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【映画感想】『ヒート』 仕事に熱中するギラギラした男を堪能する※ネタばれあり

今回は男が憧れる男の代表格、アル・パチーノとロバートデニーロの共演作、『ヒート』の感想です。仕事に情熱を注ぐ男たちのギラギラしたかっこよさをたっぷり堪能できる映画です。

表裏一体な2人の主人公

この映画の主人公は2人。デニーロ演じる冷静沈着な犯罪グループのボス、ニール。そして、そんな凶悪犯を捕まえることに自らの人生を捧げる刑事、ヴィンセント。こちらはアルパチーノが演じる。犯罪者と刑事という相対する立場にいる2人だが、彼らの生き方は似ている。

ニールはいつでも高飛びできるよう、私生活において面倒な関わりを持たないようにしている。一味の他のメンバーには嫁や子供がいるが、当然ニールにはそういった存在はいない。

一方のヴィンセントも2度の離婚歴を持ち、現在は3人目の嫁ハンナとその連れ子と暮らしている。が、ハンナとも離婚の危機に瀕している。

仕事ではギラギラした目つきで部下に指示を与え、組織を引っ張て行く2人だが、家に帰れば孤独で虚ろな表情になる。

すべては2人の仕事観が原因だった。

「好きなこと、やりたいこと=仕事」な男たち

好きなことや、やりたいことが仕事になっている人は幸せだと思うし、輝いて見える。

しかし、何か一つのことに熱中し過ぎれば、それ以外のものを犠牲にしなくてはならなくなるものだ。ニール、ヴィンセントにとって、それは「幸せな家庭生活」だった。

しかし彼らにとって、それはあまり問題ではない。カフェで二人だけで会話するシーンでは、お互いの生き方に共感しているように見えた。そして二人とも、別の生き方を模索する気すらないことを認めていた。

幸せな家庭を持つことは難しい。それでも自分の生き方を変える気はない。孤独な目を見せる二人だが、自分の人生に満足しているようにも見えた。

そういった生き方をする男はかっこいいと思うし、憧れを感じてしまう。

不幸な女性キャラクターたち

と、ここまで主人公たちをメインに感想を書いてきたが、彼らを取り巻く女性たちは、本当に不幸な思いをしている。

ヴィンセントは仕事に熱中するあまり、夫婦の時間はほとんど無し。ハンナはヴィンセントと少しでも会話し、何かを共有しようと、事件についてヴィンセントに尋ねるが、

「仕事に対する孤独な苦悩が仕事への緊張感を保つ」

という名言と共にそれを拒否する。

仕事に対する心構えとしてはとても勉強になるが、ハンナをピシャリとはねつけるような態度に、3度目の離婚も間近だと思わずにはいられなかった。

一方のニール。こっちはもっと最悪だ。

「面倒な関わり」を持つことを避けてきたニールだったが、カフェで知り合ったイーディを本気で愛するようになってしまう。職業はセールスマンと嘘をつき仲を深めていったが、銀行強盗失敗の後、犯罪者であることを明かした上で国外逃亡についてきてほしいと口説く。

しかし、渋々それを承諾したイーディとの逃亡の道中、ヴィンセントに見つかったニールは、泣く泣くイーディを置いて単身での逃亡を決意する。

散々振り回された挙句に捨てられるという、イーディにとってはあまりにも不憫なシーンだった。ニールは寂し気なイーディへの共感から彼女に好意を抱いたのだと思うが、ニールのこの時の心情をもう少し時間を割いて描いてくれると、もっとニールに感情移入できたかもしれない。

アクションだけの映画じゃない

ニールの行動は論外として、ヴィンセントとハンナのいざこざは世間でもよくあるものに感じた。私の個人的な考えではあるが、男女間の違いとして、男性は好きな人と一緒の空間にいるだけで満足するが、女性はコミュニケーションや会話を求める人が多い気がする。この違いが原因で、喧嘩するカップルや夫婦は多いのではないか?

そういう私も同じ空間にいれば、別々のことをして会話がなくても割と満足してしまうのタイプなのである…

ニールを追うに連れて捜査が熱を帯びるのとは対照的に、家庭生活はどんどんと破滅に向かうヴィンセント。アクションシーン以外にも、こうした人間模様を描いたことで、この映画のドラマ性が増したのは間違いない。

最後に

女性目線ではなかなか最悪な映画だと思うが、(同性から見てもニールは最悪だが)自分の信念に忠実に生きるかっこいい男の生き様は終始堪能できる。

もちろんアクションシーンも抜群で、銀行強盗からの市街地での銃撃戦は、アクション映画の中でも屈指のシーンだと思う。脇役にも良い俳優が多く出演しているので見どころはたくさんある。さらに約3時間の長丁場だが、テンポが良く、ドラマ性もあるので見終わった後の満足感は大きいはずだ。

「ギラギラした男」が見たければ、間違いなくおススメできる。

PS:『ケープ・フィアー』の感想でも書いたように、つくづく私は何かに熱中しているギラギラした男に憧れを抱いているのだなぁとも感じた。

ちなみに・・・

監督のマイケル・マンがこの映画の前日譚を描く計画を最近明かしたそうだ。どのキャラクターの前日譚なのかは分からないが、私としては今作でイーディを振り回したニールを掘り下げてほしいと思う。

彼は、ヴィンセントと違い、行動に一貫性がなかった。イーディの件しかり、グループを破滅に追いやったウェイングローへの復讐を土壇場で決意した件にしかり、計画的に動き、合理的に物事を判断するニールにしては感情的に行動してしまうことがあった。こうした彼の行動における矛盾点が、かえって彼のキャラクターに深みを与えた。ニールという人物がいかにして生まれたか。ぜひとも描いてほしい。

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