おばあちゃんとかもめ(ショートストーリー)

 一羽のかもめが青色をしたチョコレートを運んできました。その色はまるで青空のようで、かもめを見つけた少女はとても喜びました。
 けれどどうして、かもめがチョコレートを持っていたのだろう。
 少女はその理由を考え始めました。
 今よりずっと小さかった頃、おばあちゃんから聞いた話がありました。
 海で亡くなった人はかもめになる。
 そんなこと、本当にあるのかな? と少女は思っていました。けれど、今回のかもめはもしかしたらもともと人間だったのかもしれません。
 なぜって、チョコレートなんて人間が作った食べ物を、鳥が突然持ってくるはずがないからです。
 だから例えば、人間だった頃の記憶を頼りにチョコレートを探し出し、ここに持ってきたのかもしれません。そうすれば、不思議に思える行動にも合点がいきます。
 けれどそうすると、今度はなぜチョコレートをここに持ってきたのかが分かりません。
 ここは小さな小さな港町。そんな場所に、一体どんな思い入れがあって、やってきたのでしょう。
 ぼんやりと空を眺めながら考えていると、思い出したことがありました。それは少し前に亡くなった、おばあちゃんのことでした。二つ、思い出しました。
 一つは、おばあちゃんは大のチョコレート好きだったこと。
 もう一つは、時間があるときはいつも、空を眺める習慣があった、ということ。
 おばあちゃんはチョコレート好き。そして、空をよく眺めていました。そのことを思い出した時に、少女は思わず声を上げました。それはかもめに対する問いかけでした。
「もしかして、おばあちゃん?」
 空を飛ぶかもめは何食わぬ顔でなおも飛び続けます。そんなかもめの姿を眺め続けながら少女は、もしそうならいいのに、と考えていました。

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