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僕達はもっと『サウナの作り方』を学んだ方がいい

突然ですが、サウナ好きのあなたに質問です。

もしもお金が自由に使えて、どんなものも作れるとしたら…

『あなたはどんな理想のサウナを作ってみたいですか?』

たとえば、窓から絶景が見えるサウナでしょうか。

はたまた、おしゃれな間接照明があるサウナでしょうか。

もしくは、あっと驚くようなデザインがあるサウナでしょうか。

やっぱり、大きくてかっこいいストーブがあるサウナでしょうか。

いや、実はそこまで目立つものは求めていない…

日常のストレスがロウリュとともにふっと消え去るような…

自分の身の丈に合った、そんな等身大のサウナでしょうか。

『いつかは、自分だけの理想のサウナを作ってみたい』という夢。

サウナ好きであれば、一度は夢みたことがあるかもしれません。

サウナ発祥の地として著名なフィンランド。かの国では、建築士の資格がなくても、DIYの経験がなくても、初心者がサウナを作ることがよくあるそうです。その結果、サウナの数が人口以上にあるというデータさえあります。

そして日本にサウナ好きを多く輩出したサウナブームの立役者、『ドラマサ道』。2022年、主人公がついにサウナ小屋を建てるという回が放映されました。いつかの夢を、ドラマサ道は実現可能なものとして描き切りました。

「いや…でも、サウナを作るっていっても場所がないし、まとまったお金もない。家族の同意も必要だし、自分だけのサウナを作るだなんて、夢のまた夢だ」と思われる気持ちもわかります。それでも、思い浮かべるだけならタダですから、改めての問いをご自身に投げかけてみて欲しいのです。

あなたが心から気持ち良いと思えるサウナ室とは、どんなものですか?

同じ質問では新鮮味に欠けるため、さらに上の問いを足してみてください。

いま、日本のサウナ室では何が起きているのか

ここからは、今起きている現実の話を少し共有します。

実は今、日本はサウナブームといわれる盛り上がりがある一方で、いくつかのサウナ室は危機的な課題を迎えています。何をもって危機的であるのかは、それぞれの立場から様々な意見がありますが、サウナ好きの皆さんにお伝えしやすい課題の一つとしては、

「サウナ室が熱すぎる」

ということが関係各所から、苦しみの声として聞こえてくるようになりました。中でも、特に衝撃を受けたのは「サウナ室がぬるすぎるとクレームが入るため、やむなくストーブの温度を高温に設定している」という声でした。

サウナ施設側がサービスとして熱く設定しているなら合点がいきますが、そうではなく、ユーザー側からクレームが入る状況は驚きを隠せません。さらには2023年、サウナ室内外を原因とする火災や水難事故など、ここ数年では目立たなかった想定外の事象が、業界内で立て続いてしまっているのです。

しかし、それらに対して過剰に危機感を煽ることが本旨ではないため、表に出てきづらい施設側の実情に焦点を当てつつ、客観的な視点で「サウナ室が熱すぎると、どんなことが起こりうるのか」について掘り下げていきます。

サウナ室が熱すぎる結果、起こりうること

サウナ好きの皆さん、最近サウナ好きになられた方においても、「サウナ室が熱すぎると火事のリスクが高まるかも」というのはなんとなく想像がつくかと思います。そこに付け加えると「サウナ室が熱すぎると施設の運営寿命が縮まる」というリスクが、表であまり語られない実情として存在します。

・サウナ室が熱すぎると、サウナ室の寿命が縮まる

サウナ室といえば木、木材が部屋のありとあらゆるところに使われていることは皆さんご存知ではないでしょうか。しかしそこで使われている木材、彼らもまた生き物であり、そのままの形を維持することの方が難しく、さらにはメンテナンスやケアが必要であるという事実はさほど知られていません。

熱のダメージが過ぎると木の形は歪むようになり、そして原型をとどめず、実は、サウナ室の部屋ごと崩壊してしまうというリスクさえあるのです。この事実を知らぬまま家庭用サウナを購入しトラブルになることがあります。

