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めげてしまう春の夜は

気付けば来週で3月が終わる。
まだ東京のソメイヨシノはぎゅっと蕾んでいるけど、冷たい風の上には春の空が広がっている。

始まりの季節は、みんな何かを頑張らなきゃいけないような空気を運んでくる。
晴れやかな顔をしていた方がいいような気にさせられて、一斉に前を向いて歩かないといけない気がして、布団を引き剥がされながら叩き起こされるような気持ちになるから、私は昔から春という季節が少し苦手だ。

4月から復職することを決めたけど、もちろん(もちろんなのが辛いが)全然晴れやかじゃない。
怖いし不安で億劫で逃げ出したくなる。

復職と書くとなんだかすごく前向きな一歩を踏み出せた成功者のように見えるけど、そんなことは一切無くて、まだまだ私は頭がざわざわと落ち着かない。

休み始めた頃より日常活動への不自由がなくなって、体力と気力が戻ってきて、脳が正常な判断を下せる部分が増えたことは確かで回復していることは間違いないと思う。


でも「元気になった」と一言で言い張れるほど、多分私は元気じゃない。


出来ることが増えて、それによって安心して生きられるようにはなったし、休んだおかげでブレーキを踏むことを習得したけど、じゃあもう事故らないかと言われたらそんな自信はない。


「大丈夫?」と聞かれたら「うん、大丈夫!」と言えてしまうけど、「ほんとに大丈夫?」と念を押されたら「…うん、ありがとう!」と誤魔化してしまう、そんな感じ。

無理をせずにちゃんと生きれるだろうか。


街を歩く人がみんな頑張っているように見える春は、いつもより夜が辛い。
始まりを頑張る人たちから無意識にエネルギーを吸い取られてしまうような感じがしてめげてしまう。

背筋を伸ばさないといけないような追い風に負けてしまいそうで、弱音がぽろぽろ溢れてくる。


春だからって、みんなが前を見て始まる訳じゃない。
止まっている人も、足取りが遅くなる人も、始まるけど気が進まない人もいる。

どんな人にとっても平等に訪れてしまう季節に、自分の心を乗っ取られないようにしたい。


日が長くなって気温は少しずつ暖かくなるけど、夜は嘘みたいに冷たくなる難しい季節に、私は私の一歩を、人より遅くて力が入らない一歩を、どうか見失わずに歩けたらいいなと思う。

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