さよならポケモンGO

お別れをしようと思う。
決して君が悪いわけじゃあないんだ。
むしろ君は世界中の人を幸せにしたし、ボクにだって幸せな時間をくれた、とても素晴らしいアプリケーションだよ。
でも、ボクは君と別れようと思う。
それはボクの勝手な事情によるものだから、どうか気にしないでほしい。

ただ突然別れを切り出しておいて、理由も告げないのは、確かにフェアじゃないよね。
君がローンチされたとき、ボクにはパートナーがいたんだ。とても聡明で美しくて、ボクなんかにはもったいない女性。結婚もしてた。
二人でポケモンを捕まえに行って、一時期は彼女の方がボクよりレベルが高かったんだ。
でも二年前の冬ごろかな、彼女のレベルはあまり上がらなくなってきて、ボクが追い越していったんだ。というのは、彼女はだんだんと外出を控えるようになったんだ。ボクが彼女の端末も持って散歩したり、バトルするようになったんだけど、それってあまり楽しくないんだよね。煩雑だし。
そして春が来て、ボクももう君と遊ぶことはなくなってしまったんだ。
彼女がボクと一緒に出かけなくなったのは、お別れの準備に入ったってことだったんだよね。

それは、ボクにも分かってたんだ。
いつかその日が来るってことは、十年くらい前から心の隅の引き出しに隠しておいて、時々覗いてたりはしてたんだ。
でもどうすることもできなくてね、彼女はガンで死ぬんだって、満開の桜を見ながら泣き崩れたのを、昨日のことのように思い出すんだ。

その日から彼女をどう見送るかってことで精一杯になってしまって、君のことも忘れてしまってたんだ。ごめんね。
その年の秋の末に彼女がボクの元を去ってからは、ボクは世の中のありとあらゆるものがつまらなく感じたりする、二次的喪失って状態に陥ってしまってね、いまでもそれに苦しんでるんだ。

君にはとても楽しい時間をもらったんだけど、もし君を立ち上げてしまったら悲しい日々も同時に蘇ってくることになってしまうだろ?

だから、君とはサヨウナラしなくちゃならない。
もしまた君と遊ぶときは、レベル1から始めるよ。
それでもいいよね?
君はそんなことに頓着するようには、見えないもん。

じゃあ、またね。

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