・サウナ室が熱すぎると、ストーブの寿命が縮まる

サウナ室を温めているのは、サウナストーンを積んだストーブが心臓的な役割を果たしています。その心臓部であるストーブが故障するとサウナ室は動かなくなり、ストーブの修理だけで数十万円がかかります。ここまではサウナ好きの皆さんも、施設の注意書きなどでご存知ではないかなと思います。

従って「ストーブに水をかけないでください、もしくはかけすぎないでください」という但し書きがあるのを目にしますが、実はストーブの故障につながる最も大きな要因は、ロウリュのやりすぎだけではありません。そもそもストーブの設定温度が高すぎることが主な原因です。(これは海外メーカーの技術責任者まで確認ができていまして、ちゃんとエビデンスがあります)

・サウナ室が熱すぎると、スタッフの労働寿命が縮まる

サウナ室といえば最近、アウフグース(もしくは熱波)やウィスキングなどのサービスが人気になってきました。しかしその裏で、高温による人体ダメージに耐えかね、これらのサービスを休止、もしくは取り止める施設が出ています。この事実も表に出てこないため、この場を借りて私が代弁します。

これらサービスの源流である海外では、サウナ室の設定は最大60℃程度まで下げることは基本になっており、専門学校でもこの点だけは厳しく指導がなされています。しかし日本のサウナ室では高温の設定がデフォルトであり、施設側が設定を変えぬ限り、スタッフの労働寿命が縮まるばかりなのです。

・サウナ室が熱すぎると、施設の運営寿命が縮まる

ここでは主に事業者向けに書かせてください。サウナ室を熱くすること自体は、施設側には短期的なメリットがあります。利用者の滞在時間が短くなり回転率を高め、1時間あたりの利用者数増=売上増に繋げることができます。しかしながら中長期では、サウナ室の保守に多大な支出が生まれます。

何よりサウナ室単体でマネタイズを図るというモデルは、2023年を過ぎて限界を迎えつつあります。つまり、サウナ室単体では儲からない。サウナ室はあくまで主事業(ex飲食や宿泊)をブーストさせる付帯事業にすぎず、となるとサウナ室を熱くすること自体は、事業者側(もっと言いますとオーナー側)のサービスとおぼしきこだわり、もしくは趣味ということになります。

なぜサウナ室に熱さを求めるようになったのか

なるべく簡潔に書きたかったのですが、サウナ室が熱すぎるという話題に関してやや引っ張りすぎてしまいました。ただ気になるのは、ユーザーがクレームを入れてしまうほど、日本人はなぜサウナ室に熱さを求めるようになってしまったのかという点。この点だけを補足して次に話を進めていきます。

この点は日本のサウナの歴史等にも関わると思っているため、あくまで私の個人的な見解をお伝えさせてください。それは「サウナ室とは、苦しいものである」というイメージが、皮肉にも日本人に定着してしまったためと考えています。ゆえに、サウナ室に長く滞在するという発想自体がありません。

現代日本ではサウナ室以上に水風呂の存在感があります。水風呂自体もサウナ室同様に苦しいものである、というイメージが日本人に定着していましたが、昨今のサウナブームは『サ道』というサウナの入り方が広まり、苦しい水風呂を克服した先に天国があるというイメージが定着し、今に至ります。

苦しい水風呂を味わうためには、熱いサウナ室で芯まで温める必要がある。サウナ室とは苦しいものであるというイメージがあり、長く滞在するという発想もないため、結果的にユーザーが自ら回転率を求めるようになった。その論理であれば、ぬるすぎるというクレームに至る流れも合点がいきます。

僕達はサウナ室に求めることが漠然としすぎた

サウナ室が熱すぎる点について、ここまでお付き合いを頂き申し訳ありません。誰が日本のサウナ室を熱くしすぎたのか、施設側なのかユーザー側なのか、犯人探しを煽る為ではありません。また「そんなに熱い、熱いっていうなら温度を下げればいいじゃん」という主張を続けたいのでもありません。

