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【映画感想】『仁義なき戦い』仁義なき戦いの中で仁義を貫き通す男※ネタバレあり

裏社会をテーマにした映画は日本のみならず世界中に沢山あり、一つのジャンルとして確立されている。ハリウッド映画からは『ゴッドファーザー』や『スカーフェイス』など改めて説明する必要が無いほど有名な作品があり、ハリウッド以外だと、香港を舞台にした『インファナル・アフェア』シリーズが有名で、「香港映画」を世界中に知らしめるきっかけとなった作品ではないか。

では、日本を代表するマフィア(ヤクザ)映画は何か?と聞かれると、その筆頭として挙がるのは『仁義なき戦い』シリーズだろう。
ヤクザの汚い権力争いを描いたこの映画は、他の有名なマフィア映画と比べてもまったく遜色ない出来だと思う。そんな『仁義なき戦い』シリーズの一作目の魅力を書きたいと思う。

ヤクザ映画=バイオレンスな人事劇?!

洗練されたストーリーと言いつつも、そもそもこの映画は第二次世界大戦後の広島で起こった実話をもとにしている。敗戦後の日本の殺伐とした雰囲気の中で「やるかやられるか」のリアルなヤクザの世界を感じることができる。そこにはヤクザ映画のポジティブな側面として描かれる「友情」や「兄弟」、「家族」といったキーワードはほとんどなく、まさにタイトルのごとく、「仁義のない」ドロドロとした汚い世界があることを感じさせる。

戦地から帰ってきた広能(菅原文太)は呉で、友人が喧嘩で怪我をした場面に立ち会う。その報復として代わりに広能が喧嘩の相手を射殺した。友人は山守組の人間であり、それがきっかけで広能は山守組の組員となる。山守組が組織として成長していくのに伴い、他の組である土居組や市議会議員など権力に群がる多くの人物が登場し、争いが勃発。果てには山守内部での抗争も発生する。

組織間の利権争いや組織内部での出世争いはマフィア映画でよく描かれるテーマであり、物語を面白くする一つの要素である。様々な登場人物がそれぞれの思惑を胸に敵対する人間を退け、生き残りをかけて戦う様は見ていて面白い。血で血を洗う抗争のシーンはアクション映画としても楽しむことができる。

ただし、話の構造としては実は普通の会社や企業を舞台にしたドラマで描かれるような利権、出世争いと同じであり、その手段が銃撃戦や暗殺といったバイオレンスな手法になっただけなのである。だから私はマフィア・ヤクザ映画は「バイオレンスな人事劇」を描いたものだと思っている。利権や出世争いという物語としての純粋な面白さにプラスして、手に汗握るアクションシーンがある。そんな一粒で二度美味しいのがマフィア映画の特長であり、「マフィア映画」というジャンルが確立されている要因ではないか。

『仁義なき戦い』は正にマフィア映画の真髄を堪能できる作品なのだと思う。

「バイオレンスな人事劇」を盛り上げる登場人物

この「バイオレンスな人事劇」は登場人物たちの個性が強いほど、その面白味が増すと感じる。

まずは山守組 組長の山守(金子信雄)だ。序盤は頼りなさそうに見えるのだが、実は非常に悪知恵の働く男で、狡猾な立ち振る舞いをする。

広能の忠誠心を利用し、敵対組織の組長 土居を暗殺させた。土居の暗殺により広能が刑務所にいる間に起きた新開と坂井(松方弘樹)の内部抗争では組長であるにもかかわらず、その立場をのらりくらりとはぐらかし、お互いが殺し合いに発展する様を静観。その後、新開を抹殺し、力をつけた坂井を出所後間もない広能に再度暗殺させようとしたりと、影で暗躍し続けた。まさに仁義なき男であり、この映画の準主役級の存在感を放つ。

また序盤こそ気弱で軟弱そうな役回りだった槇原(田中邦衛)が終盤に山守の側近として権力者になっていたのも意外性があり面白い。彼らのような老獪な男たちが映画のタイトル通り、「仁義なき戦い」を演出した。

しかし、広能のように仁義を通す登場人物もいる。

土居組の若杉(梅宮辰夫)は、山守組と敵対関係になった後も広能との友情から、組同士の仲を取り持つように動いた。また暗殺された坂井も少々気性が荒いものの、基本的には組長の山守を立てて組の方針に沿った行動を心掛けており、暗殺しに来た広能を殺さずに帰すなどの温情を見せる。

結局は若杉と坂井も両方、山守と槇原の手によって抹殺されてしまうところに仁義を通すかっこいい男の悲哀を感じてしまう。逆に山守や槇原が生き残って、権力を強大にしていく様はどこか現実的な感じがした。

「仁義を通す男」が「仁義なき戦い」に巻き込まれる

広能は権力争いに全く興味が無いように見え、野心的な振る舞いをほとんど見せない。人と人との繋がりに重きを置いているようで、自分のために何か
してくれた人に対し忠義を尽くす、義理堅い男だ。

刑務所からの保釈のために動いてくれた土居組の若杉や、保釈後に面倒を見てくれた山守組に対して恩義を感じており、双方の顔を立てるべく、奔走する。

そんな広能を山守は再三に渡って利用するのだが、広能も最後まで組長の言うことを黙って聞くわけではない。坂井の暗殺を頼まれた際は、出所後間もないこともあって考える時間が欲しいと言い、状況を自分の目で見ることを選んだ。結果的に山守と坂井の双方に非があると判断し喧嘩両成敗として叱責するあたり、自分の信条に沿って動く男であることが伺える。たとえ組織の組長、山守の意向に反してでも。

仁義なき戦いの中で仁義を通し続ける広能の生き方は、汚い戦いの中で際立っており、かっこよく映る。特に最後の坂井の葬式シーンにおける、山守との掛け合いは痺れた。色んな映画を見てきたけど、一番のお気に入りと言ってもいいかもしれない。それくらいかっこいいシーンだった。

最後に

実話をもとにしているだけあって、現実世界の汚い潰し合いが堪能できる。また、出てくる俳優は本当にかっこよくて、全員ギラギラしている。今、リメイクを作るなら、この演技ができる俳優っているのだろうかと思ってしまった。

仁義なき戦いは全部で5作あり、このバイオレンス人事劇はまだまだ続いていく。果たして広能はこの仁義なき世界でどう生き残っていくのか。楽しみである。




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