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「次世代スマート ホスピタル202X 治療」 多血小板血漿(PRP)治療編:日本医学会総会2023東京 博覧会 次世代スマート ホスピタル202X 02-06

スマート ホスピタルの解説は既に、「展示物から「次世代スマート ホスピタル202X 診察」を振り返る:日本医学会総会2023東京 博覧会 次世代スマート ホスピタル202X 01」で実施済みである。

変形性膝関節症の主な症状は膝の痛みと水が溜ることである。症状の男女比は1:4で女性に多く見られ、高齢者になるほど罹患率は高くなる。

初期では立ち上がり、歩きはじめなど動作の開始時のみに痛み、休めば痛みがとれるが、正座や階段の昇降が困難となり(中期)、末期になると、安静時にも痛みがとれず、変形が目立ち、膝がピンと伸びず歩行が困難になる。

原因は関節軟骨の老化によることが多く、肥満や素因(遺伝子)も関与している。また、骨折、靱帯や半月板損傷などの外傷、いよび、化膿性関節炎などの感染の後遺症として発症することがある。

加齢によるものでは、関節軟骨が年齢とともに弾力性を失い、使い過ぎにより擦り減り、関節が変形する。

予防法は、太腿の前の筋肉(大腿四頭筋)を鍛えること、正座を避けること、肥満なら減量、膝をクーラーなどで冷やさず、温めて血行を良くすること、および、洋式トイレの使用である。

治療法は、運動療法、薬物療法、理学・装具療法、手術療法、および、再生医療である([1][2][3][4][5])。

運動療法には、「足上げ体操」、「太腿力瘤運動」、「捕まり足踏み」、「その場足踏み」、「1分じわじわ屈伸」、「膝のお皿揺らし」、「膝軽屈伸」、「3秒足指握り」、および、「小指浮かせ歩き」がある。

薬物療法は、外用薬、内服薬、座薬、および、関節内注射である。

外用薬には、塗り薬として用いるクリームや軟膏(なんこう)、ゲル、ならびに、貼り薬として用いる湿布がある。これらの薬剤には非ステロイド系抗炎症剤が含まれる。

内服薬には非ステロイド系の消炎鎮痛剤のジクロフェナク、ロキソプロフェン、および、インドメタシンなどがある。ただし、長期間使用すると副作用の心配があるため、痛みが軽くなってきたら塗り薬や湿布に切り替えるのが一般的である。

座薬(肛門から挿入する薬)が、特に痛みが激しい人や、胃腸が弱くて内服薬が使えない人に使用される。インドメタシンやジクロフェナクなどの座薬がある。

関節内注射は、膝の関節内にヒアルロン酸を注射する方法である。ヒアルロン酸はもともと膝の関節液に多く含まれており、関節の滑りを滑らかにしたり、関節の衝撃を和らげたりする役割があるが、変形性膝関節症になると、このヒアルロン酸が少なくなるといわれている。ヒアルロン酸注射を1週間ごとに5回ほど続けると効果が出てくるとされる。

理学・装具療法には、サポーター、足底版、および、ブレースが使用される。

手術療法には、内視鏡手術と人工関節置換術(図02-06.01)がある。

図02-06.01.人工膝関節。
2019年04月05日、健康未来EXPO 2019 まなびのまち テーマ展示 整形外科医コーナー([6])で撮影。

そして、再生医療には、多血小板血漿(Platelet-rich plasma:PRP)治療、自己タンパク質溶液(Autologous Protein Solution:APS)治療、および、間葉系幹細胞移植がある。

PRPは血液を遠心分離して得られる。PRP治療は主に軟部組織損傷に対し筋や腱の修復を目的とした注射療法である。白血球の抗炎症作用や血小板の成長因子が組織の修復に役立つ。PRP療法は1980年代から報告がありNFLやNBAなどプロスポーツ選手の治療に応用されてきたが、ドーピングの対象外となったことで一気に広まった。日本でもPRP治療の治療報告が出ている。PRP療法は筋や腱の修復には高い効果を示す。関節内にも応用されましたが効果は今ひとつであった。

そこで関節の治療を目的として開発された治療法がAPS治療で、次世代PRP治療とも言われる。APS治療の対象となる変形性膝関節症は要介護・要支援となる原因の第1位である疾患で、日本では約1,000万人いると言われている。まだ症状の出ていない人を含めると3,000万人いると推測される。アライメントの異常、生活習慣や加齢など原因は様々あるが、初期の変形性膝関節症では、軟骨破壊は炎症と変性によって進行する。しかし、既存の薬剤やヒアルロン注射では、これら現象に対応できなかった。関節の破壊が進行すると手術が必要となる。