『あなたが心から気持ち良いと思えるサウナ室とは、どんなものですか?』

あくまでこの問いに戻りたいのです。サウナ室とわざわざ書いたのは、サウナでは、水風呂や外気浴も含む体験すべてが含まれてしまうため、あえてこう書きました。この問いにパッと答えられる方は、どれだけいるでしょうか。僕達はあまりにも、サウナ室に求めることが漠然としすぎてきました。

また小難しいことを書いてしまうのですが、サウナという呼称はあくまでフィンランドが発祥とされています。一方で「身体を温める行為=蒸気浴」という文化自体は、世界各国あらゆるところに存在しています。蒸気浴という文化で捉えると、フィンランド以上の歴史を有する国も数多くあります。

しかしながら「サウナ(もしくはSAUNA)」という看板を掲げてサービスを提供しユーザーとして利用する以上は、サウナ室の一丁目一番地はフィンランドにあるのではないかと考えました。まずはサウナ室の解像度を高めるべく、かの国ではどれほど具体的に求めているのかについて迫っていきます。

主婦から老人までがサウナ室を語るという衝撃

実はいま、フィンランドのサウナ施設で日本人の利用者が急増しています。今夏、私がフィンランドを訪れたときはどのサウナ施設にも日本人がおり、地方でも日本人を見かけぬ日はありませんでした。パンデミックを経て、円安時代の昨今、それでも日本のサウナ好きの皆さんは国境を越えています。

ですがおそらく、訪れた日本人の誰もが、フィンランドのサウナ室に面食らったはずです。私はサウナ旅でかの国を訪れて7年になりますが、今夏以上に驚いた旅はありませんでした。それは、サウナ建築士でもない一般的なフィンランド人が、サウナ室の構造についてあれこれ語っていた光景でした。

「このサウナ室は空気の通り道がないから息がしづらいサウナね」「ロウリュをしても石が死んでいるから薪を足してほしい」「大きなガラス窓は自然光が入るからいいけれど、熱の跳ね返りが少ないからやっぱり壁は木がいいわ」「ここはサウナベンチと天井と、高さのバランスが中途半端だ」etc…

老人からファミリー、主婦グループに至るまで、このような会話を淡々と繰り広げる様は驚くべきことでした。最たるこだわりはロウリュによる蒸気で、山のように積まれた石の中で水をかける場所、かけ方、かけるタイミングに至るまで、広い角度でサウナ室の作り方について指摘を飛ばします。

そして彼らの本業は建築士ではありません。しかしながらサウナについては「子供や学生の時にDIYでサウナを作ったことがある」とさらりと話し、サウナ室で最重要な空気の流れについては「良さそうなサウナ室を見て、真似て作った」とまで話すので、どこまで本当なのかと勘ぐってしまいますが。

無論、若い方も含めてサウナに関心がない方もいるため、必ずしもフィンランド人全員ではありません。ただ、少なくとも公衆サウナを訪れる方は相応のサウナ作りへの知識(というより経験値)を有していました。私はフィンランド人の極めて高い解像度に驚き、この事実を伝えるべきと思いました。

サウナ好きの僕達が今日から心がけたいこと

フィンランドの例を取り上げましたが、ここはあくまで日本、フィンランドかぶれになってサウナ作りに詳しくならなくてもいいという意見もあるかもしれません。それならフィンランドのことは脇に置いて、まずは『あなたが心から気持ち良いと思えるサウナ室とはどんなものですか』という会話から始めていきませんか?

それこそサウナ好き同士でよく交わす「あなたの好きなサウナ施設はどこですか?」というあの話題の感覚で。素晴らしいサウナ室は、苦しいというイメージを瞬く間に覆し、サウナ室に長く居られる喜びをダイレクトに届けます。そういったサウナ室は日本に数多く存在し、そして誕生しています。

それは例えば、まるで森の中にいるかのように息ができ会話がしやすいサウナ室…2時間以上かけて長く身体を温めることができるサウナ室…ロウリュから伝わる熱が柔らかく思わずため息が出てしまうサウナ室…頭からつま先まで芯から身体が温まるサウナ室など、実は日本にも数多く存在します。

