見出し画像

チョコレートの食べ方(雑記)

 夢の中で、チョコレートが私を食べるのです。
 それがチョコレートだと気づくのは大抵、もう逃げられないくらい接近された後です。だから、逃げなければと思った頃には時すでに遅し。ぱっくりと食べられてしまいます。
 私を口に含むまでは早いくせに、嚙み砕いて消化する段になると急に緩慢とした動きになります。
 ゆっくり、ゆっくりと、まるで私たちがチョコレートを食べる時みたいに時間をかけて食べます。
 目の前は真っ暗です。チョコレート自体は茶色ですが、その中は光が入ってこないため、黒一色。
 何も見えない世界の中で、じわじわと消化までの準備が整っていきます。
 体の関節がゆっくりと離れていきます。痛みはありません。
 ときどき離れた部品が、まだ残っている私の一部に触れます。両方に触覚が残っているため、少しくすぐったいような、不思議な感じがするのです。
 消化され始めると、その部分の感覚が少しずつ無くなっていきます。けれど私はそんなことお構いなしに、その流れに身を委ねます。
 なぜかと言えば、それが心地よいからです。
 まるで、極寒の外から帰ってきた後に入るお風呂のようです。
 目を閉じ、じんわりと温かくなっていくのを感じながら身を委ねる。これほど幸せなことはありません。
 そして最後に脳が消化されます。頭蓋骨もすでにとろとろと溶けだしており、脳はむき出しです。消化され始めると、脳とチョコレートが混ざり合う感覚があります。後頭部の、ちょうど両耳の付け根から指三本分内側に入った部分でチョコレートの溶けるような感覚がします。あくまでそんな気がする、という程度ですが。
 そこから覚醒、つまり目が覚めるまではあっという間です。景色が一瞬で白くなり、いつもの、あ、目が覚めた。という感覚とともに体が動かせるようになるのです。
 そんな夢を見た朝は、いつもチョコレートを食べます。なぜって、結局、私が食べられてばかりでは面白くないからです。

この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?