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マイホームの夢実現のため夫の田舎へ移住。手放したキャリアが意外な方向に発展中|先輩移住者file.6

先輩移住者ドキュメントfile.6 都筑さん

  • 生まれ:1986年新潟県魚沼市

  • 移住タイプ:夫のUターンに相乗り

  • 以前の住まい:神奈川県藤沢市

  • 移住時期:2019年春(現在4年目)

  • 家族構成:4人(夫、7歳の長女、2歳の次女)

  • 仕事:道の駅のカフェでアルバイト、リモートワークで販促物の制作・デザインなども請け負う

夫の田舎である高山村に2019年に移住した都筑さん。東京ではスタートアップ企業でバリバリと働き、仕事終わりや休日に「推し活」や文化的な活動を楽しんでいたそう。理想のマイホームが建てられるなら……と仕事を辞めて移住した際には、「自然の中で、老後のようなのんびりとした生活」を想像していたそう。しかしながら、思いがけない出逢いや仕事の機会に恵まれ、新しい自分の姿とやり甲斐を発見していくことに。こだわりのマイホーム建築、一時は手放したはずのキャリアの再発見など、都筑さんの実体験を教えてもらいました。

「いやです。」と断り続けていた夫の田舎への移住

 神奈川県に住んで、東京の人材系スタートアップ企業でずーっと働いていました。2013年に結婚した夫は群馬県の高山村出身。ですが就職をきっかけに上京してからずっと神奈川に住んでいました。結婚当初から「いつかは群馬に帰りたい」と言われていたのですが、即答で「いやです」と断り続けていました(笑)。当時は仕事に夢中だったし、都会での暮らしを結構楽しんでいたんです。「推し活」をしたり、気になるイベントに参加したり、偶然見つけた気になるお店に立ち寄ったり……。夫と一緒に高山村に帰省しても、現実味が沸いてなかったですね。ただ、夫は地元に気の合う友達がたくさんいるし、帰省すると本当に楽しそう。周りの人にも愛されていることがよく分かりました。夫は、都会に住みながらも魂は常に高山村にある、そんな印象でした。私と違って都会ならではの暮らしに特に執着もないみたいだし、会社関係の友達には恵まれていたけど取り立てた趣味もなくて、本人の群馬に帰りたいという希望にいつかは応えてあげなくちゃとは感じていました。

夫の実家に続く小道。今では子ども達のお散歩コースに。

マイホームの夢と、自然回帰への欲求が高まったタイミングでついに移住を決意

 長女を妊娠・出産した後も東京の会社で働き続けていました。自分としては楽しんでいるつもりだったのですが、気が付かないうちに身体にダメージが溜まっていたようなのです。ある日マッサージ屋さんに行ったら、気持ちよくもないし痛くもないし、何も感じない。マッサージ屋さんも戸惑っていて、自分でも驚きました。「あぁ私、疲れているんだ」って。
 少しずつ、忙しい都会生活に違和感を抱くようになり、自然を感じたり四季の移り変わりを味わいたいという欲求が出てくるようになりました。でも周囲に自然がないから、百名山のテレビ番組を見たり、動物のドキュメンタリーを見て誤魔化す日々(笑)。でもある真夏の日、仕事で外回りをしている時に確信したのです。「私、ここでの暮らし、合ってない」と。
 そんな時、夫の実家の近くに家を建てられそうな良い土地の話が浮上しました。結婚してから「いつかはマイホーム」という夢を抱いていたので、そろそろその夢を具現化するタイミングかなと思えるようになっていました。長女がちょうど幼稚園に入園する4月に、10年勤めた会社を退職して高山村に移住しました。忙しい都会生活が終わって、のんびりとした老後みたいな生活に入っていくのかなと想像していました。

森の中の自然を満喫できるマイホームづくり

こだわりを詰め込んで完成した都筑さんの理想のマイホーム。南向きの横に長い平屋。

 移住してからすぐマイホームづくりに情熱を注ぎました。夫が全面的に計画を任せてくれたので、工務店探しから細かい間取り、仕様まで私が主導となって進めました。高山村の中でも人里から離れた森の中に家を建てることになったので、その環境を存分に楽しめるような家をイメージして、工務店さんと相談していきます。具体的なイメージを伝えるのは結構大事ですね。私は、「子ども達が庭で遊んでいる風景を見ながらくつろげる家」というイメージを強調しました。

リビングの前には広いウッドデッキ、そして公園のように広い庭が広がる。都筑さんのイメージ通りの構図だ。

 家が完成して、とっても嬉しかったです。ちょうど、紅葉が終わって葉っぱが落ちきる12月に入居が完了しました。木の葉っぱが落ちると遮るものがなくなり、リビングからの見晴らしがすごく良くなるんです。隣の家の方にカヤの木があって、毎朝野生のリスが実を食べにきます。うちの庭がリス達の通勤路。子ども達と歯磨きをしながらリスの姿を眺めて癒されています。ラッキーだとカモシカやキツネを見れることも。神奈川に住んでた時にテレビで見ていた動物ドキュメンタリーのような光景が、まさか日常になるとは……あの頃の自分が知ったら驚くでしょうね。

