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【読書メモ】回帰分析とパス解析:『心理学・社会科学研究のための構造方程式モデリング Mplusによる実践』(村上隆・行廣隆次監修、伊藤大幸編著、谷伊織・平島太郎著)第3章

学術論文を読んでいると、色々な分析手法を理解したつもりになってしまいがちです。いざ、分析してみて、論文として書くプロセスに進むと、うまく文章に落とし込めず、自身の理解があやふやだったことに気づきます。いずれも私の経験でして、こうした問題意識を持っている状態で、『心理学・社会科学研究のための構造方程式モデリング Mplusによる実践』の第3章を読むと、回帰分析パス解析とは何かについて、基礎の基礎から深掘りして学べます。Mplusを使う方だけではなく、他のソフトウェアであってもパス解析や回帰分析を行う大学院生にとって必読の章と言えそうです。

回帰分析

回帰分析もパス解析もなんとなく理解したつもりだったのですが、本章の冒頭で著者は、極めて明瞭簡潔に両者を説明してくれています。ここだけでも、本書を読んだ価値があると言えます。

まず回帰分析についてです。

回帰分析とは、単一または複数の独立変数(説明変数)と単一の従属変数(目的変数)の間に回帰式と呼ばれる式をあてはめ、独立変数によって従属変数の変動をどの程度説明しうるかを分析するための手法

p.43

回帰分析はあくまで独立変数と従属変数との関係を予測することにあります。つまりは、相関関係があるかどうかを分析するものです。

パス解析

次にパス解析について、どのように書かれているのかを見てみましょう。

パス解析は、回帰分析を拡張したもので、複数の従属変数を設定して変数間の因果関係を分析する手法

p.43

回帰分析は相関関係の分析であり予測を明らかにするものであったのに対して、パス解析は因果関係を分析する手法であるとしています。パス解析の結果として出力されるものがパス係数であり、これは因果的効果として解釈される値です。

因果推定に縦断研究が必要な理由

ここで重要な注意事項は、パス解析を行ってパス係数やモデル適合度が充分な値であれば因果関係が自ずと証明されるわけではない、ということです。この点は非常に重要なので、少し長くなりますが引用します。

パス係数が因果的効果を表すのは、あくまでパス図で仮定した因果関係の方向性が正しく、かつ、適切なデザイン設計に基づき交絡因子の影響を調整できているという前提が満たされる場合に限ったことです。単に「相関係数や(重)回帰分析ではなくパス解析を用いて分析した」というだけで、因果関係を検証できるわけではないことには注意が必要です。

p.53

つまり、パス解析で明らかにされることは、分析者が想定した概念間の関係性の方向が正しいという前提がつくため、この部分の証明はパス解析ではできないということです。だからこそ、一時点での調査では矢印を検証することはできないために複数時点での調査によって矢印を確定する縦断研究が求められるということなのでしょう。


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