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スターピン(雑記)

 夜空は様々な思い出を忘れないように取っておくための、コルクボードだった。
 一面に広がる星一つずつに、過去の記憶が留められている。
 楽しかったこと、嬉しかったこと。
 悲しかったこと、悔しくて、怖くて眠れなかった夜のことも。
 それら全てが、昨日のことのように思い出せるように、星々がピンになって、記憶が無くならないようにしている。
 都会の空は狭い、と、故郷の知り合いが話していた。僕は、確かにそうかも、と答えた。
 ビルに隠れた夜空は、とても遠くにあるように感じる。
 無数のビル群に押し上げられた空は、どこまで手を伸ばしても届かない場所にある。
 記憶を留めておくための星も、全て抜け落ちてしまったみたいに、どこにも見当たらない。
 街の灯りをその代わりにして記憶を繋ぎとめる。けれどうまくいかない。すぐに記憶同士が絡まって、うまく留めておくことができない。
 そんな時は、明かりの少ない場所に出掛ける。なるべく空が広い場所。
 室外機の熱も、高架下の喧騒も、早朝、かすかに残っている前日の夜の気配も、嫌いなわけではないけれど、ときどきどこか、こことは別の場所に、過去の記憶を求めたくなる。
 夜の公園。散歩をしながら空を見上げると、今でも懐かしい思い出が無数の星々で留められている。

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