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【読書メモ】ギャップ・スポッティング:『面白くて刺激的な論文のためのリサーチ・クエスチョンの作り方と育て方』(M. アルヴェッソン+J. サンドバーグ著)第3章・第4章

『面白くて刺激的な論文のためのリサーチ・クエスチョンの作り方と育て方』の第3章と第4章では、先行研究の位置づけを確認したうえで、先行研究で明らかになっていないリサーチ・ギャップを明らかにしてリサーチ・クエスチョンを設定するアプローチをギャップ・スポッティングと呼んで批判的に論じます。読み進めるごとに、自身のリサーチ・クエスチョンの設定アプローチを指摘されているようで、ここまでグサグサと刺されるとむしろ読後は爽快です。

先行研究の中に研究を位置づける三つのアプローチ

そもそも先行研究とは何のために行うのでしょうか。お恥ずかしい話ですが、最初の修士課程の二年目の途中まで私はよくわかっていませんでした。当時、ある先生から「モティベーションやキャリアを扱う書籍・雑誌だけではなく、「経営学」の棚にあるすべてのものに目を通すことだよ。(所蔵数の多い)三田じゃなくてよかったね。笑」と言われた時の衝撃を今でも忘れません。

必要性を納得したものについてはわりあいマジメに取り組むタイプなので、文字通りすべての書籍に目を通しました。その結果、分かったことは、①ジャンルの見解は著者によってぶれるがおぼろげな輪郭はある、②同じ概念を扱う書籍では結局は同じことを立場の違いで論じている、③精緻な先行研究を行っている書籍を読めば同じジャンルのそれより古い出版年の書籍は結論だけ読めば問題ない、④線が引かれている箇所が少なく、SFC生は行儀が良いor単に本を読まないかのいずれかでありおそらくは後者である、の四点です。

③④は余談的な気づきですが、①②は勘所としては悪くない気づきだったのだと思います。というのも著者たちは、先行研究の中に自身の研究を位置づけるアプローチとして以下の三つを78頁で提示しているのですが、それなりに整合しているように思えるためです。

(1)統合的一貫性
従来は同じテーマとして引用されてこなかったものの関連性を指摘し、その中に自身の研究を統合的に位置づける

(2)累積的一貫性
時系列によって進展してきたテーマの流れを提示し、その中に自身の研究を位置づける

(3)非一貫性
見解の不一致が存在する点を指摘し、自身の研究がどのような立ち位置で展開しているのかを位置づける

ギャップ・スポッティング

先行研究において明らかになっている多くの知見の中に、まだ明らかにされていないリサーチ・ギャップを検出してリサーチ・クエスチョンを構築するというアプローチを、著者たちはギャップ・スポッティングと呼んでいます。結論を先取りすれば、ギャップ・スポッティングによってリサーチ・クエスチョンを設定する方法を、著者たちは第3章・第4章で展開しています。

著者たちは、いわゆるImpact Factorのスコアが高い国際的な学術誌に掲載された119本の論文を対象として分析した結果、ほとんどの論文のリサーチ・クエスチョンがギャップ・スポッティングのアプローチで設定されているとしています。ギャップ・スポッティングには三つの基本形があるとして、84頁で以下のようにまとめています。

(1)混乱スポッティング(confusion spotting)
競合する説明

(2)軽視・無視スポッティング(neglect spotting)
見落とされていた研究領域 / 研究が不十分 / 実証データによる裏づけが不足 / 特定の側面に関する検討の不足

(3)適用スポッティング(application spotting)
先行文献の拡張と確定

ギャップ・スポッティングの課題

ではギャップ・スポッティングによるリサーチ・クエスチョンの設定の何が問題なのでしょうか。

ギャップ・スポッティング的なリサーチ・クエスチョンは、既存の理論や先行研究の根底にある前提に対して挑戦するのではなくむしろそれらを再生産する傾向があるので、面白い理論の開発につながる可能性は低い

124頁

つまり、従来の研究の前提を所与のものとして継承しているため、新規性や面白さに欠けてしまうということなのかもしれません。

ギャップ・スポッティングからの脱却!?

ここまで見てきたように、著者たちは先行研究を基にしてギャップを明らかにするというプロセス自体を否定しているわけではなく、むしろ必要不可欠なものとしています。ただ、リサーチ・クエスチョンを作るうえでギャップ・スポッティングのアプローチに依存していると研究を発展させる問いに繋がる可能性が極めて低いということを指摘しています。

この課題に対応するためのキーワードが問題化です。第4章の最後で提示し、第5章での展開を予告しています。


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