薪ストーブは準備が大変なので、ペレットストーブを設置したところもこだわりのポイント。
ウッドデッキで子ども達と季節の手仕事を楽しむ。
新居生活はコロナ禍でスタート。子ども達はステイホーム中も庭で元気で遊べた。


 家を建てたことも嬉しかったのですが、地元に戻った夫がイキイキとしている姿を見ていると、移住して本当に良かったなと実感します。もともと穏やかな人なんですが、高山村にきて、なんというか安定感が増しました。さらに、全く経験のなかった日曜大工に夢中で、休みのたびに作業に没頭しています。地元の友達と遊ぶ機会も比較にならないほど増えて、本当に楽しそう。こないだは自作の薫製機で燻製を作ってくれて、それがとても美味しかったですよ。

旦那さんが自作した薫製機。今はDIY道具を収納するための小屋を作っている最中とのこと。

東京での「組織の立ち上げ」経験が活きる仕事

 移住してから二人目の妊娠・出産を経て、自分のキャリアを生かして働きたいという気持ちが芽生えてきました。当時、コロナ禍での働き方が定着して都会の会社のリモートワーク求人が増えていたんです。高山村にいながら都会の仕事ができるチャンスだと思って色々と応募してみたのですが、結果は不合格の連続で……。きっと倍率も高かったのでしょうね。そんな時にママ友からアルバイトのお誘いをもらいました。高山村の道の駅に新しくできるカフェの仕事です。飲食業界は未経験だったけど、「100年先を見据えた村の中心地づくり」というコンセプトにピンときました。もしかしたら、私が東京のスタートアップで経験した「組織の立ち上げ」と共通するものがあるのでは? と。面接に行ってみたら、パソコンやデザインソフトを使いこなせることや、SNS運営やWEB・システム周りに明るいことを買ってもらえて、とても嬉しかったです。
 実際に仕事がスタートして、業務内容は多岐にわたりました。お客さんの接客だけでなく、メニュー作りやレジのシステム設定、看板やポップの作成、イベントのチラシ作りや割引施策の企画など。販売促進用のクリエイティブの仕事が結構多くて、東京時代の経験を活かすことが出来ました。
 最近では、カフェでの仕事の様子を見ていてくれた関連会社の方から、リモートでできるクリエイティブ系の仕事をもらえるようになりました。以前応募したリモートの仕事はことごとく不合格だったのに、村での仕事を通じて結果的に東京の会社のリモートの仕事をすることになるなんて……なんだか巡り合わせを感じます。

自分の暮らしを豊かにするために、新しい仲間と一緒に村作り・地域作りに携わる


 個人でクリエイティブの仕事を請け負うことになりましたが、制作のスキルを極めて例えばデザイン事務所を立ち上げたいとか、そういう気持ちは全くないんです。それよりも、未来に向けて自分の暮らしを良くしていきたい。そのためには、自分の住んでいる地域を良くしないといけないので、何かその一端を担えたらと思うようになりました。
 私の働くカフェのある村の中心地「さとのわ」には、村の未来に向けて活動をしている若くて素敵な人がたくさんいます。今後はこの仲間達と一緒に、私のスキルを役に立てていきたいです。
 神奈川に住んでいる時は、住む街を良くしようなんて思わなかったし、そういう想いを持っている人にも出会わなかった。でも、高山村では違いますね。小さな村だからこそ村の未来を自分ごとに感じるし、同じ想いを持って具体的に活動をしている人とも知り合える。

 自然の中でゆっくり過ごす移住生活を想像していましたが、想像より仕事に充てる時間も多く、実際には東京時代とはまた違ったやり甲斐を感じています。まだまだ私のミッションを見つけられそうです。未来の村作り、地域作りに関わりながら、自分ならではの専門性を高めて成長していきたいです。

●都筑さんが働く道の駅カフェ「さとのわ」

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●先輩移住者ドキュメントの連載について
移住にあたって一番知りたい、でもどんなに検索しても出てこない情報。それは、その地域の「住みにくさ」や「閉鎖的な文化の有無」、そして「どんな苦労が待っているか」などのいわゆるネガティブな情報です。本連載では、敢えてその部分にも切り込みます。一人の移住者がどんな苦労を乗り越えて、今、どんな景色を見ているのか。そして、現状にどんな課題を感じているのか……。実際に移住を果たした先輩のリアルな経験に学びながら、ここ群馬県高山村の未来を考えていきます。



インタビュー/執筆 山中麻葉

2021年に夫と0歳の娘と高山村に移住。里山に暮らしながら、家族でアパレルのオンラインショップ「Down to Earth 」を営む。山中ファミリーの移住の様子は「移住STORY」へ。日々の暮らしやお仕事のことはinstagramへ。

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