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『マイホームの文化史(仮)』目次(暫定版)|庶民の夢100年のあゆみ

あけましておめでとうございます。

2023年前半は人生初の単著刊行に向け、原稿を書いて書いて書きまくる日々になります。書名は『マイホームの文化史|「庶民の夢」の住宅はどうつくられてきたか(仮)』(学芸出版社から刊行予定)です。

戦後、大衆化した「戸建て・持ち家」のマイホームがどこからきて、どこへいくのかを考える際、おおくの場合は「戦後の焼け野原」から話がはじまります。深刻な住宅難。家が足りないから自力建設・自力購入する。ただ、そうすると「自民党政権とハウスメーカーが国民をだましてあおって持ち家取得に走らせた」みたいな話に陥ってしまいがちです。はたしてほんとにそうなのか。そういう経緯もあるかもしれないけれども、そんなに話は単純じゃないのでは中廊下と。

本書では、あえて関東大震災を起点に話を説き起こしていくことで、「庶民の夢」としてのマイホームがどうつくられてきたかをたどります。戦後にわかに(ましてやアメリカの影響のみで)「戸建て・持ち家」が夢見られたわけではないよね、と。「文化住宅」へのあこがれを知ると、戦後のプレハブ住宅の展開もまた違った光景にみえてきます。

というわけで「戸建て・持ち家」へのあこがれはどこからやってきた?と考えると、いまから100年まえくらいのスパンで観察すると、いろいろと気づくことがある。そんな僭越かつ無謀な試みである本書の特徴を書き出してみますと、、

いくつかの特徴

(1)身のまわりに建つ住宅のあゆみをたどる
一戸建てからアパート・マンションまで、庶民のための住宅がどう生まれ今に至るのかを、庶民住宅モデル登場の契機となった関東大震災までさかのぼり物語る住宅100年史です。わたしたちが実際に住まう住空間や街並みに連なる一世紀の歩みを知ることで、見慣れたはずのまちが違って見えてくるはずです。

(2)住宅産業の動きについても言及
住宅のあゆみをたどる類書は、主に建築家が手がけた「近現代住宅史」だったり、住宅政策史であることが多いのですが、本書ではハウスメーカーや工務店、ディベロッパーによる住宅供給にも紙幅を割きます。複数の作り手が相互にどのようなポジショニングのもと展開してきたのかにも触れる「もうひとつの近現代住宅史」。

(3)住み手にとってどんな住宅像が立ち現れていたか
いまとなっては当たり前となっている現代住宅は、登場時は新しい生活スタイルや建設方法でつくられており、その受け取られ方も様々でした。同時代のひとびとがどのように感じて受容したか、作り手だけでなく、住み手にとっての住宅像も知れるようにしたいと考えています。

(4)それぞれの時代の課題、その克服への試行錯誤を
客観的・俯瞰的視点とあわせて、時代の節目において先人がどのような工夫や努力をなし、事情や経緯に翻弄され、遺産と誤算を得たのかも理解できるエピソードも適宜紹介しようと思います。

(5)同時代の広告や記事などから当時の空気感を伝える
過去の出来事は、その当時の感覚というか空気感とセットで捉えたいものです。そこで本書では、各時代の広告や記事・歌・小説などを引用しつつ、現在とは異なる考え方や認識があったことが不完全ながらも知れるように配慮しようと試みています。そこでもたらされる違和感は、さらなる探究につながるタネです。

目次構成のねらい

欲張っていろいろ特徴を盛り込みましたが、さてどうなることやら。上記のねらいを踏まえつつ、本書はおおよそ次のような目次構成としています。

まず、「はじめに」と序章ではマイホーム100年のあゆみをたどるための、いくつかの手掛かりをご紹介します。たとえば「マイホーム」と「わが家」の違い。「おいえ」と「おうち」。自動車のように家をつくりたい。飛んだり帰ってきりする「屋根」。などなど。

そしてお話は1923年からはじまります。関東大震災でのできごとを「幕間1」と題してご紹介し、その後、約半世紀にわたるマイホームのあゆみをたどる。そして、本書の折り返し地点に1973年、第一次オイルショックを「幕間2」としました。たまたまではありますが、本書刊行予定の2023年は関東大震災からちょうど100年。そして、100年の中間にあたる50年前の1973年がオイルショックにあたる。

ひとびとが夢みるマイホームという住宅像はとても保守的なものです。でも、たびたびの危機に直面するたびに、少しずつ変化してきました。そんなこんなで以下、目次(暫定版)です。

