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【歴史本の山を崩せ#042】『原敬』清水唯一朗

≪平民宰相の足跡をたどる評伝≫

本書の著者が明治以降、大衆的な人気がある政治家として挙げられているのが西郷隆盛、大隈重信、犬養毅、尾崎行雄、浜口雄幸ら。
ところが、彼らの事績を見てみると浜口(海軍軍縮)以外は政治的な実績を遺せていないという。
確かに言われてみればその通りです。

一方で、大日本帝国ではじめて爵位を持たない総理大臣となった原敬は、平民宰相と持て囃されたものの、先に挙げた犬養や尾崎と比べると人気はいまひとつだったといいます。
現実主義者で実務能力に長けた原には大衆政治家のように理想を煽ることで人びとを熱狂させるような政治手法を持たなかった。
あまりにも政治性が強かった原の真髄は国民から見れば怜悧なものと映ったことでしょう。
とくに本書の中でも原敬との政局が描かれる大隈重信は両者の違いを際立たせています。
原はその政治力・行政力を発揮することで、政党政治を敵視していた元老・山縣有朋に日本の将来を任せられる人物と認めさせるほど。
テロによって不慮の死を遂げたとき、山縣の落胆ぶりは凄まじく、その死を早めるきっかけにもなったといわれています。

明治新政府から見て「賊軍」の出身。
新聞記者、官界入りを経て政党政治家へ。
その間、井上馨や伊藤博文との知遇を得て、陸奥宗光から多くの薫陶を受ける。
このあたりの遍歴や人脈模様はなかなか面白いです。
政党政治家として磨かれ、円熟していく様も注目。

もし、彼がテロに遭わずにその後も生き続けることができたら…
元老になる可能性が高かったといわれる原敬。
西園寺公望の一人元老体制にもし抜群の政治力を持っていた原が加わっていたら…
思わず禁断の「歴史のif」を掻き立てられてしまう。

彼の事績を通じて、政治家の歴史的な評価というものが大衆人気や派手な政策だけでは測りえないことを肝に銘じたいと思わされます。

『原敬』
著者:清水唯一朗
出版:中央公論新社(中公新書)
初版:2016年
価格:900円+税

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