自#030|私は海を知っています(自由note)

 ジェイソンムラーズのアルバムを聞きました。ジェイソンムラーズは、「MR.A-Z」と云うセカンドアルバムから入りました。ベタなタイトルですが、「Life is Wonderful」と云う曲が気に入って、即座に授業のエンディング曲として使った記憶があります。サーフ系の大物新人アーティスト登場と云う印象を受けました。翌年、フジロックのメインステージにも来ました。前途有為の若手ミュージシャンだった筈ですが、突然、音楽活動を停止してしまいました。レコード会社とのトラブルとか、女性関係とか、ドラッグ過剰摂取とか、まあ、そんな風な理由だろうと、勝手に想像していました。

 3年間くらいのブランクがあって、三枚目のアルバムで復活しました。私は、ボブディランがバイクで事故を起こして、活動を中止した後、偉大なる復活を遂げたことを、今だに鮮明に記憶しています(厨二病時代ですから、音楽には特別熱かったんです)。そこまで、すごくはないんですが、3枚目のアルバムで、ちゃんとふっきれていて、凄いなと素直に感動しました。

 ジェイソンムラーズが、いったん音楽活動を停止したのは、ツァーと新曲作りに追いまくられる音楽ビジネスとは、say-goodbyeするためでした。
「スーパーマーケットに行きたい。自分で洗濯したい。庭の手入れをしたい。猫も飼いたい」、つまりたいして売れてなかったインディーズ時代に、時計を巻き戻して、タイムスリップしたいって感じです。さらに、より詳しく語っています。
「セカンドアルバムが売れて、ツアーをしている。世間との接触が完全になくなってしまった。僕は他人の指示や意見に従って、動いているだけ。曲を作った頃の自分は、今と反対の所にいた筈だ。サンディエゴに戻って、もう一度、コーヒーショップで演奏するようにして、自炊もし、サーフィンもして、人生の基準や価値観を改めて、自分が本当に生きていると実感できるような生活を送る」と。

 私は、サーフィンをやったことがありません。が、どういうものか知っています。「映画で、ちょっと見たくらいで、話を盛って来るんじゃねぇーよ」と、腹心の教え子からさえも突っ込まれそうです。週刊プレイボーイに、深田恭子さんが、KYOKOと赤地に白抜きでネームを入れて、ロングボードで波に乗ろうとしているスナップが掲載されていました。このあと、どういう風に波に乗るのか、その感じも、つかめています。

 私は、小さな漁村で生まれました。小5の夏休みは、湾の対岸まで、片道4キロの距離を、泳ぎで往復しました(つまり8キロ)。これは、この漁村の小5の通過儀礼でした。筏も作りました。ちっちゃな平田船で、岬を2つ越えて、神社の掃除にも行きました。

 サッカーを知っている、野球を知っている、音楽を知っていると云った風な言葉を普通に使いますが、そういう言い方をするなら、私は海を知っています。私が大好きだった伯母の御主人も、伯母の息子も、海で溺死しています。周囲には海で命を落とした人は、いくらでもいました。そんな環境の中で育って、海を知らなかったら、逆に不思議です。

 サーフィンは、集中しないと波に乗れません。上手く乗れたり、転覆したり、海の底に叩きつけられたり。サーフィンを終えて、陸(おか)に上がって来ると、どうしても、人生について考えてしまいます。人生の大きな方向や、小さなベクトルも。海は、圧倒的に大きな存在なので、自分自身の人生を、どうしたって、多少なりとも、点検せざるを得なくなります。海が本当に好きな人には、私の言ってることは、解ってもらえると思います。

「サーフィンをしていると、毎日、新たな発見がある。コンディションは日々違うし、挑戦すべきことは、延々と出て来る。改善の余地や、頑張り続ける理由が、常にあることに気づく。健康や体調全般に、気を遣うようになる。全て、サーフィンがもたらしてくれる。それは、平和なアクティブな生活で、僕はそれを大切にしたいと思ったんだ」と、ジェイソンムラーズは語っていますが、サーフィンを海と読み替えても、同じようなことがきっと言えます。

 ジェイソンムラーズが、音楽ビジネスと手を切ったきっかけは、オーストラリアツアー中に、バガバッドギータとその他の本などが詰まった荷物が、送られてからだと想像できます。これは、欧米系のヒッピーたちの気まぐれなactivityです。宗教の勧誘とかではありません。差出人は、解らないし、読んだら、いや読まなくても、次の誰かに送ってくれみたいなイベントです。

 私は、バガバッドギータを読んだこともないし、今後も読むつもりはありません。どういうものなのかは知っています(マーバーラタの第六章に挿入されている哲学的な詩篇で、意味は崇高な神の歌。あのガンディーも愛読していた、一種の解脱の書)。知識として、知っているだけです。が、ジェイソンムラーズは、アーティストとしての直観で、バガバッドギータが内包しているsomethingに邂逅したのかもしれません。

 3枚目のアルバムのタイトルは「We sing.We dance.We steal things」。「歌って、踊って、万引きする」などと云った残念な解釈はしないで下さい。タイトルについては、こう説明しています
「音楽にしても、ファッションにしても、僕たちが今歩んでいる道にしても、完璧に新しいアイディアを生み出すのは、非常に困難になっている。全てが何かの再利用なんだ。だから、盗んだと言った方が面白いかな」と。

 三枚目の代表曲は、「I'm yours」。私も、「Life is Wonderful」と「I'm yours」の2曲を、エンディングで流していました。が、「I'm yours」は、3枚目のオリジナル曲ではありません。2枚目の「MR.A-Z」を作った時、デモヴアージョンで録音された曲で、正式な音源ではなかったんです。そのデモヴァージョンが、You Tubeでカバーされました。つまり、二次加工されたわけです。この曲が正式録音される前に、ジェイソンムラーズは、ストックホルムに行って、「I'm Yours」を演奏した時、6000人の観客が、一字一句、間違えず、一緒に歌ったそうです。今から12、3年前の話です。すでに、You Tubeの影響力は、絶大だったと云うことです。ジェイソンムラーズ自身も、3枚目のアルバムで、「I'm yours」のオフィシャル決定版を発表したと云う気持ちは、まったくなくて、世界中のYou Tuberの人たちのカバーを、自分もやらせてもらったと、謙虚に語っています。これもやはり、バガバッドギータの教えのひとつなのかもしれません。

「Life is Wonderful」は、アムステルダムのライブバージョンです。このライブ演奏を聞くと、アムステルダムが、世界で一番、自由な街だと、納得できます。}

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