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読書感想文㉚

 阿部暁子さんの『パラ・スター ~Side宝良』を読みました。カフェで読みましたが、人目をはばからず涙してしまいました。マジで泣けます。

 この小説は、『本の雑誌が選ぶ文庫本ベストテン第一位』『2020年オリジナル文庫大賞』をダブル受賞しました。

 『パラ・スター』は、車いすテニスを舞台に、東京パラリンピックの代表候補としても注目される君島宝良と、車いすメーカーに勤める山路百花の物語を【Side宝良】【Side百花】の2巻で綴るパラスポーツ小説です。
 【Side百花】が第一部に当たるそうですが、先に【Side宝良】を読んでしまいました(笑)
 【Side宝良】でも十分泣いてしまいましたが、【Side百花】はさらに泣ける作品で、途中からは山場続いてずっと泣いてしまうそうなので(Side宝良の解説より)読むのが楽しみです。

 今回は【Side宝良】しか読んでいませんが、ジャパンオープンの試合の場面では、宝良目線だけではなく百花目線の描写もあり、二人は意図せずとも時を共有しており、互いを思い合っていることは容易に理解できました。

 あなたのために、と言われるのが小さな頃から嫌いだった。その人が何かをすることの責任を自分になすりつけられているような気がして嫌いだった。今でもそうだ。ひねくれていると自分でも思うが、それが自分という人間なのだ。
 だからモモ、あんたのために戦うとは決して言わない。
 私は、私が勝つと泣きそうになって喜ぶあんたを見たい自分のために戦う。
 私が勝つことがみちるの心を動かすことを願う私のために戦う。
 昨日あたりからずっと青いままの志摩の顔色を戻したい私のために戦う。
 私は誇りを持っていきたい私のために戦う。

 みちる…車いすユーザーの小学校6年生の女の子
 志摩…テニスクラブのコーチ

 ☝はこれ以上あとがないという状況の宝良の心境です。
 百花、みちる、志摩のために戦っていても、あくまで戦っているのは「私のため」だと考え、責任逃れを一切しようとしない生粋のアスリート宝良には頭が上がりません。

 ある出来事が原因でこの部分が印象に残りました。

 先日、本屋で新しい本を探していると近くで車いすに乗っているおばさんが郵便局の場所や行き方を店員さんに聞いていました。
 よく行く場所だったので、僕がおばさんを郵便局まで案内することになりました。郵便局まではそこまで遠くない距離だったので問題なく案内でき、おばさんも喜んでくれました。
 おばさんと別れた直後は「おばさんが喜んでくれてよかった」という気持ちでした。
 しかし、時間をおいて振り返ってみると、車いすの方を助けることで「自分がいい人だと思われたい」という気持ちが心にあったのではないかと思えてしまい、モヤモヤします。
 困っている人を助けるという誇れる行動をした、自分が良く見られるためにおばさんを利用してしまった、どちらの気持ちも心の中にあります。

 どういう気持であったとしても、困っている人を助けることは当たり前です。「自分のために」という気持ちがあってもいい、困っている人が問題を解決できれば、その人のためにもなっているのだから。

 「車いすに乗っていることは、目が悪い人がメガネをかけていることと何ら変わりはない」という至極当たり前のことに気付かせてくれる小説でした。

 読んでいただきありがとうございました。

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