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【論文レビュー】いま企業で求められる管理者コーチングとは!?:永田(2021)

日本労務学会にて研究奨励賞を受賞された永田正樹さんの管理者コーチングの論文がアツイです。インタビューデータを基にした分厚い記述により、経験学習、リフレクション、心理的安全性を交えながら、いま求められる管理者コーチングが明らかにされています。永田さんは、今年度から立教LDCで教鞭を取られているため、「もう一年遅れて入学していれば授業を取れたのに…」と歯噛みしております。

永田正樹. (2021). リフレクションを中心とした経験学習支援―マネジャーによる部下育成行動の質的分析―. 日本労務学会誌, 22(1), 4-19.

リフレクション研究とコーチング研究の統合

本論文がスゴイのは、一言で言えばリフレクション研究とコーチング研究とを統合した点にあります。その上で、管理者コーチングにおける理論面と実践面とに多くの示唆を提供しています。グラウンデッドセオリー(以下GTA)のうちのストラウス&コービン版を基に明らかにした以下のカテゴリー関連図にポイントがまとまっています。

永田(2021)、10頁

本論文では、理論的示唆と実践的示唆をそれぞれセットとなる四点にまとめておられます。この構造を踏襲して以下でそれぞれ見ていきます。

①リフレクションの前提には成長支援の準備と仕事のアサインメントがある!

関連図を見ていただければ明らかなように、【リフレクション支援】の前には【成長支援の準備】と【仕事のアサインメント】という二つのカテゴリーがあります。つまり、リフレクションそれ自体も大事ですが、その前提として支援体制を整えて適切な仕事を付与することが必要不可欠です。

つまり、マネジャーに対して「1on1を月に一度はやってね」「内省支援のスキルはこんな感じだよ」と研修やガイドラインとして提供するだけでは足りないということです。職場づくりをどのように進めるのか、職務のアサインメントをどのように行うのか、というように、日常的なリフレクションを取り巻く職場や職務へのマネジャーのケアについて企業としてサポートすることが大事なのです。

②心理的安全性の高い職場を構築せよ!

関連図の左上にあるように「心理的安全感を与える」ことが重要です。つまり、心理的安全な職場を整えるという組織単位でのケアが、一対一のコーチングにも影響するということを明らかにされています。

ここで誤解してはならないのは心理的安全な職場とは仲良しクラブではないということです。永田さんは、Edmondson(1999)を援用して、心理的安全性を「チームメンバーがお互いに、このチームは人間関係上のリスクを取っても安全であると信じている状態」(15頁)と定義しています。つまり、リスクていくして失敗しても責められないという意味での安全性であり、お互いにリスクを取らないぬるま湯ではないということは留意するべきでしょう。

③仕事のアサインメントへの一工夫が大事!

三番目の点は関連図の右上にある【仕事のアサインメント】というカテゴリーを導出した点にあります。これまでの経験学習研究は、経験を通じて学習するという個人の視点に留まったものでしたが、個人の視点に対してコーチングというマネジャーの視点を統合したものとして【仕事のアサインメント】を明らかにしたことが画期的な点と言えます。

実務目線で言えば、タフでチャレンジングな職務をアサインして「あとは頑張って」と言って個人の経験学習に委ねるだけではダメであるということです。チャレンジングな職務をアサインするのであれば、メンバーのモティベーションや効力感を高めるサポートをすることがマネジャーには求められると考えるべきでしょう。

④リフレクション支援には四つプロセスがある!

個人の経験学習は、企業研修でもよく提示されるKolb(1984)の経験学習モデルを嚆矢に、Gibbs(1998)やKorthagen et al.(2001)で明らかになってきました。その一方で、他者による経験学習のリフレクション支援のプロセスはこれまで明らかにされていませんでしたが、本論文では関連図の右下にある【リフレクション支援】として四つのプロセスを明らかにしました。

永田さんも述べられているように、この四つのプロセスを基にしてリフレクション支援のガイドラインを作成したり、それを研修プログラムに落とし込むことによって、マネジャーによるメンバーへのリフレクション支援をサポートすることが企業には求められます。そうすることによって、1on1がマネジャーの自慢話に終わるという悲しい現実を解消することができるのではないでしょうか。

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