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これを読めば「ホスピタリティ」という言葉について誰かに伝えたくなる話。2

誰かに伝えたくなる話《その1》では、ホスピタリティという素敵な言葉の意味を掘り下げてみました。これに続く《その2》では、本来豊かに持っているホスピタリティを、いつでもどこでも誰に対してでも自然にサクサク発揮するためのマインドセット(心の持ちよう)について、あなたと共有したいと思います。いわゆる「よそさま」に対しては精一杯ホスピタリティを発揮しようとするのに、職場の後輩や、さらに身近なパートナーや家族に対してはハピネスの仕掛け人としての本領発揮を控えてしまう…。そんなもったいないことをしていてはつまらない。つまらないところからは、お誘い合わせのうえ(笑)みんなで脱却しましょう! さあ、一体どうやって? 


■「ホスピタリティを身につけよう!」というのは、勘違い

誰かに伝えたくなる話《その1》で、ホスピタリティを「天使のイタズラ心」のようなものだとお話しし、私たちはみんな、これをサクサクと発揮する「ハピネスの仕掛け人」なのだとお伝えしました。
 
そもそも私たちは生物として、群れに属したいと願い、その群れや、群れの誰かの役に立つ(役に立って認められる)ことを嬉しく感じるようプログラミングされているといわれます。心理学者マズローが説いた社会的欲求・承認欲求という、例のアレです。ホスピタリティ開発の観点から言葉を換えれば、私たちは生まれながらにして「天使のイタズラ心」を宿した「ハピネスの仕掛け人」だということ。
 
書籍やネット情報で「ホスピタリティを身につけよう!」といった表現を目にすることがありますが、ホスピタリティは、学んで習って身につける類の「スキル」ではありません。誰もが生まれながらにして豊かに持っている本性であり、資質なのです。学んで習って身につけられるのは、ホスピタリティを具体的に表現する「方法」と、すでに持っているホスピタリティを一層深く耕したり、幅広く発揮したりするための「知恵」の部分なのです。
 
「ホスピタリティとか『天使のイラズラ心』とか、そんな素敵なものが本当に私の中にあるのかな…」
 
…なんて感じるかたには、中谷彰宏さんの著書『あなたは自分が思うほどダメじゃない』から、次の言葉をご紹介しておきます。
 
「才能がないのではない。使い方を忘れているだけだ」

■お客様には「天使のイタズラ心」、部下には「悪魔のイタズラ心」

ここまでを読んで、
 
「ウチの職場の上司は、確かにお客様には『天使のイタズラ心』を発揮していると思う。でも、私たちスタッフに対しては『悪魔のイタズラ心』ばっかり発揮している気がする(笑)」
 
…なんて思ったかた、いらっしゃいますか。
 
「私たちは、いつでもどこでも誰に対してでも発揮できるホスピタリティを生まれながらにして持っている」とお話しして来ました。せっかく持っている「天使のイタズラ心」。これをオフにせず“常時接続”にして相手との接点を快適で楽しいものにしたら、自動的に自分自身も楽しくなってwin-winなのですが、確かに、そうは問屋が卸さないケースも多々ありますよね。
 
お客様には腰を低く、うやうやしく接してしている先輩が、バックヤードでは後輩スタッフに「何べん言わせんの? お客様の前で笑顔が全然足りないつってんだろー!」などと声を荒らげる…。
 
コンサルティング初期の個別面談でスタッフの方々とお話ししていると、そんな、かつてフジテレビ系の『スカッとジャパン』という番組に登場していたような“オラオラ指導”の体験談や目撃情報がポロポロ出てきます。
 
こういう先輩に「あなたの怒声や睨みつける形相の合理的な必要性を140字以内で説明しなさい」と筆記試験をしたら(笑)、どんな答えを書くのでしょうか。言うまでもないですが、さまざまな仕事の現場で人手不足が深刻化の一途をたどる今、この手の勘違いは一番の大敵です。

