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【読書メモ】マネジメント研究の潮流から見た組織行動論研究:『組織行動論の考え方・使い方-第2版-』(服部泰宏著)

服部泰宏先生の『組織行動論の考え方・使い方-第2版-』の第2章は初版になかった章で大変興味深く読ませていただきました!ある資料をまとめる上でDIAMONDハーバード・ビジネス・レビュー2023年2月号(以下HBR)の「HBR100年から経営課題の変化を読み解く」と読み比べることでさらに面白く読めました。マネジメント研究と組織行動論研究との関係性を考察したい方はぜひ併読なさってみてください。

マネジメント研究100年間の潮流

まずHBRの論文から。本論文では、HBRが創刊された1922年から2021年までの100年間の全記事14,777本を対象にして取り上げられたテーマの傾向を調査しています。使用されている経営用語を特定した上で、伝統的なMBAのカリキュラムで扱われているトピックと対応させ、①財務・会計、②人事・HR、③マーケティング、④オペレーション、⑤組織、⑥戦略の6つの領域に分類しています。

これらの領域で扱われてきた記事の数をカウントし、年代ごとに6つのトピックの推移を見ていくと、年代ごとにトレンドがあることが明らかになり、3つの主要なパターンが発見されたとしています。

①初期には財務・会計とオペレーションに関連する用語が優勢で、その後、一貫して徐々に減少している、②戦略とマーケティングに関する用語は、着実かつ大幅に増加している、③組織と人事・HRに関する用語は、根強く大きな比率を占めている

p.48

3つの領域についてのパターンと合わせて、3つの時代区分ごとに特徴があるしています。本論文では、1920年代から1940年代、1950年代から1970年代、1980年代から2010年代、で分けていますが、後述する服部先生の書籍での組織行動論でのレビューと整合させるために、①1920年代から1930年代、②1940年代から1970年代、③1980年代から2010年代、の3区分に分けて考察します。

①1920年代から1930年代

製造業など大規模な資本集約型産業に関連するコンセプトが頻出しました。それに伴って財務・会計、オペレーション、組織の課題に関心が集中したとしています。

②1940年代から1970年代

1940年代には、労働者に関する経営管理が前面に押し出され、労使関係を仲介する労働組合の重要性が高まり、団体交渉をめぐる問題が多く取り上げられるようになりました。1950年代からは、コングロマリットの事業構造の重要性を反映して、組織構造に焦点が当たるようになり、人事への注目度も増し、企業が一人ひとりの従業員とどのように関わることができるかを取り上げるようになっています。

後で触れますように、この年代において組織行動論における実証研究が盛んになったことと符合すると考えられます。

③1980年代から2010年代

1980年代からは競争と戦略や顧客中心主義に関するマーケティングのアイディアに注目してきました。そのために必要なオペレーションの管理を最大化するための構造的経営手法に焦点が当てられています。

2000年代以降も戦略のための新しい経営フレームワークが登場しました。マーケティングおよび戦略的差別化の一環としてのイノベーションの重要性は増しています。

組織行動論での実証研究のはじまりと隆盛

ここから『組織行動論の考え方・使い方-第2版-』の第2章に移ります。この章では、1924年に開始されたホーソン工場実験以降の約100年間の学説史的レビューを行っています。HBRの創刊年(1922年)と極めて近い時点からのレビューです。

組織行動論研究の萌芽

ホーソン工場実験は、上述したHBR論文の区分である「①1920年代から1930年代」における主要な研究群のテーマであった大量生産を行う上でのオペレーションの最適化を行うために、物理的作業条件と作業能率の関係を明らかにすることが研究仮説でした。

しかし、作業条件や作業能率に関する示唆を見出すことはできず、ホーソン効果(注目を浴びることで期待に応えようという心理が働き良いパフォーマンスが引き出される)、インフォーマル集団(非公式集団による生産性への影響)、カウンセリング施策といった人間関係論(組織の生産性やパフォーマンスに人間関係が大きく関連する)研究の萌芽となったとされています。

組織行動論研究の隆盛

1940年代から1960年代には、人間関係論の問題を継承しながら行動科学の観点から公式組織における人間行動の解明に取り組むことで新人間関係論に関する研究群が盛んになりました。リカート(=「リッカート尺度」の人です)、アージリス、マグレガーが主要な研究者であり、この時代に組織行動論の研究が多く見出されました。

組織行動論における実証主義研究の萌芽の一人であるリカートは、「①因果関係の測定→②因果の理解→③現実への理解のあり方の更新→④現実の更新(新たな行動・手立て)→①因果の次なる測定・・・を繰り返しながら、リカート自身が信奉するシステム4に近づいていくことを目指すのが、実証科学的マネジメント」(p.44)としていました。

一般的な実証主義者がX→Yという因果関係を抽出することを目指し、つまりリカートの①→②という固定的な関係を明らかにすることに留まるのに対して、リカートは研究から実践へと橋渡しを行った上で実践からのフィードバックを踏まえて研究を改めて行うという「研究者と実践家とのダイナミックな関係」(p.44)を想定していたと考えられます。

研究と実践の乖離!?

1950年代から1960年代に組織行動論における重要な概念や方法が登場しました。特に1960年代以降は実証主義研究の全盛期であるとされています。

ただし、上述したようにリカートが研究と実務との往還関係を想定していたのに対して、X→Yの因果関係を明らかにする研究が多くなり、実践と乖離した科学の閉鎖性を招くことになりました。おそらくは、こうした組織行動論における実践と研究との乖離が、1980年代以降にHBRという実務家向けの雑誌での記事数の減少に繋がったと考えられます。

EBMgtによる問いかけ

研究と実践の乖離によるレリバンスの喪失に対する批判として2000年以降に登場したのがEvidence Based Management(以下EBMgt)です。研究者によって産出された知識を現実におけるマネジメントに適用するというような考え方で、服部先生は以下のような三つの特徴があるとまとめておられます。

第1に理論よりも事実の生産にウェイトを置くこと、第2に研究成果の実践への実装を企図するという意味でリサーチ・プラクティス・ギャップ問題を主題化していること、第3に実践家による因果関係への関与を想定していること

p.49

本章の最後では、EBMgtの問いかけは重要ではあるものの、EBMgt論者は実践家と研究者とのあるべき関係性については充分に触れられていない点などを挙げて、検討すべき余地は多く残されているとされています。

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