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エッセイ/お金が好きだ

貯金が好きだ。貯金箱も、なんだか好きだ。
もしものときの備えがあることは幸福だと思う。備えあれば憂いなし。
小学生の頃『十五少年漂流記』などの本にハマった私は、自分が無人島に行くと仮定して、リュックに詰めるべきものをノートいっぱいに描いてはニヤニヤしていた。
なお体育の成績表が5段階の3である私はおそらく無人島で生き残れないであろうことは、あえて考えないようにしていた。
「備えること」を考えるのがただただ楽しかった。

貯金箱も貯金も好き。
そもそも、お金が好きだ。
だけど、私がそう言えるまでに、かなり時間がかかってしまった。

4年程前、私は入社3年目にして仕事を辞めた。結婚をするために、数百キロメートル規模の引っ越しが必要だったからだ。
そして知った。貯金はあっという間に減るものだ。
前年所得に基づいて請求される住民税等々。引っ越し後の諸経費。
夫は毎月の家賃や光熱水費を払ってくれたが、まだまだ若手社員の夫の月給に頼りすぎるのも申し訳ない気がしてしまって、大人2人分の食費も大部分は私が貯金から出していた。
実際、私を養うプレッシャーを夫が感じていることは感じていた。お金の話をすると彼が不機嫌になることも幾度かあって、私は余計に萎縮した。
就職活動はしていたが、将来のビジョンも描けず、前職がいわゆるブラック企業だったこともあり、考えすぎてしまってなかなか前に進めずにいた。

そうしているうちに数ヶ月。残金は0に近づいてゆく。入社1年目から頑張って返還していた奨学金も、泣く泣く猶予の申請をした。泣く泣く。文字通り、悔しくて悔しくて、号泣しながら申請用紙を記入したのを覚えている。
ゴリゴリ減っていく貯蓄に、私の心も削られた。

そんなとき、中国人の女の子と友達になった。
仕事の話、結婚の話、たくさん話す中で、ふと彼女は言った。
「私、お金大好きだからね」

あ、それ言っていいんだ。
それがまず最初に出てきた、正直な感想だった。

それから数日後、私は派遣会社に登録してすぐさま働き始めた。一生そこで働くつもりの正社員を目指して就活すると、考えすぎて、進めなくなる私だから。
満足な額ではなかったけれど、私の口座は潤いを取り戻した。食費やもろもろを賄えるようになり、夫とも堂々とお金の話をできるようになった。
正直あのとき第二新卒として就活を頑張っていたら、という後悔はないでもない(その後、非正規社員から正社員に転職するのに少々苦労した)けれど、私の心を守るために必要な行動だったと思う。

お金が好きと言ったらがめつい人だと思われるだろうか、なんて価値観、いつから私の中にあるんだろう。たぶん世間のイメージの影響。日本では特にそういう印象が強いのかもしれない。

でも冷静に考えると、お金があれば人生の選択肢は増えるし、お金の力で解決できる問題もたくさんある。育児や介護の大変さだって減らせるかもしれない。
趣味や余暇だってもっと楽しみが増えるかも。
お金は大事。お金は必要。備えがあることは幸福だ。

言っていい。だから言います。
私はお金が大好きだ。

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