そしてもし「この息のしやすさはどうやって実現させているんだろう?」であったり「柔らかいロウリュを作るためにどんな工夫をしているんだろう?」であったり、そうした疑問が浮かんできた時点で、僕達はサウナ作りの視点に立っています。フィンランドの話に戻りますが、建築士でなくとも、サウナ作りに疑問を持ち、コメントをする資格は我々にもあるのです。

既に定員となってしまいましたが、実際にサウナ室の現場に携わりながら、サウナ作りを考えるという機会を作り、提供することを始めました。理想はフィンランド人のように、未経験でもサウナ作りをしながら『心地良いサウナは何か?』について考える機会を少しでも設けられたらと思っています。

サウナを作る事業者が心がけるべきことは何か

今後新たにサウナ作りに取り組むことを決めており、さらに事業として運営を予定している方に向けての内容です。サウナの事業運営については私が書く以上に、長く温浴施設のコンサルティングに携わられている方による『サウナ開業塾』の門を叩かれると良いかと思います。私も一期生として受講しましたが、温浴事業運営を学ぶ上で確たる基本を学ぶことができました。

サウナ室の解像度を上げるという観点では、まずはサウナ作りにおけるミスを減らすというだけでも十分で、過度なデザインやプライベート感で奇をてらわなくても、サウナ室の合格点には到達できると私個人は考えています。事業運営における集客とマネタイズポイントは結局はサウナ室に依存しないため、まずは不慣れなサウナ施工箇所で予測不能な要因は極力減らし、実店舗としての価値提供作りに専念することを推奨いたします。(事業なので)

サービスとして価値作りをする上で、忘れてはならないのは「自分で体験したこと以上のことはサービスとして提供できない」ということ。サウナ室の価値=熱いというのみの原体験だけなら、サービスとして提供するのも「熱いサウナ室」となるだけ。サウナ室は想像以上に、広く奥深い世界で、私個人はサウナ作り=サイエンス(人によってはこだわりや愛)という風にお伝えしています。原体験を極力広げるということに汗をかけたら理想ですね。

こちらも募集を終えてしまったのですが、サウナ作りを事業として取り組まれる方を対象に、フィンランドでサウナ作りを学ぶツアーを企画し開催しています。参加された方の多くが原体験を広げ、サウナ作りの解像度を高められました。今後も同様の企画が決定次第、こちらのお知らせをいたします。

そして2023年9月6日と7日、東京ビッグサイトにて私含むツアー参加者の面々にて登壇をいたします。今月発刊された雑誌「商店建築」は奇しくもサウナ特集でしたが、ツアー報告会も兼ねてトークイベントを開催いたしますので、ご興味ある方はぜひとも申込か私宛にDMをお送りくださいませ!

特別付録のお知らせ

ここまでお読みいただきありがとうございました。私の方でできる限りのサウナ作りを学ぶ機会、イベントやツアーなどについてご紹介をいたしましたが、とはいえ参加できる人数に限りがあり「より多くの方に、サウナ作りに関するきっかけ提供ができないか?」というのを私なりに考えてみました。

そこで、ここまでお付き合い下さった皆様に感謝の気持ちも込めて「サウナ作りの切り口MAP」なるものを無料配布いたします。本来であれば外部に公開し、配布するような代物ではありませんが、このMAPはサウナ作りのプロフェッショナルと議論をしながら、サウナ作りの現場で意識するための論点をなるべく抜け漏れがないようにまとめたものになります。

『あなたが心から気持ち良いと思えるサウナ室とは、どんなものですか?』この問いを、MAPを見ながらディスカッションして頂くのも良いですし、実際に作りたいサウナ室で、どの箇所に力点を置くかについて色分けして頂くのも良いですね。お好きなようにご活用いただけますと嬉しく思います。

最後に、サウナ作りは専門職のみの特権ではなく「サウナ好きもサウナ作りを学んで良い、僕達にはその資格があるのだ」というのをお伝えさせてください。私の周りにも、サウナの素人からサウナ作りにチャレンジされた方、沢山いらっしゃいます。皆で学び、共により良くできましたら幸いです!

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