目次(暫定版)

カラー口絵  マイホーム図鑑

はじめに──「マイホーム」と「わが家」のあいだ

序章 身のまわりの家々の物語
1 「おいえ」と「おうち」 マイホームという住宅像
  欲しいのは床の間/浜口ミホのつまずき/ふたつの住宅像のはざまで
2 身のまわりの家々のつくられ方 ちぐはぐで均質なまちなみ
  高成長様式住宅/外観から透ける間取り/新建材を着た日本家屋
3 危機が住まいを革新する 新技術の普及条件
  3密を回避せよ/新技術の導入と普及/変わりゆく住宅像

幕間1  はじまりの1923年──マイホームの原点・関東大震災

1章 1920~30年代──庶民住宅モデルの誕生
1 戦災と震災 ふたつの危機がもたらしたもの
  三角が飛んだ/危機と総力戦体制/木造愛国と木造亡国
 ◎木造愛国の現在形
2 同潤会の住宅事業 復興から庶民住宅モデルへ
  鉄筋混凝土造アパアト/分譲戸建て住宅/戦争の足音
 ◎田園都市構想
3 あこがれの中流住宅 「文化」から「モダン」へ
  復興と組立住居/あめりか屋商品住宅/接客中心と居間中心
 ◎モダニズム住宅

2章 1940年代──戦争が準備した住宅産業
1 帝国日本の標準的住まい 戦争と住宅営団
  課長・市浦健の反省/住生活の合理化/国民住宅の夢と現実
 ◎国民学校住区
2 資材統制と代用品開発 戦後につながる代替技術
  創造的な代用/木造家屋防火改修/軍事技術の平和転用
 ◎簡素美をもとめて
3 住宅難を克服せよ 応急復興のハウジング
  天皇陛下の組立住宅/量産住宅の試み/転用住宅の現実
 ◎すべてが家になる

3章 1950年代【1】──持ち家社会のフォーマット
1 不燃化への道 悲劇をくりかえさないために
  金色の野に降り立つ者/木造亡国ふたたび/プレコンの夢
 ◎防火帯建築
2 マイホームの鋳型 住宅金融公庫と月賦住宅
  公庫住宅の「しつけ箸」/融資条件と建設基準/住宅は月払いで
 ◎建築基準法と建築士法
3 狭いながらも楽しい我が家 戦後復興期の小住宅たち
  雑居家族と夫婦生活/戦後新教育と住宅問題/建築家と小住宅
 ◎住宅スタイルブック

4章 1950年代【2】──新しいつくり方・住まい方
1 日本住宅公団誕生 ダンチ族の新しい生活様式
  美智子妃とオムツの旗/公団の使命と思惑/新しい住まい方
 ◎モクチンアパート
2 明るい農村住宅の嫁と姑 すすむ地方の住宅改良
  嫁と姑の物語/木造禁止の模範解答/農村モダンリビング
 ◎家の光協会と農山漁村文化協会
3 ミゼットハウス登場 勉強部屋という小さな「城」
  請負から商品に/インスタント時代/プレハブの社会受容
 ◎勉強部屋いろいろ

5章 1960年代【1】──見栄と同調のマイホーム
1 公団住宅の住み心地 やっぱり家は一戸建て?
  明るい家族計画/団地脱出レース/持ち家取得総力戦
 ◎『私は二歳』と団地の子育て
2 住宅産業の登場と躍進 プレハブ住宅の社会受容
  セキスイハウスB型/だれが買うのか/B型から春日へ
 ◎直販方式か代理店方式か
3 マイホームのハイエンドモデル マンション・建築家・皇室ブランド
  コーポラスとレジデンス/建築家住宅/ロイヤル・スイートホーム
 ◎実験住宅の悲しみ

6章 1960年代【2】──マイホーム大衆化時代の到来
1 規格型か自由設計か 工業化住宅をめぐるジレンマ
  脱・安普請戦略/多様化・高級化の模索/規格型vs.自由設計
  ◎アクロバット外観
2 大量生産・販売の仕組み 宅地開発・住宅ローン・間取り作成
  座布団とお財布/大量販売の仕掛け/大量提案の戦術
 ◎走る住宅相談室
3 マイホームは計画的に あふれる家づくりマニュアル
  住宅本ブーム/家事整理学をめぐって/家相本の効用
 ◎工務店向けマニュアル

