フライパンには生クリームを入れる方法もあり、その方が甘味が少ないと思います。またイタリアのフィレンツェ風だと牛乳とバターは使わずにアンチョビ、ケッパー、オリーブオイルで作ります。次回はフィレンツェ風を作りたいな。

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