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深層学習のプリファードネットワークス社の本を読んで、もしかしたら凄いロボット会社になるかもと思った。

コロナなどによる怒涛の年度末、年度初めもようやく諸々落ち着くというか落ち着かないのが定常になって、本を読む時間とかが確保できるようになってきたので、気になっていたプリファードネットワークス(PFN)創業者の西川さん・岡野原さんの本を読んでみました。かなり散文になりますが、忘れないうちに心に残った点をメモしておきたいと思います。ロボット関係の皆さんは少なくとも「Chapter.8 【未来】AIとロボット、我々が見据える未来予想図」だけでも読んでおいた方が良いかと思うほど、コンピュータ屋さんから見たロボットについて書かれている面白い書籍でした。

プリファードネットワークス(PFN)とは

まず簡単にご紹介。人工知能(AI)とかに少しでも興味がある人であれば、必ず知っている会社と言っても過言ではないPreferred Networks社。深層学習技術をコアとした数々の取組みは紹介するまでもないと思いますが、深層学習を使いやすくするためのフレームワーク「Chainer」を作ったり、ファナックと組んで産業用ロボットの制御性能を上げたり、トヨタと組んで自動運転をやったり、中外製薬と創薬関係の研究開発をしたりと、兎に角、日本を代表するユニコーン企業。

ロボット関係を生業にする私にとっては、CEATEC2018で発表された全自動片付けロボットや、AmazonのロボットコンテストでのPickingロボットが印象的な会社です。圧倒的な技術力、という言葉に尽きる会社だと思っています。

ざっくりした感想

そんなPFNの創業者2人による著書ですが、まず思ったのは、

・思った以上に「ロボット」という言葉が出てくる
・西川さんの技術で社会を変えるという強い意志を感じる

という本でした。正直、PFNがここまでロボットについて考えているとは思っていなかったですし、その技術力、思想力、資金力があれば、もしかしたら本当にロボットのコストをガツンと下げて、10万円くらいの高性能ロボットを実現するのではないか、とワクワクしてしました。

『自動車の自動運転の研究もロボットのためにある』という言う人は初めて見た気がします。車の自動運転の手前の出口として移動ロボットはある、という人たちは沢山出会ったことがありましたが、逆はあまり見覚えがありません。まぁ、でも確かに今後車の数が2倍に増えることはなさそうですが、ロボットの数が100倍、車の台数くらいまで伸びる可能性は、それなりにありそうな気がします。

特に心に残ったフレーズ達

そんな視点で読んだこの本の気になったフレーズ・視点を並べてみて、それぞれに感じたことを纏めておきたいと思います。順番は基本的には本の中でキーワードが出てきた順ですが、同じようなところは纏めています。

①パソコンが身近になったようにロボットが身近に来るときがくる。Googleに勝つにはネットではなく機械のデータとして、IoTに早い段階で注目。そして、ロボットは強化学習がフィットするフィールドと直感。

おそらくかなり早い段階で上記の視点に気づいていた感じで、ここのセンスは脱帽。

②ロボット導入のカギは「環境の抽象化」 

動作環境のチューニングの手間を減らさないといけないということだと思いますが、ここは完全に同意。ただし、どこまで抽象化できるのか、というところは深層学習などの汎化性能に掛かっていて、これができたら本当にスゴイ!

③トヨタとの共同研究における知財はクロスライセンス っぽい

おそらく色々な条件などはあるのではないかと思いますが、クロスライセンスっぽい印象を受けました。しかも、共同研究の前から持っているバックグラウンド特許なども対象にしているっぽいです。それは想像するだけで大変そうな交渉でもありますが、PFNの技術力が成しえる内容かもしれません。

④ロボット開発ツールも開発していく

楽しみです!

⑤量を上げた後に質の変化が起きる

ここはある種、PFNの戦略のようにも感じるところ。量は時間が解決する問題が多いということ。この視点はCMUの金出先生も仰られている点だと思いますが、その戦略を選択できるような「資金力」を意図的に準備し続ける構想力が最大のポイントだと思います。

ここからは主にロボットに関することですが、

工場を見学したときに、自動で部品が届き、結合される様子を見て、「工場自体が自動化されていてマイクロプロセッサーみたいだった」という感想

コンピュータの専門家として、発想の起点が特にソフトウエアとなっており、『ロボット全体を計算機として捉える』視点というのは、今まであまりなかったのではないかと思います。もちろん、ロボット研究者の中にもソフトウエア技術の先生方は沢山いらっしゃると思いますが、「完全にソフトウエアのみにフォーカスした研究」もしくは「ハードウエアの制約を強く意識した上でのソフトウエアの研究」なような気がしています。(ここは私が十分に専門家ではないので、理解が間違っている可能性はあります)

『ソフトウエア・コンピュータ視点からロボットを捉え直し、その上でハードを含めて開発もしていく』。それがこの本のロボットに関するメッセージだと理解しました。その上で、

⑦ロボットハンドを開発している

始めはロボットハンド用の認識ソフトを開発しているという意味かなと思いましたが、どうやらハンドハードそのもの、もしくはアクチュエータレベルでの開発まで取り組もうとしていくという意思を感じました。

⑧システムインテグレータ(SIer)の存在に言及

ここでロボットへの取組みの事業としての本気度を感じました。本気で業界をひっくり返してやろうと思っているような気がしました。ハードをロボットメーカが作り、現場導入は手間をかけてシステムインテグレータを行うという業界の常識を、ソフトウエアの力、ソフトを活かしたハードの力で、いつでも・どこでも・だれでも簡単に使えるようなロボットにより全く新しい世界を目指しているのだと思います。これは現在ロボット系のソフトプラットフォーマとなりつつあるMUJIN社などは違うアプローチで、(目指す分野がすこしちがうかもしれませんが)この辺りは覇権争いが起きるかもしれません。

⑨ロボットのネットワークを分散処理の神経網とする

詳しいところまでは十分理解できませんでしたが、たぶん単純にアクチュエータ毎に分散処理して繋ぐということだけではないような感じがしました。そして、PFNにとってはロボットも単なる通過点なような気もしました。センサ、知能、アクチュエータが揃ったロボットは、彼らにとっては「小さな世界」なのかもしれません。世界を大きなコンピュータと捉えて、どのようなアーキテクチャにすれば、社会を変えられるのか、ということを見据えている気がしました。

最後に

同じロボット業界で働く身としては、ロボットに対する関発スタンスだけではなく、エンジニアとしても、マネジメントサイドとしても、学び続ける重要性、そして学び続けられる環境を作る重要性に改めて気づかされ、非常に刺激を受けました。

読み物としては、非常に読みやすく、3時間くらいで十分読めると内容です。機械学習などに全くの知見がない方には少し小難しい内容があるかもしれませんが、それでも十分にPFN社が何をしようとしているのか、その想いと大事にしていることは十分に理解できるものだと思います。

私の部署のメンバーには伝えましたが、企業研究者の方は、上記の本に加えて、下記のPFNフェロー(元IBM)の丸山宏さんの書籍「新 企業の研究者をめざす皆さんへ」も一緒に読むことをお勧めします。企業研究者として、どのようなテーマ設定し、研究開発を進めていくべきなのか、新入社員でもわかるレベルで丁寧に書かれています。このような大企業出身の高いマネジメントレベルの人々も上手く融合されていることで、PFN社はより確固たる技術をベースとした社会変革企業になっていっているのだと思います。

では、また来週。

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