7章 1970年代【1】──産業化の進展とその反動
1 屋根なんて飾りです 住宅のユニット化・カプセル化
  セキスイハイム登場/ハイムM3への道のり/帰ってきた三角
 ◎タウンハウスの流行
2 平和な時代のマイホーム 住宅産業ブームに抗して
  マイホーム幻想/住宅産業批判/平和な時代の野武士達
 ◎マンション進化系
3 欠陥住宅を追放しよう 消費者運動から住宅商品化へ
  消費者運動、住宅へ/欠陥プレハブの原因/CSと商品化
 ◎欠陥住宅事例いろいろ

幕間2  1973年という断層──マイホームの転換点・オイルショック

8章 1970年代【2】──住宅商品化時代の幕開け
1 つくれば売れる時代の終焉 「規格」から「企画」へ
  企画住宅あらわる/総二階イメージの革新/商品化住宅へ
 ◎消えた住宅メーカー
2 ツーバイフォーがやって来る 木造住宅改革の夢と現実
  2×4オープン化/三井ホームの成功/建主参加の試み
  ◎飯塚五郎蔵と三井ハウス
3 となりの芝生は青いか マイホーム劇場の悲喜こもごも
  共働きと二世帯同居/ニセ持ち家層の悲劇/戦後新教育の学習効果
 ◎ピアノ殺人事件

9章 1980年代──多様化・個性化するマイホーム
1 あいまいな日本の木造 木造住宅合理化
  おそるべき木造住宅/木造住宅改革/純和風鉄骨造住宅
  ◎住宅100年時代
2 「消費の海」の泳ぎ方 高度商品化の時代
  モデルハウスのモデル家族/女性活躍とインテリア/伊東豊雄の踏み絵
  ◎商品化の技術
3 マスハウジングのオルタナティブ コーポラティブから地域型まで
  西山夘三の嘆き/戸建てのような集合/地域性を求めて
 ◎斜面集合住宅

10章 1990年代──安心・安全・安定・安価の時代
1 工業化住宅の到達点 百花繚乱を経て原点回帰へ
  バブルの精華/セントレージの簡素美/低価格路線の進展
  ◎サイディング百花繚乱
2 安心・安全の再認識 バブル崩壊・震災・オウム
  バブル崩壊と社会不安/耐震と健康/産業化の総仕上げ
 ◎マンション都心に帰る
3 木造住宅ナショナリズム 木造・大工・伝統のブランド化
  西岡棟梁ブーム/バブル崩壊と伝統回帰/近代・和風・やまと
 ◎伝統構法復権

11章 2000年代以降──問いなおされるマイホーム
1 坪25万円の衝撃 長引く不況とローコスト住宅
  量産型企画住宅/シンプルモダンの流行/やっぱり木造在来
  ◎タマホームの躍進
2 200年住宅というビジョン 住み継ぐための仕組みづくり
  幻の「200年住宅」/市場原理から守る/リノベブーム
 ◎戦後住宅政策の転換
3 総合家電化する住宅 東日本大震災以前・以後
  ネット住宅販売/エコ&スマート/異業種参入ふたたび
 ◎原始の小屋ふたたび

終章 これからの住まい
1 ミスマッチを乗りこえる 住宅双六の行き詰まり
  実家帰省のメカニズム/住宅の過剰と不足/マイホームは夢か
2 分断される住宅像 高気密・高断熱と伝統構法
  家の作りようは夏?/省エネ基準vs.伝統木造/つくられ方の未来
3 住まいを捉えなおす 「どうぐ」としての家
  家財道具との連帯/大きな「どうぐ」/「おいえ」と「おうち」の先へ

あとがき

注/参考文献

コラム
椅子式がよいけれど… 佐野利器、老いの境地
建築人たちの戦争体験 戦後に花開く建築のタネ
公庫住宅を育てよう 建築家・柴岡亥佐雄の住宅啓蒙
左官業が生き残るために 建築学者・中村伸の警鐘
プレハブ住宅の選び方 家事評論家・吉沢久子の家
ふしぎなカプセル型お風呂 ほくさんバスオール
日曜大工デモクラシー 木工からインテリア手芸まで
ごきぶりホイホイの誕生 かわる住宅、かわる害虫
住宅「訪問」家の時代 宮尾すすむ・渡辺篤史・アンガールズ田中
レゴブロック略史 オモチャの商品化と教育産業化
住むことを問いなおす 絵本『家を背負って歩く』を読む

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さてさて、ずいぶん長い予告編になってしまいました。壮大な架空話にならないよう、2023年、がんばって書きます。刊行予定の2023年9月は、関東大震災からちょうど100年目です。

(おわり)

 

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