【読書メモ】『私の個人主義』(夏目漱石著)
1914年に漱石が学習院で行った講演録です。漱石の講演録の中では最も好きな作品の一つで、何度も読み返しています。学生に対して軽いノリで話し始めながら、最終的には人生訓に近しい重たいことをメッセージとして伝えるという漱石ならではの含蓄のある内容です。
探究すること
漱石はまず、自身が留学時代およびその後に帰国した後の苦労話をしながら、何かに対して丹念に長い時間をかけて取り組むことの重要性を話します。これもまた、説教くさくないのがいいのです。
現代においても、即効性のある知識やスキルの習得を煽るような宣伝文句を見ることは日常茶飯事です。そうした状況においても、漱石の至言を心して読んでみたいものです。
こだわりを糧に
では、探究する際の拠り所は何になるのでしょうか。
漱石は、こだわりがあるかどうかである、としています。無闇に何かに取り組むべし!というのではなく、こだわりをリトマス試験紙のようなものとして扱い、こだわってしまう何かがあるのであれば、それについては探究してみたらどうですか?と言ってくれているのです。
個性と自由と尊重
探究することは自由であり、その結果として個人の個性や専門性というものが培われるものなのでしょう。こうした個性と自由とを重視しながらも、漱石は、個人の自由の裏側には他者の自由の尊重があるとしています。
漱石の個人主義
他者の自由の尊重を重視することはすなわち、自由の背景には義務があるということを意味しています。
こうして、自由と義務とを併せ持つ個人主義というものを漱石は主張しています。これが、書籍のタイトルにもなっている漱石にとっての「私の個人主義」ということなのでしょう。
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