■ホスピタリティの発揮は、近しい相手から順番に

もちろん、警察官や消防士、自衛官や海上保安官などの教育訓練課程においては、ときに“オラオラ指導”に映るような厳しい部分があるとしても無理からぬ話。一瞬のウッカリが、即座に人命に関わってしまう…。そんな特性を持った職務に就く以上、「ここは」という要所で絶対に気を抜かない“習性”を全員確実に身につけておく必要がありますから。
 
また、還暦オーバーである私自身は、いろいろな意味でイケイケドンドンの色彩があった昭和時代、おっかない先輩から指導を受けたり、自分も同じようにおっかない先輩役を担ったりしたこともありました。
 
しかし、令和の今どき、一般の会社やお店で「…つってんだろー!」では、スタッフが定着せず次々に離脱してしまうでしょうし、程度次第ではハラスメント案件に認定されかねません。まあ、そういう職場こそ、私どもホスピタリティ開発事務所にとってはコンサルティングの見込み客ですが(笑)。
 
ビジネスの現場で、よく「お客様第一主義」といったスローガンが掲げられています。それは正論であり、異を唱えるつもりは全くありません。しかし一人の生活者としてハピネスに満たされた日々を送る上で、私たちがホスピタリティを発揮するよう意識したほうがいい優先順位(あえてつけるなら)は、「お客様から」ではなく「身近な相手から順番に」となります。
 
仮に①家族、②職場の方々、③仕事上のお客様という3つのくくりで考えるとすれば、まずもって、しかも一番しっかり発揮すべき相手はパートナーや家族。続いて、職場で一緒に働く方々。そして最後に、会社やお店で接するお客様。これが順当なのです。なぜそう言えるのでしょうか。 

■まずは、パートナーやご家族に対して

ひと対ひとの関係性として最も濃く、かつ永きにわたりあなたの支えとなってくれる(逆に言えば失うインパクトが大きい)のは、おおよそパートナーやご家族であるはず。生きて行く上で基盤となる、まさに「運命共同体」です。だから、まずはそこからですよね…という話。プライベートの生活時間が充実し、安らぎながらたっぷりパワーチャージができてこそ、私たちはオフィシャルな活動にエネルギーを出せるのです。
 
昭和時代に夫たちが「釣った魚にエサをやるバカはいないだろ~?」なんて虚勢を張るのも酒飲み話の“あるある”でしたが、あれは今なら炎上必至ですよね。「社会の最小単位」とされる家族。生きる上で最も濃いこの関係性を、楽しくて心地よいものにし、お互いにハピネスを高め合えるようにする…。何といってもこれが出発点です。
 
パートナーも家族もおらず、もっか一人で暮らしているという場合は、家族に次ぐ近しさにある人(何かと相談に乗ってくれる友人、気の置けない趣味の仲間、職場の中で特に親しい人など)を念頭に置いてみて下さい。

■2番目に、職場の方々に対して

ホスピタリティを発揮するよう意識したい対象の優先順位、その2番目が、力を出し合い補い合って共通の目標を追う、職場の方々。パートナーや家族に次いで一緒に過ごす時間が長く、苦楽をともにしながら協力して生活の糧を得る「運命共同体その2」の面々です。
 
かねてから使われていたES(従業員満足度Employee Satisfaction)という言葉に加え、このところ「従業員エンゲージメント」やら「心理的安全性」やら「ウェルビーイング」やら、新たな言葉が次々に登場しています。切り口はそれぞれですが、要するに「一人ひとりがイキイキ伸び伸び、心身とも快適な状態で気持ちよく働ける職場環境や組織風土がそこにあるか?」ということ。
 
上司や先輩の“オラオラ指導”なんて論外ですが、さりとて「ウチはリーダーが気の利かないタイプだから、チームの雰囲気がイマイチ盛り上がんないんだよね~」などと人のせいにしているのもつまらないし、かっこよくない。
 
正社員だろうがパート・アルバイトだろうが、また職位や勤務年数がどうだろうが関係なし。仕事の現場で必要な当事者意識とは、チームの目標達成に役立とうとする気持ちと、みんなが力を発揮できる風土づくりに役立とうとする気持ちの2つです。何がどうであれ、置かれた場所で自分のホスピタリティをサラリと発揮し、みずから進んで快適な職場風土づくりの一助となってみせましょうよ。 

