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【読書メモ】実証主義とは何か:『組織行動論の考え方・使い方-第2版-』(服部泰宏著)

先日は、『組織行動論の考え方・使い方-第2版-』の第2章をHBRのマネジメント研究の歴史と合わせてまとめました。HBRの約100年の歴史の中では1940年代から1970年代において人事や組織に関する記事が多かったのですが、その背景には組織行動論の領域でも実証研究が隆盛であったことが関連していると思われることを書きました。今回は、第6章で服部先生が書かれている実証主義についてまとめます。極めて濃厚な内容なのでうまくまとめる自信がないので、実証研究について深く学びたい方はぜひ本書を手に取ってくださいませ。

実証主義の源流

そもそも実証主義は何を起源としているのでしょうか。服部先生によればやはり他の科学と同様にヨーロッパの啓蒙主義に端を発するとしています。その中でも特に影響を与えた存在として、イギリス経験論のジョン・ロックであり、狭義の実証主義を提唱したサンーシモン、オーギュスト=コントの影響が後世の実証主義に大きな影響を与えたようです。

ポパーの反証主義

サンーシモンとコントの狭義の実証主義を乗り越えようとした存在として二人挙げられています。最初のカール・ポパーは反証主義を提示した人物として知られています。

 命題に対し「それは正しくない」ということを経験(観察)によって確認できる状態(反証可能な状態)を常に用意しておくことで、「絶対に正しい」という意味での「心理の発見」ではなく、「とりあえず間違っていない」という暫定的な状態を継続させて「知を漸進的に進歩」させることを目指すのが、ポパーの提唱する反証主義である(Popper, 1934)。

p.105

経験論をベースにした狭義の実証主義では、一つひとつの経験を基に抽象化して科学的真理なるものを検証することを目指していました。それに対してポパーは、仮説は反証されない限り暫定的な科学知として認めるものの常に反証に対してオープンであるという状態性を提示しました。科学的知識の要件として反証可能であることが言われることがままありますが、これはポパーの提示した反証主義を反映したものと言えます。

クーンのパラダイム論

狭義の実証主義を乗り越えようとした二人目はトマス・クーンです。クーンはパラダイム論を提示した人物として有名で、大学受験の際に私は知ったのでだいぶ多くの日本人に知られている科学哲学者です。

 ポパーが科学の歴史を「新たな理論の登場とその反証の不断かつ永続的な繰り返しの歴史」と捉えていたのに対し、クーンは、科学の営みは、既存のパラダイムのもとで、それを所与として疑うことなく進められる、きわめて漸進的なものだと考えたわけである。

p.108

この服部先生の要約は感動ものです。ポパーとクーンは双方ともに狭義の実証主義を乗り越えようとした点では共通するものの、ポパーがラディカルな反証を志向しているのに対して、クーンは漸進的なパラダイム転換によって科学知が進展すると捉えているようです。

実証主義的な研究を行っている身として、実証主義とは何かを学べる大変貴重な機会となりました。


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