APS治療では患者自身の血液から、炎症を抑える抗炎症性サイトカインと組織修復を促進する成長因子を高濃度に抽出する。APSの作成方法はまず血液を遠心分離してPRPを作製し、それをAPSキットに移し遠心分離する。単に血液を遠心分離するPRP療法とは異なり、APSキットには脱水ビーズが入っている。抗炎症性サイトカインは白血球に脱水ビーズが作用することで多量に放出され、高濃度に抽出される。55 mLの血液から得られるAPSは2~3 mLである。このAPSを膝関節内へ注射する。採血から全ての行程が約2時間で終わるので、日帰り可能である。変形性膝関節症では炎症誘発物質が軟骨の受容体に結合すると軟骨を分解する酵素が作られて軟骨破壊が生じる。この高濃度に抽出された抗炎症性サイトカインが受容体をブロックすることで炎症由来の軟骨破壊を防ぐ。変形性膝関節症では軟骨の破壊が修復を上回っているため破壊が進むが、APS治療は関節内の炎症バランスを改善する。膝の痛みや炎症を軽減し、手術までの時間を延長できる可能性があるので、軟骨の修復も期待できる。

従来から変形性膝関節症に対する保存療法として減量、薬物療法、注射療法、リハビリテーション、および、装具療法などが行われてきた。しかし保存療法では軟骨破壊を止められない。変形性膝関節症は長い時間をかけて進行していくが、最後には手術が必要となる。再生医療法が施工された今、自分の細胞を使った新しい治療選択肢を提供できるようになった(5,[7])。

本記事では、日本医学会総会 2023 東京 博覧会([8])の「次世代スマート ホスピタル202X 治療」で、順天堂大学医学部附属 順天堂医院は多血小板血漿(PRP)治療を紹介した。

PRP治療は主に変形性膝関節症を対象としているが、スポーツ外傷・障害も対象としている(図02-06.02,[9])。

図02-06.02.多血小板血漿(PRP)治療。

2023年現在、PRP治療は、日本ではまだ保険診療として認められていない。しかし、PRP治療が保険診療の対象になることを期待する。



参考文献

[1] 公益社団法人 日本整形外科学会.“「変形性膝関節症」”.日本整形外科学会 トップページ.一般の方へ.症状・病気をしらべる.https://www.joa.or.jp/public/sick/condition/knee_osteoarthritis.html,(参照2023年12月01日).

[2] オムロン ヘルスケア株式会社.“変形性膝関節症に効く3つの治療法 - 運動療法・薬物療法・手術療法”.痛みwith トップページ.対策・改善.膝の対策・改善.https://www.healthcare.omron.co.jp/pain-with/knee-pain/treatment-knee-osteoarthritis/,(参照2023年12月01日).

[3] 黒澤尚 著,池内昌彦 著,巽一郎 著,渡辺淳也 著.ひざ痛 変形性膝関節症 自力でよくなる! ひざの名医が教える最新1分体操大全.第1刷,株式会社 文響社,2021年02月24日,150 p.

[4] 愛知県厚生農業協同組合連合会 豊田厚生病院.“変形性関節症・人工関節置換術”.豊田厚生病院 ホームページ.DOCTOR'S INTERVIEW.https://toyota.jaaikosei.or.jp/frontier/kansetu/index.html,(参照2023年12月01日).

[5] 横須賀市立市民病院.“再生医療 PRP療法からAPS療法へ”.横須賀市立市民病院 トップページ.当院からのお知らせ.APS療法とは.2022年11月08日.https://yokosuka-shimin.jp/data/media/yokosuka_shimin/page/about/feature/feature08/pdf01.pdf,(参照2023年12月01日).

[6] 日本コンベンションサービス(JCS)株式会社.“4年に一度開催される「健康未来EXPO 2019」は、大盛況の中でフィナーレを迎えました”.JCS トップページ.ニュース.イベント&講演.2019年05月16日.https://www.convention.co.jp/news/detail/contents_type=15&id=541,(参照2023年12月01日).

[7] 学校法人 東京歯科大学 市川総合病院.“再生医療PRP・APSについて”.東京歯科大学 市川総合病院 ホームページ.診療科・部門.診療科.診療科一覧.整形外科.https://www.tdc.ac.jp/igh/tabid/852/Default.aspx,(参照2023年12月01日).

[8] 第31回日本医学会総会2023東京 展示事務局.“第31回日本医学会総会 博覧会 ホームページ”.https://tsunagu-iryo.jp/minna-expo/,(参照2023年12月01日).

[9] 学校法人 順天堂 順天堂大学医学部附属 順天堂医院.“再生医療の取り組み”.順天堂大学医学部附属 順天堂医院 トップページ.順天堂医院について.順天堂の取り組み.https://hosp.juntendo.ac.jp/about/attempt/prp.html,(参照2023年12月01日).

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