見出し画像

あらすじで読む『人材開発研究大全』〜第1章:採用〜

人財開発担当者は、どのような人物が入社してきても、変わらず粛々と「いい教育コンテンツ」を企画し遂行すれば良いーー。というわけにはいきません。

新規入社者は、どのようなプロセスを経て、何を評価されて、入社することに至ったのか。入社後の定着や、スムーズな実力の発揮を図るために、人財開発部門は採用を理解する必要があります。だからこそ、『人材開発研究大全』では第一部を入社前のフェーズに当てているのでしょう。

では、服部泰宏先生が執筆された第1章「採用」を実務目線で読み解いてみましょう。

目次
(1)日本企業の新卒採用における三つの課題
(2)解決策の方向性
(3)人財開発部門に求められること

(1)日本企業の新卒採用における三つの課題

①曖昧にされる期待
新卒採用においては、企業側も求職者側も相互に期待が曖昧なまま採用/入社が合意される傾向があります。客観的に記述される職務を基に採用が決まるのではなく、能力という抽象的な内容に基づいて採用/入社が決まります。そのため、企業側も学生側も「なんとなく良さそう」という印象ベースで採用/入社のプロセスが進むことになります。

②曖昧で画一的な能力評価
「良さそうな学生像」はそれほど変わりませんから、評価基準は多くの企業で同じようなものとなります。この傾向は、実務面での印象では日系でも外資でも変わりません。だからこそ、売り手市場と呼ばれる新卒採用において、特定の学生が内々定をいくつももらう一方で、内々定が一社も出ない学生も現れるという二極化が起きているのです。

③曖昧さの帰結
能力評価の基準が画一化されていることは、多くの日本企業の採用プロセスもまた画一化されます。新卒一括採用に対する是非の議論が多く為されていますが、採用基準も採用プロセスも画一的なものであれば、新卒一括採用は、企業側にも学生側にも相対比較でのマッチングという観点ではメリットがあることも事実でしょう。

日本企業における新卒採用のこれまでの流れとその背景を理解しておくことは重要です。しかし、ここ数年のトレンドとしてそこに変化が生じてきていることもまた事実です。服部先生は、2016年の新卒採用を調査する過程で、上記の課題への三つの解決策の方向性が見出されてきたと指摘します。

(2)解決策の方向性

①採用選考によって「優秀さ」を定義する
期待が不明確であれば、採用プロセスを経ることでその企業における「優秀さ」を定義してしまおうということです。つまり、職務に基づいた絶対不変の基準を演繹的に導き出すのではなく、採用のプロセスによって人財を評価していきながら「優秀さ」を明確にしていくという帰納的アプローチです。

②採用と育成を接近させる
能力の基準を採用プロセスで導き出していくためには、様々なアクティビティを学生に経験してもらうことが必要でしょう。そのために、インターンシップや内定フォローの段階において、人財開発部門が協働する場面が増えてきています。その結果、どこからどこまでが採用・育成なのかの線引きが難しくなってきています。

③一括採用からの脱却
同じ年度に採用する同じ学歴の学生を同じ採用プロセスで採用することで「同期」として平等に処遇するという運用が行われてきました。しかし、一部の企業では、〇〇採用という枠を複数設けることで多様な人財を採用できるようにしたり、一部の学生の内定辞退を防ぐためにタッチポイントを増やすという取り組みが顕著になってきました。

(3)人財開発部門に求められること

採用プロセスによって「優秀さ」が定義されるのであれば、その副産物として入社者それぞれが持つ「優秀さ」の要素が明確になるはずです。それを踏まえて、個別にフォローすることが新人研修の期間およびその後の配属後の情報として有効でないわけがありません。また、多様な新卒社員の個別情報を踏まえたきめ細かな対応も求められるようになるでしょう。

したがって、人財開発部門は採用部門と連携してそうした情報をプロアクティヴに受け取り、新人研修の企画に活かすとともに配属部門の上司やHRBPに情報を引き継ぐべきではないでしょうか。採用部門は採用すればおしまい、人財開発部門は新人研修期間が終われば役割終了、ということではないはずです。


この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?