■3番目に、仕事上のお客様に対して

そして最後が、仕事におけるお客様です。3番目といっても、もちろん3者のうち最も軽んじていい対象だということではありません。たとえば「春のジャケットが欲しい」「歯並びを矯正して欲しい」「英会話のレッスンをして欲しい」などと、ご自分のハピネスが高まるための手助けを求めて私たちの前に現れるのが、お客様。手助けを求めるお客様に精一杯のホスピタリティを発揮してお応えするのは当然であり、またそれが仕事の本質です。
 
お客様が価値を感じるような手助け(商品や役務)を提供し、その見返りに対価をいただき、リピートしたりクチコミを広げていただいたりすることによって事業は成り立つ。すると、事業が成り立っていることによって社員は十分な生活の糧が得られる。すると、生活の糧をもとに英気を養えることによって、ますますお客様の手助けに励む力が湧く…。本稿をお読み下さるようなかたには蛇足ながら、これは変わることなきスパイラルなのです。 

■オンでも、オフでも、ささいなことで二重丸

ここまでを振り返りつつ、まとめましょう。
 
ホスピタリティとは、ハピネスの仕掛け人となって喜びを共有しようとする姿勢。いつでもどこでも誰に対してでも発揮できる。
 
たとえば仕事の現場でお客様のハピネスが高まる役に立ちたければ、誰もが良好なコンディションでお客様支援にあたれるよう、各自が率先して職場環境や組織風土を整えることが先決。そのためにも、お客様を支援するチームのメンバーである一人ひとりが、出勤する以前のプライベートな領域においてハピネスで満たされていることが肝心。従って、普段から私たちがホスピタリティを発揮する相手として意識したいのは、第一にパートナーや家族であり、次に職場の方々、最後に仕事上のお客様。この順番で念頭に置こう。
 
…というようなお話でした。
 
難しいことは何もありません。職場で後輩が「◯◯さん、顧客アンケート用紙のフォーマット案、ご指示のあった体裁で作ってみました」と書類を持って来たときに、キーボードを叩きながら「そのへん置いといて」などと目も合わせずに言うのではなく、ちゃんと後輩に顔を向けて「ありがとう。思ってたよりも早く仕上げてくれて助かったよ」などと感謝やねぎらいを伝えてきちんと受け取る。
 
自宅での夕食どき、パートナーが作ってくれた料理は、テレビの画面に目をやったまま“ついでに”食べたりせず「この味、好きだな~。おいしいね~」なんて言いながら、ちゃんと楽しみながらニコニコといただく。
 
たとえばそんなことです。
 
長いドライブの最中に助手席の妻から「どっかコンビニ寄ってくれない?」と言われて「なに、トイレ?」なんて面倒臭そうに言うのではなく、むしろ言われる前に察して夫のほうから「どっかコンビニ寄らない? そろそろトイレ行っとこうかなと思って…」などと、ささやかに気を回す。
 
…なんてことまでできたら最高。いつしか夫としての株も上がるってもんですよね。書いている私自身にとっても「サウイフモノニワタシハナリタイ」という理想です(笑)。こういう事例の続きは、いずれまた別の機会に。 

■順番をつけるのは、「外づらばっか」に陥らない自戒の策

卓袱台返しみたいになって恐縮ですが、おしまいにもう一言だけ付け加えておきます。
 
「まずは身近な相手から」などと順番をつけるのは、そもそも野暮なことなのです。接するすべての相手にいつでもサクサクと自然にホスピタリティが発揮できたら、それがベストであるに決まっています。でも実際は、相手が近しい人であればあるほど、つい接しかたがおざなりになってしまいがち。
 
そこで自戒のために、敢えてこんな序列を心に留めて置くといいですよ…と私はお勧めしたいのです。順番をつけて考えるのは、「外づらばっか」にならないための知恵。そう捉えていただけると幸いです。
 
ことわざで「親しき仲にも礼儀あり」といいますが、これをもじって本稿の総括としましょう。
 
「親しき仲にこそ、ホスピタリティを!」
 

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